NORIKUMAです。

 

 

 

 

やっと待ちに待った裁決がTAINSに収録されましたので、早速ご紹介を。

 

 

 

 

事案の概要から。

 本件は、審査請求人が、英国領ケイマン諸島における特例有限責任パートナーシップの資産に係る運営管理業務を受託しているところ、原処分庁が、当該業務に係る役務提供は当該特例有限責任パートナーシップの構成員である居住者に対し行われたものであるから、当該業務の対価は課税売上げに該当するとして原処分を行ったのに対し、請求人が、当該役務提供は非居住者である当該特例有限責任パートナーシップに対するものであるから当該業務の対価は免税売上げに該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

LPSの事案だ。LPSといえば、平成の終わり頃、一時期法人該当性が争われましたが、現在では裁判沙汰になることもなくなりました。ただ、今回は、珍しい消費税の事案となっている。

 

 

 

 

請求人は、有価証券の保有、運用、貸付け、管理、売買及びデリバティブ取引等を目的とする法人。特例有限責任パートナーシップ契約書には、このケイマンLPSの目的は、請求人が随時決定する投資先にLPSの資産を投資することにあるとされていた。

この契約に基づき、請求人は、役務提供していたわけで、その売り上げを輸出免税取引として処理していたら、原処分庁から、このLPSの特例有限責任パートナーシップの構成員は居住者だから、課税売上だと更正処分されたということ。

 

 

 

 

ここで、LPSについて過去の裁判例を確認してみよう。えー

 

 

 

思い出されるのは、米国デラウェア州LPSの法人該当性が争われた事例だ。

アメリカ合衆国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが行う米国所在の中古集合住宅の賃貸事業に係る投資事業に出資した甲らが、その賃貸事業により生じた所得を同人らの不動産所得に該当するとして申告していたら、課税庁より不動産所得に該当しないとされたもの。つまり、LPSに帰属するとして処分をした。

 

 

 

つまり、米国デラウェア州LPSは租税法上の法人に該当するかが争われ、平成27年7月17日の最高裁で我が国の租税法上の法人に該当すると判断した。

ここで大事なのは、じゃあLPSって日本では、租税法上の法人に該当するんじゃない・・と単純に考えてはいけないということ。

最高裁では、

「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の観点として、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される」としている。

 

 

 

 

じゃあ、今回のケイマンLPSも「設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから」検討ということになる。

ちなみに過去のケイマンLPSについて争われた事例もある。平成19年3月8日名古屋高裁では、「ケイマンにおける特例リミテッド・パートナーシップを含むパートナーシップは、法人格を有せず、構成員間の契約関係という性質を有するものと認められる」と判断されている。ただ、この名古屋高裁では、所得の帰属ではなく、損益通算の課否(組合参加契約は民法上の組合契約ではなく、利益配当契約か)なのでちょっと趣が違うので、一緒に考えてはいけない。

 

 

 

 

ただ、平成後期のLPS事案については、所得税事案が多かった。今回は、消費税ということ。では、審判所は、どのように判断をしたのか。

 

 

 

 

審判所は、下記判断をして、納税者の請求を棄却している(R3.11.10 TAINS:F0-5-369)。

 

① 判断枠組み

「消費税は消費に対して負担を求める税であり、国内で消費されないものには我が国の消費税等が免除される。そして、役務提供を受ける者が非居住者である場合には、原則国内で消費されないものとされ、役務提供の対価が免税売上げになることから、まずは、役務提供の相手方が誰であるかが問題となる。したがって、本件においては、消費税法上、役務提供の相手方はLPSと有限責任パートナーのいずれかをまず検討することとし、その上で、当該相手方が消費税法施行令1条2項2号に規定する非居住者に該当するかによって、役務提供が同令17条2項7号に規定する非居住者に対して行われる役務の提供に該当するか否かを判断することとする。」

 

 

 

 

② 本件への当てはめ

「本件LPSは、契約により、ケイマン特例法の諸規定に従い、特例有限責任パートナーシップとして、各パートナーの合意により創設され、その目的は、請求人が随時決定する投資先にLPSの資産を投資することとされている。また、本件LPSは、ケイマン法及びケイマン特例法によって規律されるところ、ケイマン法では、①パートナーシップとは収益を目的として共同で事業を営む人の間に存在する関係である旨、②会社又は団体が、改正会社法若しくはその他現行の会社の登録に関する法律に基づき会社として登録されているとき、又は他の法律、特許状若しくは英国特許状に基づき又はこれらに従って形成又は設立されているときは、その会社又は団体における構成員の関係は、ケイマン法におけるパートナーシップには該当しない旨及び③有限責任パートナーシップは、当該組織の負債、義務の全てについて責任を負う1人以上のゼネラル・パートナー及び当該パートナーシップに参加する時に資本として特定額の資本を出資し、出資額を超えて当該組織の負債、義務について責任を負わない1人以上のリミテッド・パートナーを含む限り、何人でも構成し得る旨がそれぞれ定められているとともに、特例有限責任パートナーシップに法人格が付与される旨の定めもない。

 これらのことを踏まえると、我が国の法令上、本件LPSは、法人格を有せず、収益を目的として共同で事業を営むための構成員間の契約関係という性質を有するものであると認められる。」

 

 

 

 

「本件LPSは法人格を有さず、LPSの構成員が共同事業を行っているものと認められるところ、本件LPSの構成員の資本拠出及び利益の分配の状況を踏まえれば、有限責任パートナーが役務提供に係る課税仕入れを行ったことになるのであるから、消費税法上、役務提供の相手方は有限責任パートナーであると認められる。」

 

 

 

 

③ 結論

「本件役務提供の相手方は有限責任パートナーであると認められるところ、有限責任パートナーは、いずれも、本件各課税期間において日本国内に住所を有しており、外為法6条1項5号に規定する「本邦内に住所又は居所を有する自然人」であるから、同号及び消費税法施行令1条2項1号の「居住者」に該当し、外為法6条1項6号及び消費税法施行令1条2項2号の「非居住者」には該当しない。したがって、本件役務提供は、消費税法施行令17条2項7号に規定する非居住者に対して行われる役務の提供には該当しないことから、本件役務提供に、消費税法7条1項の規定は適用されない。」

 

 

 

 

つまり、このケイマンLPSは、我が国の租税法上は法人格を有しないということで、役務提供の相手方は有限責任パートナーとされた。そして有限責任パートナーは居住者であったため、輸出免税取引としては認められないとされた。

 

 

 

 

なんだか、忘れ去られていたLPSだが、この裁決を読むと、実務上は難しい。

売上を見て、通常の輸出免税判定で考えられる「あ、海外の会社に対するものですね」「国内に所在する資産に対するものでしょうか」などのチェックだけではないということになる。

契約の内容から法人該当性を検討し、場合によればパートナーの居住者・非居住者の確認も必要となる。

 

 

 

LPS・・・やはり、恐るべし。

 

 

 

ところで、今回この裁決を読んで気づいたが、消費税法上の居住者・非居住者の判断が、外為法からきているということ。またひとつ勉強になった。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