NORIKUMAです。

 

 

 

バンクシーがアメリカの黒人男性の死亡を受けて作品を発表した。その際に発表したメッセージに感動した。人種差別をアパートの水道管の水漏れを例えにしているのだが、これは人種差別のみならず、世の中にはよくあることだ。その意味で、いろいろ考えさせられるメッセージ。

 

 

 

さて、ずっと塩野義製薬事件の判決文が読みたくて探していたのだが、灯台下暗し。裁判所のHPにアップされとるやないか。えー

 

 

 

では、事案の概要から。

内国法人である原告は、米国法人との間で、医薬品用化合物の共同開発等を行うジョイントベンチャーを形成する契約を締結し、同契約に基づき、英国領ケイマン諸島において、特例有限責任パートナーシップであるCILPを設立し、そのパート ナーシップ持分を保有していたが、その後のJVの枠組みの変更に際し、 平成24年10月31日、上記CILPのパートナーシップ持分全部を原告の英国完全子会社に対し、現物出資により移転した。

原告は、本件現物出資が法人税法(平成28年法律第15号による改正前の もの。)2条12号の14に規定する適格現物出資に該当し、同法 62条の4第1項の規定によりその譲渡益の計上が繰り延べられるとして、平成25年3月期の法人税及び復興特別法人税につき確定申告をし、同確定申告に係る繰越欠損金の額を前提として、平成26年3月期の事業年度及び課税事業年度の法人税等につき 確定申告をしたところ、東税務署長から本件現物出資が適格現物出資に該当しないことなどを理由に平成25年3月期の法人税等につき各更正処分等を、平成26年3月期の法人税等につい て、上記各更正処分による繰越欠損金の額の減少等を前提に修正申告をした上で更正の請求をしたが、東税務署長から更正をすべき理由がない旨の各通知処分を受けたため、これら各処分の取消しを求める事案です。

 

 

 

英国子会社は、その後このCILPのパートナーシップ持分を、別法人に譲渡している。

 

 

 

ここで、この判決の第一印象だが・・・・ケイマンって・・・・それだけで印象悪くない。えー

こういうものも、見た目が9割。たぶん、課税庁も「え、ケイマン」って思ったんだろうね。(勝手な想像だけど、違っていたら、ごめんなさいね)

 

 

 

 

ま、東京地裁は、見た目が9割のところを、きちんと中身で判断して、納税者の主張が認められているからいいんだけれども。

 

 

 

さて、ここで、問題となっている条文について確認しましょう。

法人税法(平成28年法律第15号による改正前の もの。)2条12号の14に規定する適格現物出資ですね。

この当時の条文は、次のようになっています・・いました。

法人税法2条12号の14は、適格現物出資とは、同号イ~ハのいずれ かに該当する現物出資(外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの及び外国法人が内国法人に国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの等を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう旨を定め、同号イにおいて、その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資を掲げる。

 

 

 

 

ということで、適格現物出資と認められれば、法人税法62条の4第1項により、その被現物出資法人に移転をした資産及び負債のその適格現物出資の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、内国法人の各事業年度の所得の金額を計算することとなる。

 

 

 

ここでいう、政令として、施行令4条の3第9項(現行:10項)は、法人税法2条12号の14に規定する国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国内にある不動産、 国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の100分の25以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。なお、この「株式」には「出資」が含まれる〔施行令4条の3第4項5号〕。)又は負債とし、法人税法2条12号 の14に規定する国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国外にある事業所に属する資産(国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権を除く。)又は負債とする旨を定めている。

 

 

 

 

この塩野義製薬の事案では、現物出資の対象資産であるCILPのパートナーシップ持分が施行令4条の3第9項(現行:10項)に規定する「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かが争われている。

 

 

 

たぶん、現物出資が、建物とかで誰がみても国内にありますね・・・とわかるものならいいけれども、ケイマンのLPSのその持ち分でしょ。

なにをもって「国内にある事業所に属する資産」と判断するのか、わからん。ショボーン

 

 

 

 

課税庁側は、法人税基本通達1-4-12により「現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」であるか否かは、その資産が記帳されている事業所が国内にあるか否かを検討し、次いで、その資産の記帳された事業所とは別の事業所で実質的に経常的な管理が行われていたと認定できるほどの事実が認められるか否かで判断するのが相当である」とした。

 

 

 

