NORIKUMAです。

 

 

 

3か月に1度のお楽しみ。裁決が公表された。今回は、結構数が多い。その中で今回は、法人税の事案をご紹介する。

 

 

 

 

事案の概要から。

本件は、審査請求人が、発注者であるN社の依頼により部品を製造するために使用する金型等の製作費用相当額として発注者から支払われた金銭について、部品の量産開始日を含む月から24か月の分割で益金の額に算入していたところ、原処分庁が、請求人が発注者から製作費用相当額を受け取った時点で全額益金の額に算入すべきであるとして法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

そもそもどうして分割で益金の額に算入していたのか。請求人は、設立以来N社から注文を受けた部品を製造して同社に販売していた。そして、請求人は、N社から注文を受けた部品の製造を開始するに当たって、専らその部品を製造するために使用する金型、治具及び検具を都度製作していた。

 

 

 

 

 

請求人とN社は、平成11年9月30日付で、覚書を取り交わし、請求人が所有権を有する金型等について、請求人とN社が合意した製作費用相当額をN社が負担することができること、その支払方法を、部品の量産開始日を含む月又は金型等相当額の合意がされた月のいずれか遅い月の翌月から24回の月額均等分割払とすることを合意した。
 そして、請求人とN社は、平成30年9月27日付で「購買基本契約書(部品関係)」を取り交わし、均等分割払方式による金型等相当額の支払開始を、部品の量産開始日を含む月の翌月からとすることを合意した。

 

 

 

 

つまり、覚書などで分割払いとすることを決めていたということだ。

 

 

 

 

ところが、その後状況が一変する出来事が起こる。それは、新型コロナウイルス感染症の拡大だ。

 

 

 

 

N社は、請求人を含めた取引先に対し、令和2年4月23日付で書面を送付し、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急支援策として、N社が支払を終えていない、均等分割払方式による支払が継続中の金型等相当額の残額について、一括払を希望する取引先には、同月30日に一括して支払う旨の案内をした。

 

 

 

 

太っ腹な会社だ。えー

 

 

 

 

請求人は、上記の書面を受けて、均等分割払方式による支払が継続中の金型等相当額の残額について、一括払を受けることを希望し、金員を受領した。

 

 

 

経理処理について、請求人は、残額一括払費について、入金日に、均等分割払方式の際と同様に均等に分割して収益に計上し、残りは前受金勘定又は長期前受金勘定に計上した上で、残額一括払費を均等に分割した額を、毎月末日に金型売上勘定に振り替えて収益に計上していた。一方で、請求人は、金型等の製作費用を棚卸資産として計上し、部品の量産開始の時点で固定資産に振り替えた後、量産開始日を基準に法定耐用年数(金型2年、治具3年、検具5年)で定額法により算出した減価償却費を製造原価に含めて計上しており、本件一括払費を受領してからも、その会計処理を継続していた。

 

 

 

 

課税庁は、特に収益の計上方法について、請求人がN社から受領した日の属する事業年度において、その全額を益金の額に算入すべきであるとして更正処分を行った。

 

 

 

 

でも、そもそも契約というか覚書で分割ということになっていたんだから、分割で収益に計上するのが正しいんじゃないの。あたしだったら、請求人と同じように前受金処理するけど。えー

 

 

 

 

国税不服審判所は、下記のとおり判断をして、処分を全て取り消している(R5.12.21 公表裁決なので、誰でも無料で読むことができます)。

 

① 法令解釈について

 

「法人税法は、資産の販売等に係る収益の額は、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の益金の額に算入することを原則としつつ、公正処理基準に従ってその資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡し又は役務の提供の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、当該事業年度の益金の額に算入するものとしている。そして、公正処理基準によれば、収益の額は、その実現があった時、すなわち、その収入の原因となる権利(収入すべき権利と同義)が確定したときの属する年度の益金の額に算入すべきであり(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判决)、また、その収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判决)。」

 

 

 

② 本件への当てはめ

 

「金型等相当額の負担に係る請求人とN社との契約は、請求人からN社に対して、1N社から本件部品の製造に係る準備として金型等の製作を依頼された請求人がこれに応じて金型等を製作するという物の引渡しを伴わない請負契約、2N社が請求人に委託した金型等の維持、管理に係る準委任契約及び3請求人が製作した金型等についてN社に一定の権利を付与する権利設定契約に係る各役務を提供し、N社から請求人に対して各役務の対価として金型等相当額を支払うことを内容とする混合契約と解される。」

 

 

 

「本件金型等契約の性質を総合すると、本件各役務は、請求人が、専らN社の発注する部品を製造するために使用する金型、治具及び検具(金型等)を製作・取得し、N社から金型等の廃却等を許されるまで、製作した金型及び治具を使用して日々本件部品を製造し、製作した検具により本件部品を瑕疵のない品質とするために日々検査をし続けるとともに、日々金型等の維持管理を継続するというものであって、継続的に日々提供されるという特質を有するものである。」

 

 

 

「本件金型等契約の目的は、継続的に日々提供される特質を有する本件各役務の提供であって、典型的な請負契約にみられるような物又は仕事の「完成」自体を給付の目的としたり、「一定の出来上がり量」を給付の目的としたりするものではない。このような本件金型等契約に係る給付(業務)の内容、性質のとおり、本件基本契約書において金型等相当額は部品の量産開始日を含む月の翌月から24回の月額均等分割払と定められ、前月末日に締め切られる部品の代金とともに毎月25日までに当月分を支払う旨定められていること等を総合すると、本件金型等契約の実態は、継続的に日々提供される役務に応じて、1か月を単位として対価が支払われる約定に基づいて、役務の提供が継続し、各月末日の経過ごとに、24回にわたり、過去1か月分の役務に対する代金額が確定し、その支払期日を翌月25日とする契約と認められ、金型等相当額の支払に関する本件基本契約書の条項は一括払の後も請求人とN社との間で変更されていないことからすれば、上記の本件金型等契約の実態は、一括払の後も変わるものではない。」

 

 

 

③ 結論

 

「以上によれば、金型等相当額は、均等分割払方式で受領したか一括払で受領したかにかかわらず、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日の経過でその支払請求権(収入の原因となる権利)が順次確定するものと認められ、請求人が、本件一括払費を均等分割払方式の際と同様に、部品の量産開始日を含む月から24回にわたり、毎月末日に収益計上した会計処理は、公正処理基準に適合するものと認められる。」

 

 

「よって、本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入されず、また、本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額となるとはいえない。」

 

 

 

 

裁決を読んで、その業種ごとの特質・特徴を踏まえなければいけないと思った。

 

 

 

今回は、金型というところがポイントだろう。

 

 

 

課税庁は一括で残額を受領したのだから、その受領した日の属する事業年度で収入として計上すべきとした。しかし、この金型等相当額については、請求人の役務提供は「継続的に日々提供される特質を有する」ものだ。

 

 

 

そこを忘れて、会計処理とか金の動きだけに目が行くと今回のような課税庁の失敗につながりやすい。

課税庁に限らず、税理士もしかり。やはり、会計処理や税務処理は経済活動の本質を捉えて判断しなければいけない。その教訓は忘れてはいけない。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