NORIKUMAです。

 

 

 

NORIKUMAは運転しないので、全く車には興味ないが、車にまつわる税法の解釈には興味がある。例えば、個人事業者が車を複数台持っていた場合の減価償却費の取り扱いや1台所有であってもそれを必要経費として所得税法はどのように判断する(走行距離別に家事費と必要経費按分する)のかなど。

 

 

 

 

そして、今回の事案は、フェラーリF50を譲渡した場合、その譲渡の取得費の計算上、減価の額を考慮するのか。こちらは以前に裁決を紹介させていただいております。(2022年09月05日ブログにて)

 

 

 

これ、税理士悩むと思いますね。私がもし申告を担当した場合、減価の額を考慮して計算したら、フェラーリオーナーの納税者からは、きっと水を浴びせられるだろう。車を愛する人からすると減価する=価値が減る・・・1年ごとに一定の価値が減るなんて・・・信じられない話だろう。

毎日乗っている軽乗用車なら、1年ごとに一定の価値が減ると他人様から言われても反論する人はいないだろう。しかし、車によっては、おいそれおかしいだろうということになる。

 

 

 

 

事案の概要は下記のとおり。

本件は、E税務署長が、①原告の平成27年分及び平成28年分の所得税等について、原告の所有していた車両が「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するとしてその譲渡所得の金額の算定上、取得価額から保有期間に係る減価の額を控除して取得費を計算し、 また、原告の外貨預金口座への入出金により生じた為替差損益を雑所得とした上で、その譲渡原価を総平均法に準ずる方法により計算した上、申告漏れがあるなどとして、それぞれ増額更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったこと、②平成29年分の所得税等につき、為替差損益に係る譲渡原価を総平均法により計算した上で原告が行った更正の請求に対し、更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことに対し、原告が、売却した上記車両中には「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しないものがあること、為替差損益は譲渡所得に該当すること及び為替差損益に係る外国通貨の譲渡原価の計算方法は総平均法によるべきことなどを理由に、上記増額更正処分等及び通知処分の一部の取消しを求める事案である。

 

 

 

 

車両は、フェラーリF50(車両A)とフェラーリ512TR(車両B)他フェラーリ2台の計4台を売却した。納税者は、これら車両に係る減価償却費を業務における必要経費の額には算入していないが、官公庁への陳情やF会の会員に会いに行くときに使用するほか、サーキット場で行われるフェラーリの展示会において展示するために使用していたとのこと。

 

 

 

F会とは、何。

判決文には、原告の紹介欄に「原告は、昭和51年▲月にF会を発足させ・・・・G株式会社を設立して事業を引き継がせるまでの間、 F会に係る業を営んでいた者」とある。

 

 

 

税法の話に戻るが、要は、売却した4台の車両のうち、貴重な車である車両Aと車両Bの減価償却資産該当性が争点となっている。

 

 

 

東京地裁は、下記判断をして、納税者の請求を棄却している(R5.3.9 裁判所のHPで誰でも無料で読むことができます)。

 

① 判断の枠組

「減価償却及び取得費控除の局面において、ある資産の価値が減少する程度の計算については、個々の資産に係る事象を捨象して類型ごとに行うことが前提とされている。これは、所得の算定方法を簡便かつ合理的な方法に統一し、課税の公平を図ることに資するという点でも、法の趣旨に適う合理的なものといえる。」

 

 

 

「ある資産が、「使用又は期間の経過により減価」(法38条2項)しない資産に該当するか否かの判断も、当該資産が、その属する類型において、社会通念上想定される本来的な目的・効用を前提に、当該目的・効用が期間の経過により減少していくか否かという点から行われるべきであり、ただ、個別の資産につき、その価値が、当該類型の資産に求められる本来的な目的・効用とは異なる面に置かれていることが社会通念上確立しているといえるような例外的な場合に、これと異なる判断がされるにすぎないものと解するべきである。」

 

 

 

② 美術品等該当性の判断

「本件車両A及びBは、いずれも自動車であるから、施行令6条6号にいう「車両及び運搬具」に該当する。そして、自動車の本来の効用は、 人や物を乗せ、原動機の動力によって車輪を回転させて路上を走ることにあるところ、経年や使用によって原動機の性能が低下したり、その構成部品が劣化したりすることによって、その機能は一般的・類型的に逓減していくものであり、逆に、およそ自動車である以上、かかる機能の劣化が一切発生しないとか、使用によってむしろ機能が向上するといった事態が生じ得ないことは、社会通念上明らかであるといえる。そうすると、自動車は、原則として「時の経過によりその価値の減少しない」 資産には該当しないものというべきである。」

