NORIKUMAです。

 

 

 

さて、時期外れの所得税の事案です。先日公表された裁決から。

 

 

 

早速、事案の概要から。

本件は、審査請求人が、令和元年分ないし令和3年分の所得税等について、国外財産等に関して生じる所得の申告漏れ等があったとして修正申告書の提出をしたところ、原処分庁が、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用して過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

国外財産調書の過少申告加算税等の加重措置の事案だ。

国税庁のHPによると「国外財産調書の提出が提出期限内にない場合または提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合(重要なものの記載が不十分であると認められる場合を含みます。)に、その国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れ(死亡した方に係るものを除きます。)が生じたときは、その国外財産に係る過少申告加算税等が5パーセント加重されます。」とある。

 

 

 

この規定は知っていても、知っているのと実際に国外財産調書を作成するのとは大違い。作成する税理士だけの問題ではないからね。相手がきちんと漏れなくこちらに知らせてくれないときちんと作成できない。

 

 

 

 

この事案でも、請求人は、アメリカに不動産・株式・公社債投資信託等を保有していた。国外財産調書は期限内に提出していたようだ。ただ、その後、税務調査を受け、

(イ) 令和元年分

 アメリカの不動産(本件物件)に係る不動産所得の減価償却費の過大計上

(ロ) 令和2年分

 本件物件に係る不動産所得の減価償却費の過大計上

(ハ) 令和3年分

A 令和3年譲渡株式に係る譲渡所得の計算誤り

B 公社債投資信託等の収益の分配に係る利子所得の申告漏れ

C 投資口の配当等に係る配当所得の申告漏れ

と続々と申告漏れを指摘される事態となった。

 

 

 

上記の国外財産調書の加重措置の規定からすると、今回のように申告漏れを指摘され修正申告をよぎなくされる際には、国外財産調書の記載がどのようになっていたのかもひとつの争点となる。

 

 

 

課税庁側も、国外財産調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、国外財産加重措置を適用している。

 

 

 

 

裁決の争点も、本件各加重措置が適用されるか否かだが、具体的には、「重要なものの記載が不十分である」と認められるか否かとなっている。

 

 

 

 

 

非常に、マニアックな事例だ。えー

 

 

 

 

審判所は、下記のとおり判断をして、納税者の請求を棄却している(R5.12.7 公表裁決なので、誰でも無料で読むことができます)。

 

① 法令解釈

 

「財産債務調書の提出制度の趣旨から、国送法において、財産債務調書に「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定されていることに照らすと、国送法6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分である」と認められる場合とは、国送法施行規則15条1項が規定する記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる財産又は債務の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6の3-3の取扱いは当審判所においても相当と認められる。

 そして、財産債務軽減加重措置が財産債務調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、財産債務軽減加重措置の適用の可否の判断は、財産債務調書自体の記載内容から行うべきである。」

 

 

 

② 本件への当てはめ

 

「令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となる財産は、本件物件である。

 そして、建物については、国外財産調書に、その建物の用途別(一般用及び事業用の別)及び所在別の戸数、床面積及び価額を記載しなければならない(国送法施行規則第12条第1項及び同規則別表第一)。

 請求人が提出した令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書の各記載内容は、その種類欄に「Personal Use-BUILDIN」として自己が使用する建物である旨が記載され、用途欄には「一般用」と記載されている。本件物件は不動産所得を生ずべき業務の用に供されていたから、種類欄及び用途欄には、いずれも記載の誤りがあると認められる。また、その所在欄には居住用建物である旨の「Residence Property」との記載があるのみで、その所在地の記載はなく、さらに、戸数及び床面積の記載もない。」

 

 

 

 

「以上のように、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書は、本件物件の種類欄や用途欄の記載に誤りがあるだけでなく、所在地や戸数、床面積についても記載に誤りがあり、又は記載がないから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった本件物件を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。

 したがって、本件物件に関する令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書の各記載内容は、いずれも国送法6条3項に規定する国外財産調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告に係る過少申告加算税のうち、本件物件に関する減価償却費の過大計上に係る部分の過少申告加算税について国外財産加重措置が適用される。」

 

 

 

 

「有価証券については、財産債務調書に、その種類別(株式、公社債、投資信託等の別及び銘柄の別)、用途別及び所在別の数量及び価額並びに取得価額を記載しなければならない。

 請求人が提出した令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書の各記載内容は、請求人が令和2年譲渡株式及び令和3年譲渡株式を含むG社の株式について、財産債務の区分欄に「匿名組合契約の出資の持分」と記載されているほか、その種類欄は、「株式」及び「G社」と記載すべきところを組合出資持分と解される「SECURITIES PARTNERSHIP INVESTM」と記載されており、記載の誤りがあると認められる。また、数量欄は「0」と誤って記載されており、取得価額の記載もない。」

 

 

 

「以上のように、令和元年分財産債務調書及び令和2年分財産債務調書には、令和2年譲渡株式及び令和3年譲渡株式を含むG社の株式について、「株式」であるとの種類の記載やその数量の記載もないのであるから、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告の基因となった令和2年譲渡株式及び令和3年譲渡株式を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。」

 

 

 

 

課税庁の言い分としては、国外財産調書制度 (FAQ)もこちらとしては出しているんだから、それに沿ってきちんとしっかり書いて出しなさいよ・・・ということだろう。

 

 

 

 

ただ、税理士の言い分としては、国外財産の価額は、その年の 12 月 31 日における「時価」など、要求していることが高すぎて、それはちょっとねと思う。

今回の事案は、貸付用の不動産なので、それはきちんと把握できるのではないかと言われると返す言葉もないが、いや、それなら、減価償却費も計算間違えないわ。

 

 

 

 

特に気になる言葉が「その記載内容からは本件財産の特定が困難であると認められる。」という点。課税庁に財産を特定させるとことができないといけないということか。

 

 

 

裁決の法令解釈にはこう書かれている。

「国外財産調書の提出制度は、国外財産に係る課税の適正化の観点から、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める制度であり、国外財産調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、国外財産軽減加重措置が設けられている。」

 

 

 

 

課税の適正化の趣旨は理解できるが、それにしても、作成する方は大変なんだよ。と一言言いたい。えー

 

 

 

 

NORIKUMAクマ