NORIKUMAです。

 

 

 

確定申告も今週で終わり、残りがんばりましょう。

 

 

 

 

確定申告も終わりなのに、確定申告の事案。

 

 

 

事案の概要から。

本件は、開業医である原告が、平成28~30年分の所得税等の各確定申告について、自己の配偶者に支払ったとする青色事業専従者給与年額1800万円(月額100万円+賞与300万円×2回)の相当性を一部否認して処分行政庁がした増額更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分は違法であると主張して、被告に対し、上記更正処分の増額部分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める事案である。

 

 

 

 

めっちゃ、給与もらってる。えー

 

 

 

ほかの看護師さんは、どれくらいもらってるの。

 

 

 

原告は、配偶者に対し、事業に従事した対価として年額1800万円の青色事業専従者給与を支払った。他方で、原告は、診療所における看護師資格を有する他の使用人らに対しては、本件各年において、291万4480円(従事月数10月)から469万4599円の間で給与をそれぞれ支払った。

 

 

 

えらい、違いがあるが・・・・やっている仕事が違うのか。

 

 

 

原告の主張より。

「本件配偶者は、看護師長と事務長を兼任しており、看護師と事務員の統括、外来看護、受付業務、調剤等を行っている。使用人の誰よりも早く出勤し、最後まで居残って業務を行っており、昼休みには、在宅医療の往診、特定検診、予防接種、必要品の購入、銀行への振込も行い、終業後には、当日分の日計表の作成、領収書の整理、翌日の振込準備を行っている。これに加え、毎月、職員の給料計算等の労務管理や社会保険関係の書類の提出を行い、インフルエンザの予防接種の時期になれば、休日である土曜日及び日曜日にも接種及びその準備等を行うなど、時間外・休日労働が年900時間以上にのぼる。原告と使用人の連絡係として怒られ役も担っており、精神的負荷も大きい。このように、本件配偶者の従事する業務は余人をもって代え難いものであり、質及び量のいずれの観点から見ても幅広くかつ多くの業務をこなし、本件事業に多大な貢献をしている。本件専従者給与の年額1800万円は、本件配偶者の看護師としての経験・勤務年数、仕事の内容、労働時間及び役職等に照らし、労務の対価として相当であると認められるものである。」

 

 

 

 

この「怒られ役」の部分については、いかがでしょうか・・・。そもそも、こういう精神的負荷部分を賃金に上乗せしているという発想が、時代に合わないのではないでしょうか。えー

 

 

 

ま、租税訴訟なので、関係ないといえば関係ないですが・・・気になりました。キョロキョロ

 

 

 

さて、問題は、他の看護師とこの配偶者の給与格差をどう評価するかになります。

ここで実務的な話ですが、課税庁側は、税務調査後、税理士さんに対し、本件専従者給与の額を決定するに際して根拠とした数字や検討過程などがわかる資料の提出を求めています。

 

 

 

 

つまり、調査ではこの「根拠とした数字」と「検討過程がわかる資料」を残しておかないといけないとも言えます。

 

 

 

この事案の場合、税理士さんは、「令和元年版 TKC医業経営指標(M-BAST)[医業賃金統計編]」と題する続計資料を税務署に送付した上で、世間ではそのような賃金体系である旨を述べるにとどまり、結果的に、特にそういった検討はしていない旨返答しています。

 

 

 

 

TKCが悪いとはいえませんが、以前それを持ち出しても否認された事案もありましたね。

 

 

 

最終的には、

「原告は、本件訴訟において、医療施設等に勤務する看護師等の国家公務員に適用される「医療職俸給表(三)」を参考に、同表の7級37号俸に相当する月額45万3300円を、配偶者が事務長と看護師長を兼ねているため1.5倍し、更に管理職手当を各6万円とすれば月額79万9950円になるとし、月給80万円に割増賃金を積算して加えれば本件専従者給与は1800万円を上回る旨記載した書面を提出した。」とあります。

 

 

 

1.5倍の根拠は、80万円割増賃金って・・・どこから、どう出たの。

 

 

 

早速、長野地裁の判断を見てみましょう。長野地裁は、下記判断して、請求を棄却しています(R4.12.9 TAINS:Z888-2516)。

 

 

① 法令解釈について

「所得税法56条を受けた所得税法施行令164条1項は、「政令で定める状況」について、①青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、②その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況、③その事業の種類及び規模並びにその収益の状況と規定している。

 これらの規定によれば、青色事業専従者に支払った給与の額が、労務の対価として相当と認められるものとして事業所得等の計算上必要経費に算入することが認められるのは、所得税法57条1項及び同法施行令164条1項の掲げる上記の各事情を踏まえ、当該青色事業専従者に支払った給与の額と提供された労務との対価関係が明確であるものに限られるというべきである。」

