NORIKUMAです。
本日は、国税通則法のお話です。〇〇加算税といえば、無申告加算税や過少申告加算税などがありますが、それが賦課されないときには「正当な理由」というのが必要になります。
法令解釈としては、帰責事由・・真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情が必要になりますが、これなかなか難しく認定されないものが多いです。
今回は、無申告加算税の正当な理由が争われた事例。しかも、珍しく認められたものです。
早速、事案の概要から。
具体的に時系列で見ていく。
被相続人甲の共同相続人は、被相続人の長男Aである、二男B及び養子であるCの代襲相続人である請求人の3名である。
ただ、請求人に関しては、養子の代襲相続人ということで法定相続情報一覧図について登記官とやりとりがあった。
令和3年1月28日 登記官に対し、A、B及び請求人の3名を本件相続に係る相続人として記載した法定相続情報一覧図及び相続に係る戸除籍謄本等を添付して、法定相続情報一覧図の保管及びその写しの交付の申出をしている。
令和3年2月2日 出張所の職員は、請求人が本件相続に係る相続人に該当しない旨説明するとともに、法定相続情報一覧図の修正が必要な旨を伝えた。
令和3年2月3日 出張所の登記官に対し、ABの2名のみを相続人として記載した法定相続情報一覧図を提出した。その際、出張所の職員は、請求人が被相続人との養子縁組の前に出生していることが、請求人が相続人に該当しない理由と説明している。
令和3年2月5日 相続人がAB2名とする法定相続情報一覧図の写し(初回一覧図写し)を交付した。
令和3年3月8日 ABらの間で相続に係る遺産分割協議を行い、同月19日、相続税の申告書を共同して提出した。
令和3年4月20日 初回一覧図写しに、本件相続に係る相続人である請求人を除外した誤りがあることを把握し、同月21日、相続人3名の法定相続情報一覧図の写しを交付した。
令和3年4月29日 請求人を交え再度、遺産分割協議を行い、同年5月25日相続税の申告をし、ABは更正の請求をした。
で、裁決では、
原処分庁が、審査請求人の相続税の申告が法定申告期限後にされたものであるとして、無申告加算税の賦課決定処分をしたほか、延滞税の督促処分をしたのに対し、請求人が、当該申告は期限内申告であるなどとして、それらの処分の全部の取消しを求めた事案ということだ。
争点は2つある。ひとつは、請求人の申告が期限後申告書に該当するか。もうひとつは、無申告加算税の正当な理由の有無だ。なお、延滞税の督促処分については、延滞税が、既に完納されていることから請求の利益を欠く不適法なものとして請求は却下されている。
ひとつ目の争点だが、請求人が「相続の開始があったことを知った日」がいつかということになる。請求人は、被相続人が死亡した日に電話により死亡の事実は知っている。裁決では請求人は、「相続の開始があったことを知った日」は、一覧図写しの発行の日である令和3年4月21日と主張している。
国税不服審判所は、下記のように判断をして、期限後申告に該当するとしたが、無申告加算税の正当な理由を認めたため、賦課決定処分の全部が取り消されている(R4.6.16 TAINS:F0-3-854)。
① 期限後申告に該当するか
「相続税法27条1項にいう「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解される。」
「請求人は、被相続人の相続人であって、相続開始日(死亡日)に被相続人の死亡の事実を知ったところ、請求人について、自己が被相続人の相続人であることを相続開始日現在において知り得なかったような特段の事情は認められないから、請求人は、相続開始日に自己のために相続の開始があったことを知ったものと認められる。
したがって、請求人が相続の開始があったことを知った日は相続開始日であるから、本件相続税の法定申告期限は、その翌日から10月を経過した日の前日となるところ、本件申告書は、同年5月25日に提出されているから、期限後申告書に該当する。」
② 無申告加算税の正当な理由
「無申告加算税の趣旨に照らせば、国税通則法66条1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。」
「本件初回一覧図写しは、相続に係る戸除籍謄本等が出張所の登記官に提出された上で、出張所の職員による請求人が本件相続に係る相続人に該当しない旨の説明の内容に従った修正を経て発行されたものであるところ、請求人は、遺産分割協議には初回一覧図写しの記載内容のとおり参加しなかった。その後、一覧図写しが交付されたところ、請求人は、遺産分割協議を一覧図写しの記載内容のとおりA及びBとの間で行った上、本件申告をしたものである。」
「そうすると、上記の事実関係の下においては、請求人が、初回一覧図写しの記載内容のとおり、自己が本件相続に係る相続人に該当しないと判断して相続税の申告書を法定申告期限内に提出しなかったとしても、それには無理からぬ面があり、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、これを課することは不当又は酷というべきであるから、期限内申告書の提出がなかったことについて国税通則法66条1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するというべきである。」
この事案では、2つのことがいえる。
ひとつは、人がやることなので、仕方がないが、法定相続情報一覧図が間違えていた・・・とはちょっとそれってどうよと思う。
そんなことがあるとは、驚きだが、今回の事例のように、それが合っているかにより遺産分割協議に参加するかしないかが決まるケースもあるので、間違えていただけでは済まない話だ。お金に直結するし、財産が相続できるかできないか、他の相続人からしても財産が増減する可能性もある。
もうひとつは、無申告加算税の正当な理由について。
上記の間違えていただけでは済まない話なので、納税者のことを考えて帰責事由として審判所は認めたのだろう。そのため、今後このような事案が出てきた場合にも、無申告加算税の正当な理由として賦課決定処分はなされないのではと思う。
だが、相続税の申告が法定相続情報一覧図の誤りに左右されていいのかという疑問もある。
素人では判断が難しく、「法定相続情報一覧図のとおりにしたんです・・」と言い訳もできようが、税理士が申告を代理した場合、弁護士が遺産分割協議に参加した場合にはどうだろうか。
税理士がこの事案を読めば、法の不知と帰責事由との境が気になるところだ。
この事案でも処分行政庁側は「請求人が、自身が本件相続に係る相続人に該当しないと判断して相続税の期限内申告をしなかったことは、出張所の誤判断の有無にかかわらず、請求人自身の法の不知又は誤解に起因するものといわざるを得ず、かかる事情は主観的事情にすぎない」と主張した。
これに対し、審判所は「相続税の申告書が法定申告期限内に提出されなかったことは、初回一覧図写しの記載内容という請求人の責めに帰することのできない客観的な事情によるものであって、請求人の法の不知や誤解によるものにすぎないということはできない。」として処分行政庁の主張は退けられた。
一歩間違えれば、法の不知で終わったかもしれない事案だ。一方で、審判所は認めてくれたので良かったが・・。
しかし、法務局では法定相続情報一覧図は戦々恐々。そのうち、国家賠償請求も出てくるか。
税理士も誤りがあったのを見過して・・・・とは言われたくないものだが・・。
NORIKUMA