NORIKUMAです。

 

 

 

さて、本日は久しぶりの法人税。税務訴訟資料からです。令和になり、法人税の訴訟というと、組織再編税制やら外国子会社合算税制やらで、零細中小企業をみている税理士からすると雲の上の話のようで、なになら実感がわいてこない。

だが、ご紹介するものは、身近に感じる内容となっている。

 

 

 

事案の概要から。

医療法人である原告は、平成25年3月期から平成28年3月期までの各事業年度の法人税、平成26年3月期の課税事業年度の復興特別法人税及び平成28年3月期の課税事業年度の地方法人税について、原告の理事である甲院長に支給した当該年度に係る土曜日直手当、年末年始手当、早出手当及び回数手当(以下「本件宿日直手当等」という。)の全部ないし一部を損金の額に算入して確定申告ないし修正申告をした。これに対し、大東税務署長(処分行政庁)は、本件宿日直手当等を損金の額に算入することはできないとして、平成30年5月8日付けで、原告に対し、本件各事業年度にかかる法人税の各更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分、平成26年3月期の課税事業年度に係る復興特別法人税の更正処分等を行った事案である。

 

 

 

 

 

要は、上記の宿日直手当等は、役員給与として損金の額に算入できるかということだ。

 

 

 

 

問題となった土曜日直手当、年末年始手当、早出手当及び回数手当とは、どのようなものだろうか。

「土曜日直手当」とは、土曜日の日直勤務を命ぜられた医師(常勤)に対し、その勤務1回につき1万円が支給されるものであり、「年末年始の手当」とは、年末年始の期間中の休診日に日直ないし宿直として勤務した医師に対し、その勤務1日につき4000円が支給されるもの。

「早出手当」とは、月曜日の午前7時30分から午前8時30分までの間勤務した医師に対し、その勤務1回につき5000円が支給されるものであり、「回数手当」とは、宿直ないし祝祭日の日直勤務を命ぜられた医師(常勤)に対し、その勤務1回につき2万5000円が支給されるものとのこと。

 

 

 

 

この手当についてはよくあるものだろうが、それを医療法人の理事に支給した場合、定期同額給与となるのかだ。

 

 

 

 

というか、法人にこういう手当の制度があるとしても、理事という役員に対しては支給しないのが一般的だが、支給した場合には定期同額給与として損金算入できるのか。

 

 

 

裁判では、定期同額給与について、類型①から③に分けている。

定期同額給与の類型①は、法人税法34条1項1号の「その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」で、

定期同額給与の類型②は、法人税法施行令69条1項1号の「定期給与で、次に掲げる改定(イ通常改定、ロ臨時改定事由による改定、ハ業績悪化改定事由による改定)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの」、

定期同額給与の類型③は、同2号の「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」だ。

 

 

 

納税者は、上記手当のうち、最低月額部分(各事業年度における宿日直手当等の手当ごとの各月の支給額のうち最も少ない金額に、各事業年度の月数を乗じて算出した金額)は定期同額給与の額に該当するとして、損金算入を認めるべきと主張している。

 

 

 

 

松江地裁は、下記判断をして、納税者の主張を棄却している(R3.2.8 税務訴訟資料として税務大学校のHPでどなたも無料で読むことができます)。

 

① 定期同額給与の類型②、③について

「本件各事業年度の各支給時期における各手当の支給額は同額ではないところ、平成28年3月期を除き、給与改定がされた場合ではないから、「定期同額給与の類型②」には当たらない。

 また、定期同額給与の類型③の「経済的な利益」とは、法人が行為をしたことにより実質的にその役員等に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものをいうと解されるところ、本件宿日直手当等は給与の支給そのものであって、「経済的な利益」ではないから、「定期同額給与の類型③」にも当たらない。」

 

 

② 定期同額給与の類型①について

「本件宿日直手当等は、本件各事業年度の各支給時期における各手当の支給額が同額ではないから、本件宿日直手当等は「定期同額給与の類型①」に当たらない。」

 

 

 

