母の入院後、この頃はコロナ渦の為に面会は出来ませんでした。 

私は黙々と部屋の掃除!カーテンを変えたり、障子を張替えたり、ここぞとばかりに『危ないから』を理由に、要らないものは捨てまくりました。 


 そして1ヶ月、リハビリ病院への転院が決まり、介護タクシーで母を送り届けることになりました。 

 軽い認知症を発症しているとは聞いてましたが、先生からの話も一度電話で聞いたのみ。

 看護師さんからは、それほど重症ではないと聞いていました。  

 

 エレベーターが開き、ストレッチャーで運ばれて来た母の顔を覗きこみます。 

「久しぶりだね」と、声をかけたら、母は最初ボーッとしていて、いきなり大きく目を見開きました。 

「あんた!」と、ビックリするほどの大きな酷く掠れた声を上げて、私のマスクを剥ぎ取ります。 

「私だよ。わかる?」話しかけると、私の顔を触り子供のように、わーっ!と大きな声を上げて泣き出しました。人間って本当に、わーっ!て声を上げて泣くんですね。 

「なんでここにいるの?わたしはここでひとりでしぬのに!」と、いつもの3倍の時間をかけて語り、顔を背けます。 

「死なないよ、これからリハビリして元気になるんじゃん!」 

 母の手を握ると、突然頭を上げ「さわらないで!」と、足元の看護師さんに怒鳴り付けました。 

 看護師さんに母の暴言を詫びると、母は興奮して 

「あやまるな!おこるのはちゃんとりゆうがあるんだ!」と私を叱ります。 

 言葉は重く、口調は激しく、人格が変わったように攻撃的です。目は吊り上がっていました。 

「ごめんね、面会が出来なかったからね。一人で知らないところに一ヶ月もいて、不安だったよね?」 

 わんわんと大声で泣く母の腕はアザだらけでした。「このアザどうしたんですか?」看護師さんに聞くと「血液をサラサラする薬のせいで、内出血が出来やすいんです」との返答。 

 その後も苛立ちを爆発させ、誰彼かまわず怒鳴り付ける母を、介護タクシーに乗せ車が走り出しました。 


 ちなみに介護タクシーの費用はストレッチャーでの乗り入れ、5.5キロ走って8500円でした。これからどれだけお金かかるんだろう。不安は尽きません。