 

 

 

② 本件への当てはめ

「認定事実のとおり、本件配偶者は、看護師使用人と比較すると多様な業務に従事しており、看護師長兼事務長として責任のある業務を担当し、かつ、その労務に従事した時間も多大であったものと見受けられ、それらの状況を原告、配偶者及び税理士において総合的に考慮した結果として、本件専従者給与の額が決められたことがうかがわれる。

 しかしながら、本件配偶者の労務内容や労務の量を客観的に示す証拠は断片的なものしかなく、それらが具体的に明らかであるとはいい難い。上記認定事実によっても、以下のとおり、労働時間、業務の多様性、責任や精神的負荷の大きさ等が具体的にどのように考慮されて支給額に反映されたのか、本件配偶者に対する給与の額が徐々に増加していった経緯等も含めて判然とせず、専従者給与の額は、配偶者の労務と対価関係が明確であるとはいえない。」

 

 

 

 

「また、類似同業者給与比準方式によっても、本件専従者給与の額は、平均額と比較して、平成28年分及び平成29年分(821万3334円)は約2.19倍、平成30年分は(792万4922円)は約2.27倍にもなり、上記認定事実からは、このような高額となる根拠を合理的に説明することは困難である。」

 

 

 

 

 

「さらに、変更届出書によれば、原告が配偶者に支払う青色事業専従者給与の月額は、配偶者が看護師資格を得て本件事業に従事し始めたことがうかがわれる平成15年4月以後の月額45万円から、平成18年1月以後は月額70万円、平成19年1月以後は月額80万円、平成21年1月以後は月額100万円と漸増しているところ、この間、「仕事の内容・従事の程度」欄の記載は、一貫して看護師、事務及び経理というものであって、平成15年4月以降変更はないし、この間に事業が拡大するなど、配偶者の業務が特段に増加したような事情も格別うかがわれない。そうすると、平成17年12月までは月額45万円であった支給額が、僅か3年余りで2倍以上に増額となった経緯についても、その具体的理由は全く不分明であり、その観点からも、本件専従者給与の月額100万円と労務の対価関係は明らかであるとはいい難い。」

 

 

 

③ 結論

「以上の検討によれば、専従者給与の額1800万円が、配偶者の労務の対価として相当であるとは認められない。」

 

 

 

 

こういう事業専従者給与関係は、税理士泣かせだよね。いや、だって、奥さんと話をすると決まって「私、どれだけ苦労していると思っているんですか」「ほとんど、私が事務仕事しているんですよ」となる。

 

 

 

 

分かります。でも、それと税金の話は違うんです。えー

 

 

 

 

しかし、ひどい話だ。私もブログを書いていて思った。課税庁もこういうところで、「青色事業専従者給与が・・・」なんてやってないで、政治と金の関係をなんとかしろ・・と叫びたくなる。

 

 

 

 

この配偶者、ちゃんと働いているんだからね。

 

 

 

 

話しが逸れてしまったが、結論として、こういう事案の場合、この金額はな・・・と思った場合には、きちんと根拠となる資料を残しておかなくてはならない。ここが実務的なポイント。

 

 

 

さて、最後に、この場合、適正給与額とはいくらかというところだ。そうすると、推計方法によることになる。

判決文には、ここのところこう書いてある。

「処分行政庁は、類似同業者給与比準方式を採用し、同方式における類似同業者を抽出するに当たり、類似同業者の抽出基準を、原告と同じ業種(内科医業)、類似する収入規模(年間の売上金額が原告の売上金額の2分の1以上、2倍以下)、本件診療所と同じ又は隣接する税務署の管内に事業所を有する個人事業主、かつ、青色申告事業者で、年間を通じて青色事業専従者給与を配偶者に支払っており、当該配偶者が看護師資格を有する者として設定し、原告との類似性を確保している。加えて、その所得税等の申告が確定している者を基準として設定し、災害等の特殊状況下にある者を除外するなどして、資料の正確性も担保しており、その抽出基準の設定は合理性が認められる。」

 

 

 

役員給与などと同じ方法だね。

 

 

 

そして、結局、いくらなのか。

「よって、本件における適正給与相当額は、処分行政庁がとった推計方法により算出された、平成28年分及び平成29年分につき821万3334円、平成30年分につき792万4922円と認めるのが相当である。」

 

 

 

 

何度もいうが、この配偶者、ちゃんと働いているんだよね。それを「周りの方はこのくらいの給与ですから・・」で適正額を決められてもね。

 

 

 

 

ただ、今なら給与を指摘されても「賃上げを促進する国の意向を忖度して、当診療所でも絶賛賃上げを実施中ですニコニコ」と言ったらどうだろうか。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