NORIKUMAです。

 

 

 

以前ブログでもご紹介しましたが、青色申告承認取消し事案の最高裁が出ました。

 

 

 

 

表題のとおり、2事業年度連続の期限後申告による青色取消しですので、実務家としては「あ、そうですか」で通り過ぎてしまうような話だったが、一気に注目を浴びるようになったのは、最高裁から。

最高裁で上告受理事件として令和6年3月27日に不受理となっていたが、そこには「本件申立ての理由によれば本件は民訴法318条1項の事件に当たるとの裁判官宇賀克也の反対意見がある・・」との1文があった。

さらには、最高裁のHPで5月に判決が出るとの情報が・・。

 

 

 

なにが出るんや、いや、何が出たんや。えー

 

 

 

 

注目の判決をご紹介する前に、地裁高裁の復習から。

 

 

 

事案の概要は、下記のとおり。

納税者は、税理士法人の担当職員が期限内に申告書を提出することを失念し、平成30年6月期の法人税確定申告書(提出期限8月30日)を同年9月18日に、令和元年6月期の法人税確定申告書(提出期限9月2日)は同年9月10日にe-Taxを利用して提出した。本件は、課税庁が2事業年度連続して確定申告を期限までに提出しなかったとして青色申告承認取消処分を行った事案だ。

 

 

 

 

争点は、①本件処分が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用により違法であるか、②本件処分が理由附記の不備により違法であるか、③本件処分において事前に原告に防御する機会を与えなかったことが憲法31条に反して違憲・違法であるかだ。

 

 

 

福岡地裁(R4.12.14)は、

①について

「原告が2事業年度連続で確定申告書を提出期限までに提出しなかった原因は、税理士法人の担当職員が期限内に提出することを失念したことによるものである。

 しかし、税理士法2条1項1号に規定する税務代理は、民法99条が規定する代理人が本人に代わって意思表示を行う行為に該当し、その法律効果は直接本人に帰属するのであるから、納税者が自己の判断と責任において、申告手続を税理士に委任し、当該税理士が代理人として申告した以上、その申告は申告名義人である納税者の行為として取り扱われるものと解される。そうすると、2事業年度連続で確定申告書が期限内不提出となった原因が、本件税理士法人の担当職員の過誤によるものであるとしても、このような事情は、原告と本件税理士法人との間の内部事情によるものといわざるを得ない。

 以上の事情からすれば、処分行政庁が本件処分(青色申告の承認の取消し)をしたことについて、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認められない。」

 

 

 

②について

「本件通知書の記載によれば、原告において、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件処分がされたかをその記載自体から了知することができたことに加え、本件通知書の記載とあらかじめ公表されていた事務運営指針の定めとを照らし合わせることによって、原告において、いかなる理由に基づいてどのような基準が適用されて本件処分が選択されたのかをも知ることができるものというべきである。」

 

 

 

③について

「税務署長が、青色申告承認取消処分を行うに当たり、被処分者に対して告知、聴聞その他弁明の機会を付与しなければならない旨の法律上の規定や根拠は存在しない。むしろ、国税通則法74条の14第1項は、「国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為」については、行政手続法第2章及び第3章の規定は適用しない旨を規定しており、「国税に関する法律に基づき行われる処分」である青色申告承認取消処分については、行政手続法第3章の規定を適用しないこととしている。これは、上記の処分が、①金銭に関する処分であるから事後的な手続で処理することが適当であり、この点の事後的な手続として、税務署長に対する異議申立てと国税不服審判所長に対する審査請求の2段階の不服申立手続が整備されていること、②大量・反復的に行われること、③限られた人員で適正・公平・迅速に手続の処理を図らなければならないこと、④処分理由の提示が要求されていること等の理由によるものと解される。

 以上によれば、国税通則法74条の14第1項の規定は、憲法31条に反して違憲であるとはいえない。また、法人税法127条1項の規定による青色申告承認取消処分については、その処分の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に告知、弁解、防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとは解されないというべきである。」とした。

 

 

 

 

続く、福岡高裁(R5.6.30)でも、原判決の補正は行われたが、「当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却するのが相当であると判断する。」との結論だった。

 

 

 

 

2事業年度期限後申告での青色取消しについては、過去に何度も争いがある。中には、TAINSコード F0-2-942のように再調査の請求により「特別な事情があり、かつ、再発防止のための監査体制を強化する等今後の適正な記帳及び申告が期待できると認められる」として処分が取り消された事案もあるが、なかなか認められるのも難しい。

そのため、実務家からすると今回の事案は、とりたてて注目はしていなかったが、上記3つの争点のうち、争点3が行政法の専門家にはぐっと刺さったらしい。

 

 

 

 

最高裁は、上記事案について、下記のように判断して上告を棄却した(令和6年5月7日 裁判所HPにありますので、誰でも無料で読むことができます)。

 

 

