NORIKUMAです。

 

 

 

以前、債務免除益について争われた事案についてご紹介した。

 

 

 

 

こちらの高裁判決がTAINSにやっと収録された。

もう一度、事案の概要をおさらいしてみよう。

亡甲の相続人である1審原告ら(甲の妻と子)は、甲の金融機関に対する債務(相続開始時の残額9億7470万円)を相続し、その後、同債務について甲と銀行との間で成立していた一定額の分割金(相続開始時においては、分割金の残額が合計100万円)を支払った場合には残部について債務免除をするとの裁判上の和解に基づき、銀行から上記債務の分割金支払後の残部(9億7370万円)について免除を受けたが、その免除益に関する所得を申告せずに平成28年分の確定申告を行ったところ、本件債務の免除によって得た利益は一時所得に係る総収入金額にあたるとして、処分行政庁から所得税等の更正処分等を受けた事案である。

 

 

 

 

一審では、債務免除については、適法と判断されたが、和解にこぎつけた前訴での弁護士費用等は、一時所得から控除することができると判断されている。

 

 

 

 

 

 

この事案、上記のブログでは、「税法に照らしてみると、債務免除は明らかなので、債務免除益は申告すべきだ」と書いていた。

 

 

 

 

ただ、その後、この所得税の事案以外に、相続税の債務控除についても争われているということが発覚。

相続税の事案について、審判所は、所得税の債務免除の対象となった債務(9億7370万円)と相続開始後に相続人が返済した債務100万円を合わせた債務の相続開始時の残額9億7470万円について、確実なものでないとして、債務控除は認めていなかった。

 

 

 

 

でもそれじゃあ、納税者があまりにも可哀そうだ。債務免除益は、9億7370万円なのに、相続人から引き継いだ債務(相続税法上の債務控除)は、相続人が返済した100万円しか認めないなんてね。えー

 

 

 

 

私以外にも、そう思った人がいたらしい。それが、東京高裁の裁判官だ。まともな、裁判官が東京高裁にいて、良かった。拍手

 

 

 

 

本件の争点は、(1)本件債務免除益の存否、(2)資力喪失(所得税法44条の2)の有無、(3)二重課税の排除(所得税法9条1項16号)の適用の有無、(4)理由附記の不備の有無、(5)前訴の弁護士費用等を「その収入を得るために支出した金額」(所得税法34条2項)として控除することの可否であるが、東京高裁は、このうち、(3)のみについて、下記のように判断をして、処分を全て取り消している(R6.1.25 TAINS:Z888-2622)。

 

① 法令解釈

「所得税法9条1項は、その柱書きにおいて「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と規定し、その16号において「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げているところ、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される(最高裁判所平成22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁)。」

 

 

 

「また、相続税は、相続財産を取得した利得に対して担税力を見出して課税されるものであるところ、相続財産の取得者が被相続人の債務を承継して負担する場合にはその負担分については担税力が減殺されることになることから、相続財産からの当該債務の控除を認めるとするのが趣旨であり、被相続人から承継する債務が「確実と認められるもの」でない場合には担税力が減殺されることにはならないから、当該債務については相続財産からの控除を認めないとするのが同法14条1項の趣旨であると解される。」

 

 

 

「このような規定の趣旨を踏まえれば、担税力を減殺させるものではないとして相続財産から控除されなかった相続債務が相続開始後に免除を受けたからといって、これにより債務者に新たな担税力が生じるものと解することは相当でない。

 そうすると、被相続人から承継した現に存する債務であって、相続税申告の際の課税価格の算定にあたって近い将来に免除を受ける可能性が極めて高いこと等を理由に相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった債務が、その後に債権者により免除された場合における当該債務免除に係る相続人の利益については、形式的には債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税課税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能であり、また、その具体的な内容をみても、上記申告に係る課税価格のうち相続財産から控除されなかった上記債務に相当する部分の経済的価値と実質的に同一のものということができるから、特段の事情のない限り、これに所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反するものとして許されないというべきである。」

 

 

 

 

② 本件への当てはめ

「本件債務免除益は、被相続人の亡甲から1審原告らが承謎した本件銀行に対する債務であって、和解の約定により免除を受ける可能性が極めて高いことから相続税の修正申告の際の課税価格の算定にあたって相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった本件債務が、その後に和解の約定に基づき銀行により免除された場合における債務免除に係る1審原告らの利益であるといえる。そして、本件においては、本件債務を相続財産から控除した場合とこれをしない場合の相続税額の増加額(合計2億1972万4900円)と債務免除益を一時所得として所得税の課税をしない場合とこれをした場合の所得税等の本税額の増加額(合計2億2273万2100円)に結果的に著しい差がないことなどの状況に照らしても、上記特段の事情は見当たらない。したがって、本件債務免除益に所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反して許されない。」

 

 

 

これ、本件への当てはめ部分が面白い。

本件債務を相続財産から控除した場合とこれをしない場合の相続税額の増加額(合計2億1972万4900円)と債務免除益を一時所得として所得税の課税をしない場合とこれをした場合の所得税等の本税額の増加額(合計2億2273万2100円)に結果的に著しい差がないとのこと。

 

 

 

 

よく調べた。

 

 

 

 

そう考えると、更正処分は若干納税額が多くなる一時所得で課税庁側は行っていたのか。そういう疑問も生まれてくる。それならば、相続税の債務控除は認めても良かったんじゃないの。

 

 

 

相続税の債務控除は認めず、所得税については処分するよ・・・はさすがに欲張りすぎた。「許されない」という最後の一言は、東京高裁の課税庁側への戒めのように聞こえる。

 

 

 

 

ところで、この高裁判決で忘れてしまいがちだが、地裁判決で認められた弁護士費用等の話しも忘れてはいけない。債務免除益について、「その収入を得るために支出した金額」として、債務免除を得るための訴訟に係る弁護士費用等、つまり、弁護士報酬と訴訟提起の際の貼用印紙及び送付嘱託申立費用等の訴訟費用等も控除できるということだ。

 

 

 

 

なお、この裁判は、上告受理申立てがされているため、確定ではないようだ。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