NORIKUMAです。

 

 

 

税理士法人による2事業年度連続の期限後申告により青色申告承認取消しとなった事案がある。これの最高裁が5月にあるようだ。口頭弁論が行われたのか不明だが、上告受理申立ては不受理となっていてTAINSに収録されている。そこには、「本件は民訴法318条1項の事件に当たるとの裁判官宇賀克也の反対意見がある」と記載があり、5月の判決もどんな判断が出るのか。

 

 

 

さて、本日は、重加算税とはなにかの本質を問う事案だ。

 

 

 

事案の概要は下記のとおり。

本件は、原処分庁が、審査請求人に対して、真実の売上金額より過少の売上金額を帳簿に記載した隠蔽又は仮装の行為があったとして、消費税等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該隠蔽又は仮装の行為は請求人の従業員ではない者が行ったものであり、請求人の行為と同視することができないから、重加算税を課すことはできないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

問題となった元従業員は、平成21年2月1日から令和2年10月30日までの間、請求人の行うイベントの企画、制作及び運営に係る業務に従事しており、請求人から、遅くとも平成26年12月31日頃までには、請求人に代わりイベント業務の相手先との受注交渉及び契約締結等を行う権限を与えられていたとのこと。

 

 

 

 

この時点で、わきが甘いともいえる。元従業員とはいえ、自社の従業員でないものに契約締結等を行う権限まで与えるとは・・。

 

 

 

しかも、平成27年1月1日から令和元年12月31日までの間の、このイベント業務に係る請求人の売上金額は、請求人の総売上金額のうち、平均64パーセント程度を占めていた。

 

 

 

ますます、おかしい。えー

 

 

 

 

裁決では、こんなことも記載されている。

「元従業員は、初めから、立替金の支払名下に請求人から現金又は商品券をだまし取ろうと企て、〇〇に対して、最終的には請負売上先が負担すべき本件イベント業務に必要な費用を、元従業員が事前に立替払をする必要があり、又は、既に立替払をしたなどの嘘の説明をし、立替金相当額の現金又は商品券を元従業員に交付する必要があるものと誤信させて、請求人が管理する現金又は商品券を交付させ、当該現金等を詐取した。

 元従業員は、本件各金員を詐取するに際し、詐取行為の発覚を免れるため、立替金支払先名義の領収書を偽造し、本件各金員の詐取前後において、当該領収書の写しを提出したり、元従業員が偽造した請求人名義の印章が押印された、真実の売上金額が記載された請求人名義の請求書を作成し、これを請負売上先に届けるなどした。

 なお、元従業員による請求人名義の印章の偽造は、平成27年頃、××に発覚し、請求人も把握して、偽造印を取り上げたものの、元従業員は、その後、再び当該印章を偽造し、請求人名義の請求書の作成に使用したものであった。

 元従業員は、詐取した本件各金員を自らの飲食費、遊興費などとして費消した。」

 

 

 

 

道徳的に、請求人は人を信じすぎだろうとか、こういうことがあったにもかかわらず甘すぎるなどいろいろ言いたいことはあるが、ここは、審判所。問題は、元従業員が、真実の売上金額より少ない金額を売上げとして報告して、これを帳簿に記載させた行為(以下「本件各隠蔽仮装行為」という。)を納税者である請求人の行為と同視することができるか否かである。

 

 

 

 

今まで役員・従業員のパターンはあったけど、元従業員は新たなケースだ。

 

 

 

皆さんは、どう考えますか。

そもそも重加算税とは何か。同視とはどういう際に使用すべきなのか。今回審判所は、請求棄却しているが、審判所の判示に誤りはないのか。

 

 

 

 

国税不服審判所は、下記判断をして納税者の請求を棄却している(R4.1.13 TAINS:F0-5-351)。

 

① 法令解釈について

「重加算税賦課制度の目的が、隠蔽・仮装行為に基づく過少申告、無申告による納税義務違反の発生を防止し、もって、申告納税制度の下における納税義務者の自主性の強化促進を図るとともに同制度の信用を保持するところにあること及び納税義務者本人の刑事責任を追及するものではないことからすれば、通則法第68条第1項の規定の合理的解釈としては、隠蔽・仮装の行為をした者が、納税義務者本人ではなく、その代理人、補助者等の立場にある者で、いわば納税義務者本人の身代わりとして同人の課税標準の発生原因たる事実に関与し、当該課税標準の計算に変動を生じさせた者である場合を含むものであり、かつ納税義務者が納税申告書を提出するに当たり当該隠蔽・仮装行為を知っていたか否かに左右されないものと解すべきである。」

