NORIKUMAです。

 

 

 

本当は今週のブログはやめようかと思うくらいに忙しい。恐らく、税理士の5月ってこんな感じなんだろう。えー

 

 

 

さて、今回の事案は、みなし譲渡。皆、譲渡する際に、株式の価額をしっかり考えていないのか・・・同種の事案が多すぎるように感じるが。

 

 

 

 

事案の概要は、下記のとおり。

本件は、審査請求人が保有する取引相場のない同族法人(法人1)の株式5,060株を一般社団法人に譲渡する際に、その譲渡価額を配当還元方式等により算出し、当該譲渡に係る所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該株式の時価は評価通達の定める原則的評価方式により算出すべきであり、当該譲渡価額は時価の2分の1に満たないことから、時価で譲渡があったとみなして更正処分等をしたのに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

ま、この場合、請求人と譲渡した同族法人との関係、さらに一般社団法人との関係だけの問題だ。しかし、そもそも同族法人の株式を購入する一般社団法人というと、なんらかの関係者ではないのか。

 

 

 

一般社団法人の設立について、裁決書には、次の記述がある。

「請求人及び請求人の妻は、かねてから社会貢献活動の方法を模索していたところ、一般社団法人を通じこの活動を行うのが最善であると考え、平成27年8月頃に本件社団法人の設立を決定した。本件社団法人の設立計画の策定には、平成20年頃から法人1及び法人2の取締役を務め本件社団法人の代表理事となった乙、平成18年頃から請求人及びグループ法人の関与税理士を務めていた税理士であり公認会計士でもある丙が関与した。

 本件社団法人設立時の理事は、代表理事乙、丙及び丁の3名、社団法人設立時の社員は、請求人の妻、代表理事及び〇〇の3名であり、本件譲渡の時までに理事又は社員の追加・変更はなかった。」

 

 

 

では、譲渡する株式の同族法人と請求人との関係はどうか。法人1は、法人2が中心となって事業を統括するグループに属しており、請求人が多年にわたり法人2の代表取締役を務めている。本件株式は取引相場のない株式に該当し、譲渡の直前において、請求人は、評価通達188の(2)に定める中心的な同族株主に該当する。なお、本件譲渡の前1年以内に後継者対策を理由として、請求人の子などに本件株式を譲渡している(ただし原則的評価方法による)。

 

 

 

 

うん、この関係性でいうと、配当還元方式では無理じゃないでしょうか。少なくとも私なら、配当還元方式での価額は採用しないが。

 

 

 

なぜ、配当還元方式で株式の価額を算出したのか。請求人は次のように主張している。

「本件株式の譲渡の時における1株当たりの価額は、請求人と社団法人という純然たる第三者間において、社団法人の社会への貢献という設立目的、法人1の業績向上と企業価値の増加などの種々の経済性を考慮した結果、配当還元方式(評価通達188-2《同族株主以外の株主等が取得した株式の評価》の定めによる評価方式をいう。)による価額(これよりも取得価額が上回る場合は取得価額)が妥当であるとして決定されたものであるから、当該価額が本件株式の本件譲渡の時の時価である。」

 

 

 

 

でも、「純然たる第三者間」ではないですよね。えー

 

 

 

では、どうしてこの価額になったのか。

具体的経緯をみていこう。

 

本件譲渡の経緯

(イ) 本件社団法人設立後、請求人及び請求人の妻は社団法人の社会貢献活動が支障なく行われるための原資を株式の配当金から捻出させるべく、株式の譲渡を検討し、株式の譲渡価額について税理士に相談した。

(ロ) 本件代表理事は、社団法人が法人1に影響力を行使することができないよう、株式の保有割合は株式の発行済株式総数の5%以内にすべきであり、また、株式の購入代金があまりに高額では返済が困難になるとの検討結果を、請求人及び税理士に提案した。

(ハ) 本件税理士は、株式の譲渡価額について、以下の点を考慮し検討を行った。

A 少数株主であれば、配当還元方式による価額決定が可能であり、その他の評価方式による価額では譲渡価額が高額となり、社団法人の社会貢献活動に支障が生じる。

B 本件社団法人は設立直後で資金もなく、購入資金のほとんどを基金とする必要があったが、基金の額については、あまりにも高額となり、基金の返還が事業活動に支障を生ずることのないようにする。

C 基本的に、配当還元方式による価額とするが、請求人の実際の取得価額も考慮することとし、同一株式であっても譲渡人間において取得の単価が異なっていた場合は、一物一価であることから、取得の単価が低いほうを譲渡の単価とする。

D 取得の単価を譲渡の単価とすると、直近で行われた同族株主間における譲渡の単価よりも安い価額となる株式もあったが、社団法人による社会貢献活動の実現を重要視し決定する。