 

 

 

「社会通念上「美術品」に該当しない資産、すなわち、当該資産の類型上、鑑賞以外の実用的な目的又は機能が想定される資産が、 なお「時の経過によりその価値の減少しない」資産に該当するといえるような例外的な場合とは、当該資産が、「骨とう」すなわち「古美術品、 古文書、出土品、遺物等」に類するといえる程度の長期間を経てもなお確立した高い価値を維持しているような場合等に限られるというべきであり、「希少価値」や「代替性のない」との文言もかかる文脈において理解されるべきであり、単に市場における希少性等によってその価格が(せいぜい数年単位の期間で)高騰しているにすぎないような場合を含むも のではない。」

 

 

 

③ 本件への当てはめ(車両A)

「フェラーリF50は、原告が入手した当時、中古車とはいっても製造から2年程度しか経過していない状態であり、売却時でみても製造から18年程度しか経過していないのであるから、いわゆる「骨とう」といえるほどの期間にわたり高い価値を維持しているとはいえない。そもそも、フェラーリF50の価格が高騰し始めたのは平成25年頃からで、現在のように数億円を超える価格で落札されるに至った背景にも、この時期以降、高級車等が投機の対象として見られるようになってきたこと(いわゆるオークション・バブル)があるものとうかがえる(なお、投機対象が変動したり、人々の趣味嗜好が変わったりすることにより、かかるバブル 的な価格が必ずしも長年にわたり維持されないことがあるのは公知の事実であって、現に、高額での落札後に供給量の増加により価格が下落した車種も見受けられる。)から、フェラーリF50の今後の価格推移については未だ不確定な面もあるといわざるを得ない。」

 

 

 

 

「そうすると、本件車両Aにつき、社会通念上「美術品」に該当しない資産が例外的に法38条2項による取得費調整の対象となる資産(施行令6条柱書きにいう「時の経過によりその価値の減少しない」資産)に当たるような場合、すなわち、当該資産が、「骨とう」、「古美術品、古文書、出土品、遺物等」に類似するといえる程度の長期間を経てもなお高い価値を維持しているような場合に当たると解することはできない。」

 

 

 

 

車両Bについての判断は省略した。これを読むといささか冷ややかな感じを受ける。つまり、今はオークション・バブルだけど、明日は分からない・・・的な。

だからこそ、拡大解釈せず、判断しますということなのだろう。税法を解釈する際には、その冷静さは必要だ。だが、いささか納税者には、その冷静さは冷たすぎる気もする。

 

 

 

 

一方で、この判決文で興味深いのは、バイオリンのストラディヴァリウスの話がでているところだ。

ストラディヴァリウスといえば、税理士はみんな知っている。某カレー店の創業者がストラディバリウスを課税庁から減価償却できない楽器と指摘されたことだ。

 

 

 

 

では、ストラディヴァリウスと比較してどうなのか。東京地裁は次のように判断している。

「ストラディヴァリウスは、時の経過とともに 歴代の演奏者の個性を加え、その実用的な機能(楽器としての演奏効果) にも深みが増すものと一般に評価されているという稀有な性質がある点で、原動機の性能の経年劣化を避けられない自動車とは異なる上、仮にこの点をおくとしても、ストラディヴァリウスは、現に200年以上にわたり一流のヴァイオリンとしてその価値が社会通念上も確立しているので あって、「骨とう」と称するのに十分な長期間を経てもなお高い価値を維持しているといえるから、これを「時の経過によりその価値の減少しない」 資産に該当すると判断することは社会通念にも合致する。これに対し、フェラーリ社の他の自動車の値動き等からみても、本件車両A及びBが、そのような長期間にわたって高い価値を維持し、今後も維持し得る資産であるとは断じ難い。」

 

 

 

 

 

最後に、この判決にはもう1点争点がある。外貨取引に係る所得が、雑所得と譲渡所得のいずれに該当するか。こちらは、為替差損益は雑所得、外貨の譲渡原価の計算方法については総平均法に準ずる方法と判断されている。

 

 

 

 

判決文の「車両A及びBが、そのような長期間にわたって高い価値を維持し、今後も維持し得る資産であるとは断じ難い。」との1文に、多くのフェラーリオーナーの怒りを買いそうな気がする。

 

 

 

NORIKUMAクマ