 

 

 

 

② 本件への当てはめ

「元従業員は、請求人との直接の雇用契約こそないものの、請求人の主要な事業である本件イベント業務について、請求人の事業部長の肩書で、請負売上先との交渉を行い、請求人の名義で、請負売上先と契約を締結し、その売上金は、請求人の各銀行口座に入金され、記帳されていた。

 一方で、請求人も、元従業員の上記の活動を承知の上で、それを許して利益を上げ、元従業員に対して、本件イベント業務について具体的な指示等をすることもなかったのであるから、元従業員は、本件イベント業務について、請求人から包括的な権限を与えられ、請求人の代理人、補助者として、本件イベント業務を、事実上一任されていたといえる。

 また、本件で元従業員は、自らが請求人名義で請負売上先と締結した契約に係る売上金に関し、本件各隠蔽仮装行為に及んだもので、元従業員は、請求人の課税標準の発生原因たる事実に関与し、当該課税標準の計算に変動を生じさせた者であるといえる。」

 

 

 

 

「本件において、元従業員は、請求人の代理人、補助者等の立場にある者で、いわば請求人の身代わりとして請求人の課税標準の発生原因たる事実に関与し、当該課税標準の計算に変動を生じさせた者であるといえ、請求人に対する重加算税の賦課に関し、元従業員の行った本件各隠蔽仮装行為は、請求人の行為と同視することができ、このことは、本件各隠蔽仮装行為について、請求人がこれを知っていたか否かに左右されない。したがって、本件各賦課決定処分は適法である。」

 

 

 

 

いくつもの重加算税の事案を読んできたが「納税義務者本人の身代わりとして・・」という部分、初めてだ。法令解釈部分が過去の裁判例の引用がないが、どこぞですでに出された解釈か、それとも今回審判所独自のものか。裁決を読むと原処分庁の主張にもないようだ。

 

 

 

正直「身代わり」という言葉に非常に違和感がある。

 

 

 

確かにこの事案、請求人の総売上金額のうち、平均64パーセント程度を占めていたイベントを元従業員に任せていたので、請求人の行為と同視されるのも致し方ないとも思う。これが売上の0.01%ぐらいの売上のイベントなら違っていただろうが。

 

 

 

納税者以外の者による隠蔽仮装行為については、「納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。」と平成18年4月20日最高裁は、判示している。

この最高裁では、「納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができると解するのが相当である。」とした。

 

 

 

つまり、納税者側としては、防止・是正などが求められていることになる。

 

 

 

それを今回に当てはめると、結論として重加算税賦課決定処分が適法であるとの判断部分は納得できる。請求人は、元従業員に任せているのは構わないが、売上などチェックするべきであったが、それがなされていない。つまり、最高裁で示された「防止・是正」を怠っていたので、最高裁がいうところの「同視」に該当し、重加算税賦課決定処分は適法ということになる。

 

 

 

一方、法令解釈については、納得できない。

 

 

 

上記最高裁判示は税理士が行った行為についてだ。それを今回の元従業員に当てはめて、結論を求めることもできたはずだ。

 

 

 

 

それをせず、審判所は、「納税義務者本人の身代わりとして」などという新たな言葉を使って法令解釈をして重加算税の検討を行ったことはどうも解せない。

 

 

 

 

「身代わり」として関与し行った行為、それ自体が重加算税の賦課要件でなく、請求人が「法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたのに、それをせずに隠蔽仮装行為に基づいて過少申告をした」のが重加算税の賦課要件における同視の解釈ではありませんか。えー

 

 

 

 

請求人が被害者であることは事実だ。それに加えて重加算税も賦課しようとするのなら、ちゃんと賦課要件は確認しよう。

 

 

 

 

なぜ、最高裁判決を引用しない。えー

 

 

 

 

NORIKUMAクマ