(ニ) 本件税理士は、上記により試算した本件株式の譲渡の単価等について、請求人及び代表理事に提案した。請求人及び代表理事は、この提案に基づき譲渡を行うこととし、本件株式の譲渡の単価等の決定について、当事者間における価額交渉は行わなかった。

 

 

 

 

実際の価額は、記載がない。でも、ここで「基本的に、配当還元方式による価額とするが・・」としているのが気になる。私なら、真っ先に配当還元方式を排除するが、なぜに、配当還元方式ありきで話が進むのかが不明だ。

 

 

 

しかも、税理士さんが試算しているのに。えー

 

 

 

 

審判所は、下記判断をして納税者の請求を棄却している(R4.11.21 TAINS:F0-1-1579)。

 

① 譲渡した本件株式について、所得税法第59条第1項に規定する「資産の譲渡の時における価額」(本件株式の本件譲渡の時における価額に相当する金額)は幾らか。

 

 

「所得税法第59条第1項に規定する「その時における価額」とは、当該譲渡の時における客観的交換価値、すなわち、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものと解される。

 本件株式は、取引相場のない株式である。また、本件株式については、売買実例はあるものの、これは、後継者対策の一環という個別の事情の下、同族関係者間で取引が行われたものであり、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた価額とは異なることから、所基通23~35共-9(4)イに定める適正と認められる価額による売買実例のある株式には該当しない。そして、本件株式について所基通23~35共-9(4)ロ及びハに該当する事情も見当たらない。したがって、本件株式の所得税法第59条第1項に規定する「その時における価額」は、所基通23~35共-9(4)ニの定めに従い、本件譲渡がされた日に最も近い日における法人1の1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額によることが相当であり、原則として、所基通59-6の(1)から(4)までによることを条件に、評価通達178から189-7までの例により算定した価額が「その時における価額」と推認することができる。」

 

 

 

 

 

「そして、請求人は、譲渡の直前において、法人1における「中心的な同族株主」に該当するから、本件株式の「その時における価額」を算定する場合には、所基通59-6の(2)の定めにより法人1が「小会社」(評価通達178)に該当するものとして、その例によることとなる。

 以上を前提に、本件株式について所基通59-6が定める条件下に適用される評価通達に定められた評価方法により所得税法第59条第1項に規定する「その時における価額」を算定すると、本件譲渡の時における株式の1株当たりの「その時における価額」は「再調査決定」の「単価」と同額となる。」

 

 

 

 

 

つまり、株式の価額(時価)は、純資産価額方式により算定し、譲渡価額は純資産価額方式により算定した価額の2分の1に満たないから、本件譲渡は所得税法59条1項2号に規定する低額譲渡に該当すると判断された。

 

 

 

 

請求人の主張については、審判所は次のように判断している。

「本件譲渡は、社団法人の社会貢献活動が支障なく行われるための原資を株式の配当金から捻出させるためにされたものである。そして、本件株式の価額は、請求人及び請求人の妻から譲渡価額の検討の依頼を受けた税理士が社団法人の購入資金の手当て等にまで配慮した試算を提案し、請求人が当該提案を受け入れる形で決定されたものであり、本件社団法人との間の価額交渉により決定されたものではない。加えて、本件社団法人の設立には請求人が関与し、本件譲渡の時の社団法人の理事は、法人2等の役員、取引先及び顧問弁護士である。その上、社団法人の所在地や電話番号は法人2と同一であり、社団法人の預金通帳及び印鑑は法人2の金庫に保管され、社団法人の経理を法人2の社員が担当している。

 これらのことに照らすと、本件譲渡は対等な立場である当事者間における自由な交渉を経たとは認め難く、その結果、譲渡人の下に生じている本件株式の増加益が適正に反映された取引とは評価できないから、請求人の主張には理由がない。」

 

 

 

 

 

まさか、通帳や印鑑の保管まで判断の材料にしているとは。というか、審判所もよく調べてらっしゃる。

 

 

 

 

ここまで、いわれれば、「純然たる第三者間」で決定された譲渡価額とは言い難い。

 

 

 

 

ただ、同情すべき点もある。この社団法人の設立の趣旨やその原資を株式の配当からと考え、譲渡し、相続税対策なんかを考えて行ったのではない・・ということもあろう。

しかも、社団法人には、そこまで資金は都合つかないだろうし。

 

 

 

 

税理士さんとしては、資金的な面も含めて苦渋の決断として提案したのだろう。内情を知っているゆえに、配当還元でとなったのかもしれないが・・・。

 

 

 

 

そうなのかもしれないが、しかし、この状況で配当還元方式は、やはり無理がある。

 

 

 

無理があるにも関わらず、一般社団法人への譲渡はこれにとどまらず、請求人の子供が行った一般社団法人に対する株式譲渡(3,999株)も同日に審判所にて、請求棄却の判断(TAINS:F0-1-1580)がなされている。

 

 

 

 

 

NORIKUMAクマ