NORIKUMAです。

 

 

 

本日は、珍しく相続税の判決を。税務上どうかというよりも、判決を読んで驚いた。まるで、刑事が犯罪者を追い詰めるような証拠固めじゃないですか。最近は、税務署もここまでやるのか。それとも刑事ドラマ好きの調査官がいるのか。

 

 

 

早速、事案の概要から。

本件は、原告らが、亡母(丙)の相続に係る相続税の申告をしたところ、芝税務署長から、原告甲が相続開始前に亡母の金融機関の口座から現金を出金したことによって同人が原告甲に対する不当利得返還請求権を取得し、これが相続財産に含まれるなどとして、各原告において相続税の更正処分を受けるとともに、原告甲が重加算税賦課決定処分、原告乙が過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ受けたことから、各原告が、更正処分等の取消しを求める事案である。

 

 

 

 

亡母(丙)はアルツハイマー型認知症で、老人保健施設や介護付有料老人ホームに入所していたとのこと。その間に亡母が失った金員は、14億3002万3000円。びっくり

 

 

 

 

凄すぎや。えー

 

 

 

 

さて、甲が母の口座から出金をしたことを追い詰める地裁判決を読んでいこう。

 

 

 

まず、この出金が同一人物の犯行であることを示している部分である。

「本件各出金は、平成25年12月25日から平成28年1月13日までの750日間のうち、717日という約95%を占める日数にわたってほぼ毎日のように行われ、残額全てを出金した最終日を除いていずれの日もATMの1日当たりの出金の限度額である200万円が出金されており(コンビニエンスストアに設置されたATMについては、1回当たりの限度額が50万円であることから、1日のうちに同じATMから4回にわたって50万円ずつ出金されている。)、出金の態様が極めて特徴的であること、コンビニ店舗からの出金が半数近くの日数を占め、銀行支店(156日)及び三井住友銀行岐阜支店(114日)における出金を併せると本件各出金の9割を超える日数を占めるなど、出金場所が特定の場所のATMに集中していること、本件口座から現金を引き出すために必要なカードは1枚しか発行されておらず、同カードについて紛失等の登録がされたことがないことからすれば、本件各出金は同一人物が行ったものと推認される。」

 

 

 

 

確かに、同一人物の犯行の可能性が高いです。えー

 

 

 

 

次は、その同一人物が甲であることを確信して追い詰める場面である。

「本件各出金のうち、1番目と3番目の日数を占めるコンビニ店舗や三井住友銀行岐阜支店をはじめとして、岐阜県内又は愛知県内に所在する店舗のATMからの出金は、いずれも、原告甲名義のETCカードの使用履歴からして、甲が東京都内から愛知県(小牧インターチェンジ、小牧東インターチェンジ)に移動した後、次に同県(同各インターチェンジ)から東京都内へ戻るまでの間に行われており、そのうちいくつかについては、甲が岐阜県〇〇内の××を訪問した日に行われている。そして、本件コンビニ店舗は、甲が所有する住居から約2㎞の場所に位置し、セブン銀行のATMが設置されている店舗の中では同住居に最も近い場所にある。

 また、本件各出金のうち2番目に多い日数の出金が行われた銀行支店については、原告甲が亡母の入居金の現金振込みをするために同支店を訪れた平成26年3月13日に出金が行われている上、原告甲が滞在することがあった東京都内のマンションから徒歩で約1分の場所にある。」

 

 

 

え~、ここまで調べとるんか。と思いながらも、まだ、しらを切りとおす甲に対して、さらに追加の証拠を出し追い詰める。

 

 

 

「原告甲がハイアットリージェンシー箱根リゾート&スパに滞在した時期には、同ホテルと同じく箱根町に位置するセブン銀行元箱根店及び同銀行箱根小涌谷店のATMから出金が行われ、ホテルニューオータニ幕張に滞在した時期には、同ホテルの付近にあるセブン銀行千葉海浜幕張駅前店や同銀行ワールドビジネスガーデン店等の千葉県内の店舗のATMから出金が行われている。

