NORIKUMAです。

 

 

 

さて、最近所得税以外のものがTAINSに収録されないため、今週も所得税。

特に税法上問題のない事案だが、知らないでやってしまうと後々相続人が大変だ。

 

 

 

事案の概要から。

本件は、原処分庁が、Aが遺言により株式を公益財団法人へ遺贈しており、所得税法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》第1項の規定により当該遺贈時に亡Aによる株式の譲渡があったものとみなされるとして、亡Aの共同相続人の一人である審査請求人(Aの三男)に対して、亡Aに係る所得税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該遺言は無効であるから、同項の規定の適用はないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

 

 

 

 

所得税法59条のみなし譲渡ですね。税理士は知っているけど、知らない人からするときっとよくわからない法律だろうね。税法独特の考え方というか・・・。

 

 

 

 

で、この株式はしかも取引相場のない株式だ。

 

 

 

 

相続人泣かせの遺贈。申告どうするんじゃ。えー

 

 

 

 

相続人は結局、「遺言は有効か否か」という税法解釈以外の主張をするしかない。遺言書も筆跡鑑定などの鑑定も行われた。

 

 

 

 

国税不服審判所は、下記のように判断して請求を棄却している(R2.4.1 TAINS:F0-1-1263)。

 

 

「本件遺言が自筆証書遺言であることは争いがないところ、同遺言は、遺言者自身が遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印することによってすることができる(民法第968条第1項)のであるが、自書が要件とされるのは、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会いを要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かを巡って紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とするのであるが、このことに鑑みても、本件遺言書が亡Aの自書ではないと認めることは困難である。」

 

 

 

 

「そうすると、本件遺言書は、亡Aが、全文、日付及び氏名を自書し、押印して作成したものと認められ、民法第968条に規定する自筆証書遺言の方式を充足しており、亡Aは同時点において遺言能力を有していたことから、本件遺言は有効であると認められる。」

 

 

 

「本件遺言は有効であるから、本件株式は、亡Aから本件財団に対し遺言に係る遺贈により移転したものと認められ、亡Aの譲渡所得の金額の計算については、本件相続の開始の時に、その時における価額に相当する金額により、本件株式の譲渡があったものとみなされることとなる。」

 

 

 

 

裁決はここまでだが、この事案税理士が読めばいくつか裏があるのでは?と思うだろう。えー

 

 

 

 

ひとつは、この遺贈された株式はなに?と思うだろう。また、取引相場のない株式を公益財団法人へ遺贈するなどは、プロのお仕事の匂いがするが、プロならみなし譲渡の申告を忘れるなんてあるのだろうかという疑問だ。

 

 

 

これについて、裁決書にこういう文章がある。

「■■■■■■■■■■が作成した平成9年11月13日付の「ご報告」と題する書面には、亡Aが本件会社の株式1,000株を財団に寄附した場合には、相続財産の減少11億円、相続税の減少6億円と記載されており、本件遺言書の内容も本件会社の株式1,000株を財団に寄附するものであることからすれば、B社の創業者の妻である亡Aには、一族が負担することになる相続税を節税すべく、会計事務所の提案と同内容の遺言書を書く動機があったものと認められる。」

 

 

 

 

 

つまり、遺贈した取引相場のない株式とはこの亡Aのご主人が創業した会社の株式で、相続対策として行ったということ。そしてそれを提案したのは会計事務所ということが分かる。

 

 

 

 

相続税は節税されたんだろうけど、所得税はどうよ。えー

 

 

 

 

ここで、思い浮かぶのは、例のあの事件。

 

 

 

 

この事案も遺言書が書かれたのは平成10年。更正処分を受けたのは平成25年分の所得税等だ。

 

 

 

 

タキゲン事件の譲渡が行われたのは平成19年。世に知られるようになった地裁判決が出たのは平成29年8月。税理士が全員驚いた高裁判決が出たのが平成30年7月。

 

 

 

そのため、この事案のようなことをしたら恐ろしいみなし譲渡ということがありますよという認識がなかったのか。いや、あったのに申告をしなかったのか。そこは不明だ。

 

 

 

 

それにいくら公益財団法人への遺贈とはいえ、株式ですから議決権やら会社経営権やらいろいろ後々大変だと思うのだが、そこも不明だ。この時に措置法40条はあったのか、いやあっても取引相場のない株式だからダメやな。

 

 

 

 

NORIKUMAクマ