NORIKUMAです。

 

 

 

さて、年末押し迫った今日この頃。やっと、やっと収録された組織再編成に係る行為計算否認の裁決。

雑誌に紹介された例のゴルフ関連の会社のお話です。早速、事案の概要から。

 

 

 

 

本件は、審査請求人が、適格合併に係る被合併法人の未処理欠損金額を請求人の連結欠損金額とみなして損金の額に算入し連結確定申告をしたところ、原処分庁が、当該合併は、「法人税の負担を不当に減少させる結果」となるとして、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定を適用し、当該未処理欠損金額を損金の額に算入せずに更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該合併は通常想定される組織再編成の手順・方法に基づき実態に即した形式によって行ったものであり、何ら不自然ではないこと等を理由にして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

兎に角、この事案の特徴は、2段階の合併を経て繰越欠損金を引き継いでいるということだ。

具体的には、A社がB社を合併する場合、事業継続要件を満たさなければ繰越欠損金を引き継げないにも関わらず、その間にC社を入れることで、繰越欠損金を引き継げたということ。これに対し、課税庁側が上記のように、法人税法132条の2で否認した。特に、この事案では、B社が休眠状態であったということも特徴のひとつだ。

 

 

 

 

ここで問題となる条文が法人税法第57条第2項だ。これは

「適格合併が行われた場合において、当該適格合併に係る被合併法人の当該適格合併の日前9年以内に開始した各事業年度において生じた欠損金額があるときは、合併法人の当該適格合併の日の属する事業年度以後の各事業年度における同法第57条第1項の規定の適用については、当該前9年内事業年度において生じた未処理欠損金額は、それぞれ当該未処理欠損金額の生じた前9年内事業年度の開始の日の属する当該合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなす旨規定している。」(平成29年法律第4号による改正前のもの。)

 

 

 

 

合併1では、法人税法第2条第12号の8のイに規定する完全支配関係適格合併の要件を満たす合併(C社がB社を吸収合併)を行い、同日に、合併2として、同法第2条第12号の8のロに規定する支配関係適格合併の要件を満たす合併(A社がC社を吸収合併)を行った。これでA社は無事、B社が有していた繰越欠損金を引き継げるということだ。

 

 

 

それは、確かにそうだけれども、法律上認められていることでもある。だからこそ、法人税法132の2の出番ではあるのだけれども。えー

 

 

 

 

審判所は、平成28年2月29日最高裁判決より、濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出するなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当であるとして、納税者の請求を棄却している(R2.11.2 TAINS:F0-2-1034)。

 

 

 

① 法令解釈

「組織再編税制の基本的な考え方の「移転資産等に対する支配が継続している場合」としては、当該移転資産等の果たす機能の面に着目するならば、被合併法人において当該移転資産等を用いて営んでいた事業が合併法人に移転し、その事業が合併後に合併法人において引き続き営まれることが想定されているものといえる。そして、完全支配関係がある法人間の合併は、いわば経済的、実質的に完全に一体であったものを合併するものといえるのに対し、支配関係がある場合の合併や共同事業を営むための合併の場合は、経済的同一性・実質的一体性が希薄であることから、上記の基本的な考え方に合致するように、従業者引継要件及び事業継続要件等の要件が付加されているものと考えられる。

 そうすると、完全支配関係にある法人間の適格合併について、法人税法132条の2の適用の有無に関し、その「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」との要件に係る租税回避の意図があるか否か、同法57条2項及び同法81条の9第2項2号の趣旨目的から逸脱しているか否かについては、事業の移転及び継続を含め検討すべきと解される。」

 

 

② 当てはめ

「B社の本件未処理欠損金額は、合併1が法人税法2条12号の8のイに規定する完全支配関係適格合併の要件を満たすものとして、同法57条2項により、C社に引き継がれた後に、同日、同法2条12号の8のロに規定する支配関係適格合併の要件を満たす合併2により、請求人に引き継がれたものである。仮に、請求人が完全支配関係にないB社を直接合併する場合には、本件未処理欠損金額を引き継ぐためには、事業継続要件を満たす必要がある支配関係適格合併に該当する必要があるところ、B社は合併の日から遡ること5年以上も前から事実上休眠状態にあり、合併の時点における事業実態はなかったものと認められる。そうすると、B社にはそもそも組織再編成によって「引き継がれるべき事業」がなく、B社が有する未処理欠損金額は、通常の組織再編成の手順によっては請求人に引き継がれることがなかったものである。それが、合併1という形式を作出することにより、事業実態がないB社の未処理欠損金額が、実際に事業を営むC社の未処理欠損金額として変換されることで、事業継続要件を満たさなかったB社につき、あたかも当該要件を満たすような外形が作り出されたものといえる。このような場合においてまで、未処理欠損金額の引継ぎを認めることとするのは、法人税法57条2項の趣旨及び目的から逸脱したものといわざるを得ない。」

 

 

 

③ 結論

「本件合併に係る一連の行為は、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであり、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由は存在しないものと認められる。

 そして、このような本件合併に係る一連の行為は、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様で法人税法57条2項の適用を受けるものといえ、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものと認められる。

 よって、請求人が、本件合併に係る一連の行為によりB社の本件未処理欠損金額を請求人の連結欠損金額とみなして、当該連結欠損金額に相当する金額を、本件連結事業年度の連結所得の金額の計算上、損金の額に算入したことは、法人税法132条の2に規定する「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当する。」

 

 

 

 

平成28年2月29日最高裁判決ということで、IDCF(ヤフー)事件の判決が引用されている。ただ、裁決書にある法令解釈の資産移転や事業継続のくだり「組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される。」などは、TPR事件の引用となっている。つまり、組織再編税制の裁判の判示事項が集まっているともいえる。

 

 

 

 

特に、裁決書の「B社にはそもそも組織再編成によって「引き継がれるべき事業」がなく・・」というフレーズがズシリときた。確かに、組織再編成とは、そういうことだ。そういうことを改めて認識させられた裁決。

 

 

 

ただ、この裁決が紹介された雑誌では、法人側の事情についても記載されている。確かに休眠状態といってもいろいろな事情があることは確か。そもそも合併は欠損金の引継ぎだけを目的に行われるわけではないだろう。

 

 

 

 

請求人も「合併を合併1と合併2の2段階で行ったのは、合併事務手続を簡素化する観点」と主張している。その理由もあるのだろうが、審判所は2段階の合併がダメといっているのではなく、2段階の合併により本来引き継げないはずの繰越欠損金を引き継げるようになったことが、法人税法132条の2に規定する「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」と判断したということ。つまりヤフー最高裁判決流にいうなら「組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの」ということだろう。ただ、これ、一方では「法がそれを許している」ともいえる。

 

 

 

 

ダメならダメと法律に書いとけ・・的な。

 

 

 

 

この事案は、訴訟になっているということだが、その後の動向は聞こえてこない。裁判所はどう判断するか。注目の事案。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