NORIKUMAです。

 

 

 

先日、太田洋弁護士のセミナーを受講した。さすが、日経の弁護士ランキングのM&A分野で1位を獲得された弁護士さんだけあって、やっぱり鋭い。非常に勉強になった。

 

 

 

さて、本日ご紹介する裁決は、雑誌でも紹介されていたもの。特に題にあるとおり、「錦鯉」部分が紹介されていた。ただ、この裁決よく読むと、税理士としては、後段の「個別対応方式の適用の可否」の方が注意が必要だ。

 

 

 

早速、事案の概要から。

本件は、審査請求人が取得したとする錦鯉について、原処分庁が、当該錦鯉は、請求人のいわゆるみなし役員である実質経営者が所有する個人資産であるから、当該錦鯉に係る購入代金及び費用の額は、請求人から当該役員に対する経済的な利益の供与に当たり、当該役員に対する給与(賞与)に該当して、当該費用等の額は請求人の損金の額には算入できず、当該費用等の額は消費税等の課税仕入れに係る支払対価の額に含めることはできないとして、法人税等、消費税等及び源泉徴収に係る所得税等について、更正処分、納税告知処分及び重加算税等の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、これらの処分の一部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

最初に問題となる錦鯉についてみてみよう。

問題となったみなし役員についてだが、代表取締役の実父だ。この方は、平成9年5月1日から平成16年3月31日まで及び平成21年2月1日から同年12月31日までの各期間に請求人の取締役、平成26年4月1日には代表取締役に就任し、同日に辞任(取締役も辞任)していた。ただ、取締役の辞任以降も会社の経営上の決定権、人事権等を有し、法人税法2条15号に規定する役員(いわゆるみなし役員)に該当する者として、請求人を実質的に支配していた。

 

 

平成26年から錦鯉を購入しているのだが、ご存じのとおり錦鯉は、高いものは結構なお値段。請求人においても最初に購入されたものは、2000万円ということ。請求人は減価償却資産として計上していた。

税務調査に際し、この錦鯉の一部がみなし役員が居住する住宅の敷地内にある池にいるのを確認し、その他事業として、請求人が錦鯉の保有・育成・売買を行っていないと判断し、更正処分をしたようだ。

 

 

 

国税不服審判所は、下記判断をして納税者の請求を斥けている(R4.3.25 TAINS:F0-2-1161 ただし、重加算税については、計算誤りありのため、賦課決定処分は一部取り消されている)。

 

 

① 判断枠組

「本件各錦鯉がみなし役員に帰属するか否かについては、①各錦鯉の取得(取引)の経緯・状況、②各錦鯉の管理等の状況、③各錦鯉の収益、処分の状況、④各錦鯉に係る販売等の事業性及び事業計画の有無・内容等の諸事情に照らして実質的に判断すべきである。」

 

 

 

② 本件への当てはめ

「本件各錦鯉の取得(取引)の経緯・状況について、各錦鯉の最初の取引である没錦鯉に関して、契約書には買主として請求人名のほかにみなし役員の氏名が併記されているところ、一般的に、契約書の買主等として当該契約と無関係の者の氏名が記載されることは考えられず、契約当時にみなし役員が請求人の役員でも従業員でもなかったこと及び取引先と取引に至った経緯に照らせば、没錦鯉の買主はみなし役員であるものと解するのが自然である。また、没錦鯉に係る購入代金について、請求人から取引先に直接支払われるのではなく、あえてみなし役員を振出人とする小切手によって、みなし役員名で取引先に支払われているという経緯からも、没錦鯉の買主はみなし役員であったと解すべきである。」

 

 

 

「各錦鯉の管理等の状況については、各錦鯉のうち〇〇に預けているもの以外は、みなし役員の住居である住宅の敷地内にある池に保有・管理され、没錦鯉の代替となる錦鯉についても同池に搬入されたこと、各錦鯉の飼育に関する主な作業はみなし役員が行い、請求人の従業員等が、請求人の事業活動として各錦鯉の飼育等に係る作業に従事していたとは認められない。また、特に、錦鯉は比較的高価な固定資産というべきところ、法人がこのような資産を事業活動に供し、あるいは備品として管理等をする場合、厳密にこれを行うのが通常と考えられるところ、本件においては、調査時点で現存していることが確認された錦鯉の数量12匹は、請求人の償却明細書に記載されている数最20匹と齟齬が存在するほか、非常に高価な没錦鯉の代替となる錦鯉が簿外になっているなど、法人が行う資産管理としては余りにもずさんである。これらのことからすると、各錦鯉は、請求人の所有物ではなく、みなし役員に帰属する物として管理されていたと解するのが自然である。」

 

 

 

