国土交通省が3月18日に発表した公示地価は、地方圏の地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)でも全用途平均・商業地が28年ぶりに上昇に転じて全国的に地価の回復が広がっているとした。

調査地点2万6000を対象に調べた。1月1日時点の地価動向。用途別に見ると、住宅地は3年連続、商業地は5年連続で上昇した。

上昇の背景としては、景気回復や雇用・所得環境の改善、低金利の下で交通利便性の優れた地域を中心に住宅需要が堅調であることと、オフィス市況の活況、観光客の増加による店舗・ホテル需要の高まりや再開発等の進展によるものだとした。

 

新型コロナウイルスによる肺炎の世界的な大流行が加味されていない想定通りの結果となった。

全国の最高地価は、東京・銀座4丁目の山野楽器本店前で1㎡当たり5770万円(前年比0.9%上昇)となった。大阪圏の最高地価は、大阪市内のなんば・心斎橋エリアの住友商事心斎橋ビルで2870万円(同44.9%上昇)だった。

これら商業地の変動率を見ると、北海道倶知安町南1条西1丁目の57.5%上昇(価格は10万円/㎡)と最も拡大し、沖縄県那覇市久茂地1丁目(45.9%上昇=62万円)、大阪市の住友商事心斎橋ビルが変動率トップ3だった。

都内で最も上昇幅が拡大したのは、浅草1丁目の弘隆ビル(5000万円)が34.0%上昇で全国10位だった。上昇率トップ10には、沖縄県が4地点、大阪府が3地点、北海道と東京都と福岡県が1地点ずつとなった。

いずれも訪日外国人の急増を背景に地価を押し上げてきたエリア。倶知安町のリゾートエリア周辺は、国内外からの別荘や滞在型のコンドミニアム需要が旺盛であり、沖縄県もリゾートホテルなどの開発ラッシュに伴い、建設作業員やホテルスタッフの賃貸住宅の需要が地価を引き上げた。

北海道や沖縄県に限らず、長野県白馬村・野沢温泉村、岐阜県高山市、三重県伊勢市などインバウンド需要を取り込んで地価が上昇している。

住宅地も同様だ。地価上昇率の1位は倶知安町で44.0%上昇、2位も倶知安町(30.6%上昇)、3位に沖縄県糸満市(30.3%上昇)だった。トップ10に沖縄県が4地点、北海道2地点、愛知県2地点、福岡県2地点がランクインしている。

地価の全国最高価格は、東京・赤坂1丁目の1㎡あたり472万円(8.8%上昇)だった。都内で最大変動率も港区で港南3丁目の14.0%上昇(価格122万円)となった。

港南エリアは、山手線新駅「高輪ゲートウェイ駅」の暫定開業やリニア中央新幹線の2027年開業予定を踏まえて、利便性の向上からマンション用地に対する需要が地価を押し上げた。

 

■景気の悪化不安で住宅・不動産業界に暗雲立ち込める

ただし、こうした地価上昇の傾向は、新型コロナウイルスの影響が反映されておらず、この指標から今後どの程度まで地価に悪影響を及ぼしてくるのか、という視点に切り替わっているのが実態である。公示地価は現状を明らかに把握してないものとなった。

今後の地価動向については、新型コロナウイルスの終息にかかっている。その確認は今後の四半期地価LOOKや9月の都道府県地価調査(基準地価)で確認できそうだが、足元の状況を見る限り、向こう数カ月にわたって新型肺炎が収まらず悪影響を及ぼしそうだ。早期の正常化を口にする楽観論を唱える専門家は皆無である。

経済への悪影響を避けられずに、事業停止の長期化に伴って消費の抑制が継続し、企業の収益環境がさらに悪化する。こうした悪循環を受けて給与・ボーナスの削減、人員リストラの足音も立て始める。モノ・サービスが売れずに商業用不動産のキャッシュフローにも大きく影響する。

リストラにより職を追われた人が賃貸住宅の家賃が支払えなくなったり、住宅ローンの返済に窮する人が出始める可能性もありえる。

ちなみに今回の公示地価で下落率が大きかったのは昨年の台風被害に見舞われた地域で目立った。住宅地を見ると、長野県長野市が13.6~13.0%下落し、下落率1位と2位が合った。3位は福島県郡山市で、こちらも同様の台風被害が需要の減退につながった。

そのほか北海道の美唄町や岩見沢、神奈川県三浦市などの地点は、人口の減少と高齢化が進んでいることで地域経済の低迷が響いて下落率ワースト10に入っている。

商業地のワースト1位は北海道夕張市で9.2%下落した。こちらも観光業の不振などに伴う地域経済の低迷や鉄道の廃止などが地価の落ち込みにつながっている。

2020.3.19 健美家様より引用