「論旨は、行橋税務署長が令和元年12月10日付けで上告人に対してした、上告人の平成30年7月1日から令和元年6月30日までの事業年度以後の法人税に係 る青色申告の承認の取消処分につき、事前に防御の機会が与えられなかったことをもって、本件処分が違憲である旨をいう。 しかしながら、法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。このことは、最高裁昭和61年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁の趣旨に徴して明らかである。本件処分に所論の違憲はなく、論旨は、採用することができない。」

 

 

 

 

え、これだけ。

 

 

 

いえいえ、この後が重要です。えー

 

 

 

 

「よって、裁判官宇賀克也の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官渡邉惠理子の補足意見がある。」

 

 

 

まず、補足意見だ。

「まず、法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、専門性を有する第三者的機関ともいい得る国税不服審判所における充実した審査請求手続が設けられている。もとより、単に事後手続が設けられていることのみをもって、事前手続が憲法上必要でないと断ずることはできないが、上記審査請求手続の内容等は、上記の総合較量において考慮されるべき要素の一つとなるものと 考える。 

 次に、多数意見と同旨を判示した最高裁平成3年(行ツ)第93号同4年9月10日第一小法廷判決・判例集不登載が出されて以降、不利益処分に係る事前手続の保障の原則を内容とする行政手続法の制定などの事情の変化もみられるところであるが、多数意見は、関係規定の制定経緯等に鑑み、こうした事情の変化も念頭に置いた上で、憲法判断の変更は要しないと判断したものである。」

 

 

 

ここで引用された平成4年9月10日最高裁は、今回と同様、法人税の青色取消しについての最高裁判断だが、「法人税法127条2項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に告知、弁解、防御の機会が与えられなかつたからといつて、憲法13条あるいは31条の法意に反するものとはいえない。」との判断だ。

 

 

 

 

つまり、今回の事案も、処分において事前に原告に防御する機会を与えなかったことが憲法31条に反して違憲・違法であるかについては、審判所が設置されているということ、過去の裁判例からも違憲との判断に至らなかったとした。




つづいて本題の反対意見だ。なんたって、宇賀先生よ。宇賀先生は、多数意見の1とは見解を異にするとした。多数意見の1は上記の最高裁の判示として括弧書きを引用した部分。

 

 


宇賀先生は、争点③の地裁の判断において示された4点についていずれの点も合理的理由たり得ないとした。その理由は、


国税不服審判所長に対する審査請求について
「そもそも、憲法31条は、違法又は不当な処分がされないように適正な事前手続を要請しているのであり、事後の救済手続が整備されていれば、事前手続がおよそ不要であるということにはならないことはいうまでもない。現行法上も、第三者的な立場にある審査庁への審査請求が行われ得ることのみをもって、事前手続を不要としているものとは解されない。」



おっしゃるとおり。えー



大量・反復的に行われることについて
「青色申告承認取消処分が大量・反復的に行われるから、事前手続をとっている余裕がなく、事実誤認に対する救済は専ら事後手続に委ねる仕組みが採用されているという理解は、我が国の実際の税務行政の姿から乖離しており、むしろ我が国の税務行政を過小評価することになると思われる。」



限られた人員で適正・公平・迅速に手続の処理を図らなければならないことについて
「少なくとも弁明の機会の付与に相当する手続であれば、弁明書の提出期限を1週間程度とすることも許容されると考えられるので、迅速性の要請等が、事前の意見陳述手続を全く保障しないことの合理的理由になるとは考え難い。」



処分理由の提示が要求されていること等について
「処分理由の提示は、処分庁が原処分を行うに当たり、その慎重合理性を担保する機能、相手方の不服申立ての便宜を図る機能を有するが、そのことと、事前に意見陳述の機会を保障されることとは意義を異にするのであり、そうであるからこそ、行政手続法は、不利益処分について、事前の意見陳述手続と理由提示の規定を別個独立のものとして設けたのである。 したがって、理由提示が行われることは、事前の意見陳述手続が不要である理由には全くならない。」



ほんと、おっしゃるとおりです。えー



で、最後の1文がすごかった。
「以上によれば、上告理由のうち憲法31条違反をいう部分には理由があり、本件処分は違憲であるから、原判決を破棄し、第1審判決を取り消し、本件処分の取消請求を認容すべきである。」




え、本件処分の取消請求を認容すべきびっくり




いや、結論としては、上告棄却だ。ただ、行政法の大家としては、この反対意見となるのだろう。

 

 


私は、行政法の専門家でないので、なんともこの反対意見については言えないが、行政の処分や手続きを定める行政手続法が施行されたのが、平成5年か。そう考えると、上記に引用した判決(平成4年)と行政手続法との関係もあるだろう。




とにかく、実務家には、ちょいと難しすぎてよくは分からないが、ただ、宇賀先生が反対意見でおっしゃってくださった点は、首肯することばかり。この宇賀先生の反対意見をきっかけとして流れが変わることもあるかもしれない。
これを機になにか納税者の有利になるほうに変化することを望むだけです。

 

 

 

しかも、宇賀先生は、平成4年9月10日の最高裁判決も変更すべきとも書いてある。

 

 

 

しばらくは、この判決の宇賀先生の反対意見でもちきりだね。

 

 

 

NORIKUMAクマ