若者の人口減少による経営の悪化を背景に、〝大学再編〟の動きが加速している。国立大学では4月、名古屋大学と岐阜大学が経営統合し、一つの法人が複数の大学を運営する新しい方式がスタート。

全国では、これに追随する動きが続く。一方、経営の苦しい私立大学も多く、今後、廃学する大学が出てくるのではとも心配されている。

今後の大学が廃学したり、再編のあおりで学生が少なくなったりすれば、大学周辺の学生向け物件の賃貸ニーズはなくなってしまうことになる。投資家は大学再編の動きにしっかり目をこらし、自分の戦略に生かしていきたい。

 

国立大学については、昨年5月、組織のありかたを大きく変える法律が成立した。一つの国立大学法人が複数の大学を経営する「1法人複数大学制(アンブレラ方式)」を可能とした「改正国立大学法人法」が成立したのだ。

アンブレラ方式の第一弾として予定されるのは、今年4月に発足する新法人「東海国立大学機構」だ。名古屋大学と岐阜大学が経営統合して生まれる法人で、機構長には、名大の松尾清一学長が就く。

18歳の人口が急速に減る中、競争力を高めることを狙う。医療、航空宇宙、農学、糖鎖研究の4分野を重点分野として、研究拠点を設けるという。

1年後の2021年4月には、静岡大学、浜松医科大学が統合する「国立大学法人静岡国立大学機構(仮称)」も設立される。両大学を再編し、新たに静岡県内の静岡地区と浜松地区に、それぞれ大学を置くという。

昨年3月の合意書では、①「新法人の傘下における大学間の垣根を越えた分野横断的な連携関係を構築する」
②「両大学それぞれの専門分野を生かした教育・研究を推進するとともに、法人統合及び大学再編を通じた従来にない新たな教育・研究分野の開拓と人材育成を行う」
などとうたった。

このほかにも、奈良女子大学と奈良教育大学が統合し、21年10月をめどに「国立大学法人奈良(仮称)」を設立する。
北海道内の国立大学である小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学も、22年4月に「北海道連合大学機構(仮称)」を帯広市内に作る。業務システムの統合による効率化などが行われるようだ。

私大は33%が定員割れ、廃業も?
18歳の人口は31年に12%減少

また、国立大学どうしではないが、昨年4月には、大阪市立大学と大阪府立大学が運営法人を統合し、「公立大学法人大阪」が誕生した。22年度に両大学を統合することを目指している。

私立大学も、少子化のあおりを受けている。日本私立学校振興・共済事業団による調査「平成31(2019)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」によると、四年制の私立大で、同年春に定員割れした大学の数は、全体の33.0%にあたる194校に上った。

前年度より3.1ポイント低下したとはいえ、今なお、苦境が続いていることは間違いない。あるシンクタンクの関係者は、「このままでは、廃業の道を選ばざるをえない私大が出てくるだろう」と指摘する。

大学がこうした取り組みに追われているのは、少子化を背景に、大学に入学し始める18歳の人口が減ることが予想されるからだ。
リクルート進学総研の分析によると、19年に117.5万人の18歳人口は、31年には103.3万人と、14.2万人・約12%減る見通しだ。地域別には、とくに東北の減少率が大きく、青森(28.8%)、秋田(26.6%)、福島(27.5%)の3県は、25%を超えるとみられる。

 

学生向け物件は退去・滞納リスク少ない
大学の廃業・統合で物件経営苦しく

18歳人口が大きく減る地域では、今後、大学の移転や廃業が有力な選択肢になってくるはずだ。

大学周辺で学生向けのアパートやマンションを経営することには、数多くのメリットはある。新入生なら基本的に在学中の4年間は退去のリスクがない。賃貸契約時には、未成年なので親が保証人になったり保証会社がついたりして、家賃の滞納リスクも少なくなる。

若くて健康なので、高齢の入居者と比べて、孤独死などのリスクが小さいはずだ。着実に収益を上げながら、不動産経営を続けていくことが可能だろう。

しかし、大学が廃業したり移転したり、あるいは大学統合後の学部再編などのあおりで、近くのあるキャンパスに通う学生がいなくなったり少なくなったりすれば、学生向け物件を経営するメリットは、まったくなくなってしまう。オーナーは、家賃がまったく入らず、ローン返済のお金が出ていくだけの苦境に立たされることになりかねない。地域の人口の動きと大学再編の行方を、しっかり見ていくことが肝要だ。

 

2020.3.12 健美家 様より引用