NORIKUMAです。

 

 

 

本日は、外国子会社合算税制。この税制ほど、制度ができた時から、趣旨などが大きく変わったものも珍しい。

名称も、タックスヘイブン対策税制から変わり、訴訟も当初は、来料加工などが多かったが、そのうち、デンソー事件に代表されるように主たる事業はなにかが争われ・・・その後は、いままで考えなかったものが争点になっている。

 

 

 

 

早速、事案の概要から。

本件は、内国法人である原告A社が、法人税等の確定申告をしたところ、麹町税務署長から、A社と英国領バージン諸島法人C社(日本国籍を有し非居住者の乙が全ての株式を保有)が発行済株式総数のうち50%ずつを保有していたシンガポール共和国の外国法人B社が租税特別措置法(平成29年法律第4号による改正前のもの)66条の6第1項の特定外国子会社等に該当するとして、外国子会社合算税制の適用を受けた事案である。

 

 

 

 

これ、争点がいくつかあるのだが、そのうち、主要なものは、乙が「特殊関係非居住者」に該当するかである。

 

 

 

 

「特殊関係非居住者」について争われた珍しい事案だ。

 

 

 

まず、外国子会社合算税制をおさらいしよう。

発行済株式等の総数又は総額のうち居住者及び内国法人並びに特殊関係非居住者が有する直接又は間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合が50%を超える外国法人を、「外国関係会社」という(措置法66条の6第2項1号)。

そして、ここでいう「特殊関係非居住者」とは、居住者又は内国法人と一定の関係にある非居住者であり、居住者の親族、居住者と事実上婚姻関係と同様の事情にある者、居住者の使用人、内国法人の役員等がこれに該当する(措置法66条の6第2項1号、措置法施行令39条の14第3項)とされている。

 

 

 

つまり、今回であれば、シンガポールの会社B社の株主は、A社とC社なのだが、このC社の株主である乙が「特殊関係非居住者」であれば、上記の措置法66の6によりB社は外国関係会社となる。

 

 

 

あまりなじみのない「特殊関係非居住者」という用語であるが、日本貿易振興機構(ジェトロ)が2022年12月付「シンガポール進出時の税務的留意点 -外国子会社合算税制について-」では、「まずはじめに」とし、外国子会社合算税制の適用の判断に際し「保有割合の判定にあたっては、 日本法人または日本居住者と特殊の関係のある海外在住の個人(特殊関係非居住者)も含めて 50%を超えるかの判定を行うことになるため留意が必要です。」(3頁)との記載があり、シンガポールに進出する場合には、まず手始めに考えなければいけないもののようだ。

 

 

 

実際には、この乙さん非居住者でかつ民法725条の親族の関係にある「居住者」が存在することについては、訴訟の当事者間に争いがない。

 

 

 

 

では、裁判ではなにが争われたのかというと、措置法施行令39条の14第3項1号は、この「特殊の関係のある非居住者」の一つとして、「居住者の親族」を掲げていて、「居住者の親族」とはなんぞや・・ということだ。

 

 

 

これについては、条文上に明確な規定がなく、また、裁判例があるわけでもないので、致し方ない。

 

 

 

 

東京地裁は、下記のように判断をして、納税者の請求を棄却している(R5.3.16 TAINS:Z888-2501)。

 

① 法令解釈について

 

「租税法規については、租税法律主義(憲法84条)の下、原則として当該規定の文言からみだりに離れて解釈すべきでないところ、措置法施行令39条の14第3項1号の文言からすれば、「居住者の親族」とは、居住者と民法725条が定める親族(6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族)の関係にある者を意味すると解することが、文理に沿った解釈というべきであり、同項が対象とする者を更に限定する手掛かりとなるような文言ないし規定は存在しない。」

 

 

「外国子会社合算税制は、居住者又は内国法人が、軽課税国に所在する外国法人に対する資本関係を通じた経済実質的な支配力を利用して租税負担を不当に軽減することに対処することを目的とするところ、単に居住者が保有する当該外国法人の発行済株式等によって上記支配力の有無を判断すると、居住者が国外に居住する親族等に株式等を分散保有して支配力を及ぼす場合を捕捉することができなくなることから、居住者と一定の関係(特殊の関係)がある非居住者が直接的又は間接的に保有する当該外国法人の発行済株式等も考慮することとし、措置法施行令39条の14第3項各号がこの「特殊の関係」の内容を具体的に定めたものである。非居住者が株式等を分散保有する場合を捕捉して外国子会社合算税制の潜脱を回避するという上記立法趣旨に照らすと、「特殊の関係」を定めた措置法施行令39条の14第3項各号の規定をその文言から離れて限定的に解釈することは相当でない。」

 

 

 

「したがって、措置法施行令39条の14第3項1号の文言及び立法趣旨からすれば、「居住者の親族」とは、居住者と民法725条が定める親族の関係にある者をいうものと解することが相当である。」

 

 

 

② 本件への当てはめ

 

「乙は、措置法施行令39条の14第3項1号の「居住者の親族」に該当し、措置法66条の6第2項1号の「特殊関係非居住者」に当たる。」

 

 

 

 

雑誌等を読んでいると、この「特殊関係非居住者」というやや時代遅れ的な判断基準について、異論があるようだ。

ただ、親族というと、やはり民法から判断基準を持ってくることには致し方ない。

 

 

 

ただ、納税者の主張に

「令和2年6月末現在で外国籍の居住者(日本在住の外国人)の数は288万人であり、これらの者との関係での特殊関係非居住者は1000万人超に上るところ、これらの特殊関係非居住者は外国法人の株式をいくらか保有していると推測される。そうすると、そのような特殊関係非居住者が株式を保有する外国法人と内国法人が出資割合を50対50とするジョイントベンチャーを組成すると、当該内国法人は外国子会社合算税制の適用を受けることになるところ、そのようなジョイントベンチャーを外国子会社合算税制の適用を受けることなく組成することができないとなると、日本企業の海外における正常な経済活動を阻害する結果となり、外国子会社合算税制の趣旨に反する。また、多数存在する外国法人との間の50対50の出資割合のジョイントベンチャーの税務関係を全て見直す必要が生ずることになりかねない。」とある。

 

 

 

確かにその危惧は理解はできるが、だからこそ、先にご紹介した日本貿易振興機構(ジェトロ)のように「留意が必要・・・」となる。

 

 

 

そして、怖いのは、この事案では、確定申告書に適用除外記載書面を添付していなかったということだ。

 

 

 

想像するに、A社としては外国子会社合算税制の適用は頭になかったのかもしれない。そのため、この訴訟提起後に適用除外記載書面を提出している。

ただ、この書類の添付は、サンリオ事件でも指摘されているがその後の提出では認められず、この事案も、添付がなかったことについての「やむを得ない事情」は認められなかった。

 

 

 

この事案は、この東京地裁で確定。

 

 

 

ただ、この名称「特殊関係非居住者」とは怪しすぎないかい。もう少しいい名称はなかったのかとも思う。

 

 

 

 

納税者はこの「特殊関係非居住者」について「居住者の民法上の親族のうち、居住者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの」と限定して解釈すべきである。」と主張した。

 

 

 

 

そうだよね、まさに「特殊関係・・」だもんね。

 

 

 

 

でも、いや、そうじゃないとの判断が上記の民法725条。

 

 

 

 

きちんと法律で規定していないのなら、その意味する内容がわかりやすい言葉にするべきだ。えー

 

 

 

 

NORIKUMAクマ