母は昔から病んでいました。

仕事から帰ってくると、毎日職場の人の悪口を話し出します。毎日同じ話です。

どこに異動しても、誰々の態度が悪い、意地悪ばかりするって。

「へぇ、お母さんの周りの人は、みんなお母さんのこと嫌いなんだね?どこ行っても嫌われてるね?」

つまり、そういうことでしょ?

母は悔しそうに口許を歪めます。

私にどんな慰めを期待してるの?

反抗期の私は、母を敬うことも守ることもなかった。


そして、夜になるとこれも毎晩のように離婚した私の父親の悪口。 

言わなくても知ってるよ。 

ずっとそこで見てきたんだから。

確かに殴られて痛々しくて可哀想だった。 

でも、貴女(母)だってイライラして私を殴ってたじゃん? 

一緒に父の悪口を言って欲しかったんだろうけど、私は母の話を聞くのがとても苦痛でした。 


 何よりも重症だったのは、片付けられないことです。

 買ったもの、貰ったもの、ポストの中のチラシ、ポケットの中のレシート、何でも床に放り投げてしまいます。

 ジューサーとか出して、バナナジュース作っては放置。数ヶ月経ってホコリだらけになったジューサーには目もくれず、また違うジューサーをどこからか出してきては、また放置。 

花を活けては枯れたまま放置。

花瓶の水はキッチンのシンクに置いたまま何週間も放置。 

蟻が部屋を這っていると、殺虫剤を撒いて死骸をそのまま放置。 

梅酒を浸けたビンが何十個も20年放置。 

グリルで魚を焼けば、そのまま洗わず放置。

イワシを焼いたフライパンを、洗わず平気で餅を焼く。その臭いこと臭いこと……。 

切った爪は床にばらまき、壁のカレンダーの下には毎年変える度に画ビョウを落とし、新しい画ビョウを使う。 

ゴミだけはちゃんと出すから虫が沸いたりはしないけど、子供の頃からこの散らかった家が大きなストレスでした。 

片付けても、片付けても嫌がらせかっ!てくらいに散らかします。 


私が10代で結婚した理由は、そんな母から逃げたかったから。 

親戚にお前は親を捨てるのか!って、怒鳴られたけど、母子家庭の子は結婚しちゃいけないの? 

「あんたが居なければ、粥ママはあんなに苦労しなかったのに」って、そこまで言われて。

 私だって、普通の家庭に産まれたかった。 

 貧乏だからって、学校のプールに沈められて頭を押さえつけられたり、真っ暗な理科室に閉じ込められたり、ランドセルを投げつけられたり、辛い思いをしたのは母だけじゃない。 


私はいつも「可哀想」と同情されていた母を、子供の頃からちょっと冷めた目で見ていました。

可愛げのない娘です。