③ 納税者の主張について

「本件宿日直手当が本件病院の医療体制を維持するうえで必要不可欠な業務として甲院長が宿日直等を行ったことに対する所定の基準の基づく手当であり、月による大きな変動もなく継続的に支給されていたものであって、その支給に恣意性はないとしても、各支給時期における支給額が同額でない以上、立法趣旨から法律の文言に反して定期同額給与の類型①に当たると解することはできない。」

 

 

 

「原告は、「継続的に供与される経済的な利益」についてはその供与される利益の額が毎月「おおむね一定」であるものが損金の額に算入されるとされていること(定期同額給与の類型③)との均衡や、担税力に応じた課税(応能負担原則)の観点からしても、本件宿日直手当等の全部を損金不算入とするのは極めて不合理である旨主張する。

 しかしながら、法人税法34条1項によれば、役員に対して支給する給与のうち、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するものについては、不相当に高額な部分等を除き損金の額に算入するとされていること、役員に対して支給する給与について各支給時期における支給額を同額とするよう給与体系を見直すことは比較的容易であると考えられることからすれば、役員に対して支給する給与のうち本件宿日直手当等のように各支給時期における支給額が同額でないものについてその全部を損金の額に算入しないものとすることが極めて不合理であるなどとは到底いえない。」

 

 

 

 

 「以上のとおり、本件宿日直手当等は、法人税法34条1項1ないし3号のいずれにも該当しないところ、その一部である本件最低月額部分について損金算入を認める法的根拠は見当たらないことからすれば、本件宿日直手当等の全部について損金の額に算入することはできない。」

 

 

 

 これ、松江地裁なので、このような理由付けとなっているが、本来であれば、会社法での定めなど会社と役員との委任関係を含めて判断をするべき。そうすれば、結論は同じであっても、重きが違ってくるはずだ。

それに、使用人兼務役員の給与との相違ももう少し、掘り下げるべきだ。これでは、同じ金額でないから定期同額給与でないという・・・まさに言葉尻を捉えるだけとなってしまう。

 

 

 

 

また、この裁判では、もうひとつ論点がある。

 

 

この事案は、調査により調査官から、これら手当は定期同額給与に該当しないと指摘され、納税者は修正申告をした。

その修正申告書には、納税者の関与税理士が作成した税理士法33条の2第1項に規定する書面が添付されており、同書面には、本件各事業年度における宿日直手当等の手当ごとの各月の支給額のうち最も少ない金額に、各事業年度の月数を乗じて算出した金額(最低月額部分)は定期同額給与の額に該当し、これを超える部分のみが定期同額給与の額に該当せず損金不算入となると判断した旨などが記載されていたということ。

 

 

 

 

だが、税理士法35条2項本文に基づく意見を述べる機会を与えずに、宿日直手当等の全部について損金の額に算入されないとして、最終的に更正処分等が行われた。

 

 

 

 

裁判では、税理士法35条2項、憲法31条に反する手続違法があると納税者側は主張した。

 

 

 

個人的には、これ、当初申告で添付したのならまだ話は別だが、修正申告書に添付というのはどうなのだろうか。私なら添付でなく、調査官に直接言うが・・・。ただ、直接言ってもダメだったので、添付したとも考えられるが。

 

 

 

これについて、松山地裁は、

「本件最低月額部分を定期同額給与として損金の額に算入することができないことは明らかであるから、本件は、税理士法35条2項ただし書が規定する「申告書及びこれに添付された書類の調査により課税標準等の計算について法令の規定に従っていないことが明らかであること(中略)により更正を行う場合」に該当する。

 よって、同更正に際し関与税理士に対し当該事実に関し意見を述べる機会を与えなかったことに手続違法はない。」とした。

 

 

 

 

 

結論は、上記のようになっているが、書面添付の「関与税理士に対し当該事実に関し意見を述べる機会を与えなかったこと」について、争われた事例は、非常に珍しい。私も初めてだ。

今度は、いい結果となるものが裁判ででるといいけれども・・・。

 

 

 

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