前記の各出金がされた日に、出金がされた店舗に相当程度近接する場所において、原告甲が所在し、又は原告甲が滞在した可能性のある住居が存在するところ、これら全ての事象が各出金とは無関係に偶然起こるとは考え難い。

 加えて、コンビニ店舗の店長及び店員が、原告甲と思われる人物が来店してATMを使用していたこと、同人物の来店は特定の期間に連続していたことなどを供述している。

 以上によれば、前記の各出金は、いずれも原告甲が行ったものと推認することができる。」

 

 

 

 

箱根のハイアットって、NORIKUMAも行ったことがあるけど、結構宿泊料は高いわよ。でも、その時期に甲がどこで宿泊していたか、どこにいたか、そこまで調べるんや。

しかも、コンビニの店長や店員に聞き込みまで。本当の刑事ドラマのようだキョロキョロ

 

 

 

 

そして、数々の証拠を示したのち、このように語り始めた。

「本件各出金は、1日当たり200万円、総額で14億3002万3000円を出金し、本件口座で保有されていた丙の資産を全て現金に換えて引き出すというものであるところ、原告甲が丙の子であり、丙が入所していた施設の利用料等を支払っていたことなどを考慮しても、丙が黙示的であれこのような出金をする権限を甲に付与していたとは通常考え難い。さらに、本件各出金が行われた当時の丙の認知能力が相当低下していたことからすれば、丙が原告甲に対して上記の態様の出金に係る授権をしたものとは一層考え難い。」

 

 

 

さらに、最後にはこう言い放った。

「甲は、相続の開始までに、本件各出金に係る金員について、丙の占有を排除して自己のために所持し、又は費消していたのであり、法律上の原因なく利益を受け、そのために丙に損失を及ぼしたものといえるから、丙は、民法703条、704条に基づき、甲に対する不当利得返還請求権を有するに至っていたと認められる。」

 

 

 

 

 

相続財産は不当利得返還請求権や。どや、これは申告書に記載されていないやろ。これを税務上、相続税の申告漏れをいうんや・・・という感じでしょうか。

 

 

 

甲を追い詰めるのは、これにとどまらず、最後のダメ押しはこれだ。

「甲は自ら各出金をしたのであるから、申告時、相続の開始時点で丙が甲に対して各出金に係る不当利得返還請求権を有していたことを認識し、したがって相続財産に不当利得返還請求権が含まれることも認識していたものと認められる。それにもかかわらず、甲は、合計14億3002万3000円もの巨額の現金の所在及び使途を隠匿し、丙名義の金融機関の口座がほかにもあるのではないかと疑ってその存在を尋ねたA税理士に対し、各出金の事実を伝えなかったのであって、A税理士は、甲からの回答等に基づいて、不当利得返還請求権を相続財産に含めることなく申告書を作成し、申告を行ったものである。

 甲の上記行為は、不当利得返還請求権が相続財産に含まれることが外形的に判明しにくい状態を作出したものであり、故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠す行為であるから、国税通則法68条1項が定める「隠蔽」に該当するものといえる。」

 

 

 

 

刑事ドラマであれば、ここで甲はあきらめたようにうなだれるか、それとも追い詰められてその動機を語り始めるか。

ただ、これはただの地裁判決文であるため、最後は、この言葉で締めくくられている。

「以上のとおりであり、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。」

 

 

 

 

で、ここまで調べ上げたのは、どこのどなたなのでしょうか。刑事ドラマだと「捜査1課の〇〇です」というけど、この場合どうなんでしょうか。処分庁が芝税務署となっていますが、芝税務署の方が、箱根や岐阜に出張に行って聞き込みをしているのでしょうか。高速インターまで調べられるんでしょうか。

 

 

 

 

この事件のカギは、どうやら岐阜と愛知にあるような気がしてならないんです・・・と言って出張する姿が目に浮かず。

 

 

 

そこで聞き込みの傍ら、地域の特産物に舌鼓。

 

 

 

 

最近2時間ドラマもないけど。ちなみにこの判決は、令和5年2月16日東京地裁。TAINSは、Z888-2554だ。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