「本件各錦鯉の収益、処分の状況については、各事業年度において錦鯉に係る収入の計上がないこと、購入された各錦鯉の一部が、みなし役員の個人の名義で、××に出品されていることに加え、営利を目的とする法人において、高価というべき固定資産につき、社内の稟議や役員会の決議等の社内における意思決定を経ずに、当該法人と何ら取引関係のない者に資産を無償で贈与をすることは通常考えられないというべきところ、高価な資産というべき各錦鯉の一部については、みなし役員自身の判断で知人に贈与されていた。」

 

 

 

 

「各錦鯉に係る販売等の事業性及び事業計画の有無・内容等については、請求人は、各事業年度において、商業登記上、鯉の保有、生産、育成及び売買を事業の目的としていなかったことに加え、請求人は、錦鯉に係る事業を行っていたと認めることはできない。また、調査の開始後の令和2年2月3日付で、請求人は、変更日を平成27年3月10日として、鯉の保有等を事業の目的に追加変更しているものの、請求人において、平成27年当時、これらを業務として行うこととしていたのであれば、その時に追加変更をしていないのは不自然である。さらに、みなし役員において、錦鯉に係る販売や養殖等を行う意向が将来的にあった旨説明しているものの、本件各事業年度においてはいまだ不明確で具体性を欠くものといわざるを得ない。そうすると、当該資産が営利を目的とする法人に帰属するのであれば、それに係る事業活動が行われているか、具体的な事業計画等が存在するのが通常というべきところ、本件においてはいずれも存在しておらず、請求人が事業活動に供するものとして各錦鯉を所有していたと解することは困難である。」

 

 

 

 

③ 結論

「上記の各事情に照らして実質的に判断をすると、各錦鯉は、みなし役員の個人資産に当たるものと解するのが相当である。」

 

 

 

 

ここまでは、特に問題はないだろう。ちなみに裁決文中に出てくる「没錦鯉」とは、1匹2000万円で購入した錦鯉ちゃんで、平成26年5月に購入され、平成27年9月期に死亡していて、固定資産売却除却損として損金の額に算入されている。

2000万円が・・・・たった1年弱で・・・・キョロキョロ

 

 

 

さて、ここからが本題だ。

この会社は、不動産賃貸業などを行っている。とすると、消費税には気を付けなければいけない。その収入には、課税売上げとして建物賃貸収入などのほかに、非課税売上げとして土地賃貸収入及び社宅賃貸収入などがあるとのこと。

この税理士さんの前の税理士さんが担当していた平成23年9月課税期間及び平成24年9月課税期間は、いずれも課税売上割合は95%未満であり、消費税等の各確定申告書では、課税仕入れに係る消費税の額は、「課税売上げのみに要するもの」(課税売上対応)と「課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの」(共通対応)とに区分され、「課税売上げと非課税売上げに共通して要するもの」(共通対応)として、それぞれ約50万円が記載されている。

 

 

 

とすれば、気を付けるものだが、平成27年9月課税期間は、消費税の課税売上割合が95%以上であった。

税理士事務所の職員の申述として下記が裁決文に記載されている。

「請求人の平成26年10月1日から平成27年9月30日までの課税期間まで消費税の課税売上割合が95%以上で、課税仕入れに係る消費税の額の全額が控除対象であったこともあり、課税仕入れの用途区分を行う必要がなかったため、その区分を行わずに全額を課税売上対応の課税仕入れとして、会計システムに仕訳の入力を行っていた旨、平成28年9月課税期間以降は消費税の課税売上割合が95%を下回ったが、そのことを失念していたため、平成27年9月課税期間までの処理と同様、課税仕入れの用途区分を行わずに、仕訳入力を行っていた。」

 

 

 

 

毎期、95%未満で個別対応方式ならば、気を付けるものだけれども、たまたま、95%以上の期があると、それ以降は忘れてしまうことは、人として仕方がない。

 

 

ただ、その後、共通対応の経費があったので、個別対応方式に変更したいと裁決で述べても、それは難しいところ。

 

 

 

裁決では、

「請求人は、本件各95%未満課税期間において共通対応とすべき課税仕入れがあるにもかかわらず、当該課税仕入れに係る用途区分を行っていないことから、個別対応方式による控除対象仕入税額の計算を行うことはできない。したがって、請求人は、本件各95%未満課税期間において、控除対象仕入税額の計算につき、個別対応方式を適用することはできず、一括比例配分方式により計算することとなる。」としている。

 

 

 

 

この事案、雑誌では錦鯉部分しか取り上げていないが、本来税理士が読まなければいけないのは、この消費税部分だ。

つい、うっかりが発生しやすいのが、特に消費税。

税理士が気を付けても、職員にも共通認識がないと難しい。

 

 

 

 

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