一方納税者側は、CILPは日本の租税法上、組合と同様に取り扱われるから、本件現物出資の対象資産は、JVが行う事業を構成し、有機的一体として機能するCILPの事業用財産(に対する原告の有する持分割合相当の持分権)であり、出資持分それ自体ではないとし、「資産が「属する」事業所は、CILPの事業用財産の経常的な管理を通じて、その資産の価値を創造又は増大させている事業所であり、それが国内にある事業所か否かで適格現物出資該当性を判断すべきである」と主張した。

 

 

 

 

そもそも現物出資の対象資産が出資持分でないという納税者の主張段階で、「え、そうなんですかびっくり」という感じ。つまり、そもそもこの現物出資の対象資産はなんなのか、そして、「国内にある事業所に属する資産」の判断基準はなにかということが、この裁判のポイントだろう。

 

 

 

おまちかね。東京地裁は次のように判断をして、納税者の主張を認めている(R02.3.11 裁判所HPの下級裁判所 裁判例速報に収録されていますので、どなたも無料で読むことができます)。計35頁、思ったほど頁数は多くないです。

 

① 適格現物出資制度の概要

「適格現物出資制度は、平成13年度税制改正で導入された組織再編税制の 一部であり、内国法人が法人に対して行う資産(資産と併せて負債を出資する場合の負債を含む。)の現物出資は、法人税法上は資産の譲渡として扱われ、現物出資の時点で当該資産の時価による譲渡があったものとして法人税の課税対象となるのが原則であるが(法人税法22条2項)、その現物出資が適格現物出資に該当する場合には、それによる譲渡損益の繰延べが認められている(法人税法62条の4第1項)。これは、法人税の負担が現物出資による企業再編の阻害要因となることを防止し、企業再編を容易にするために定められたものであると解される。

ただし、法人税法2条12号の14の括弧書きにおいて「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」が適格現物出資から除かれており、この規定を受けた施行令4条の3第9項は、 国内にある資産又は負債として「国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債」を定めている。これらの定めは、国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し、我が国の課税権を確保しようとする趣旨で規定されたものであると解される。」

 

 

 

 

② 「国内にある事業所に属する資産」の判断基準について

「法人税基本通達1-4-12は、「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは、原則として、当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するが、実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産については、国内にある事業所に属する資産に該当することになる旨を定めている。 この法人税基本通達が示す判断基準は、まず、その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し、その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし、次いで、その判定の結果当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し、それが肯定された場合に 「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。このように理解される判断基準は、前記法令の趣旨に鑑みて、合理性を有するものということができ、本件においても、基本的にこの基準に沿って検討するのが相当である。」

 

 

 

 

③ 本件現物出資の対象資産について

「本件現物出資契約においては、本件CILP持分が「本件リミ テッドパートナーシップ持分」と定義され(条項1.1)、当該「本件リミテッドパートナーシップ持分」が現物出資の対象資産とされていた (条項2.1)のであるから、本件現物出資の対象資産はCILP 持分であったと解するのが相当である。

もっとも、CILPは、我が国の組合に類似した事業体であり、ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても、CILPの事業用財産の共有持分(準共有持分を含む。)と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていないものと解される。こ の点が、法人における株式の移転とは根本的に異なる点である。 そうすると、本件現物出資の対象資産となったCILP持分についても、その内実は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものと捉えられなければならない。」

 

 

④ 本件への当てはめ

「CILPの事業用財産は、①現金、②知的財産のラ イセンス、③治験データ等の無形資産、④〇〇への出資等で構成 されている。そして、このうち、現金は、米国で開設されたCILP又は〇〇名義の預金口座に入金され、また、CILPの事業に係る記帳、会計処理、税務申告等の経理業務は、△△側が有する米国の事業所において行われ、知的財産のライセンスも。CILP及び〇〇の連結財務諸表に記録されていたというのである。さらに、治験データは、△△側のデータベースに保管され、原告には同データベースへのアクセス権が付与されていなかったというのであり、△△側が同データベースを管理する事業所を我が国内に有していたとは認められない。 そうすると、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理は、 いずれにしても△△側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において行われていたということができる。

 

CILPの事業用財産の経常的な管理は、CILPの事業活動の一部であり、それを行う事業所がCILPの事業所に当たることは明らかであるから、CILPのパートナーであった原告にとっても、当該事業所はCILPの事業活動を行う原告の事業所であったということができる。  しかし、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が行われていた事業所は、前記のとおり、米国その他の我が国以外の地域に所在して いたから、当該事業所が原告の国内にある事業所に当たるとはいえない。」

 

 

⑤ 結論

「以上のとおり、本件現物出資の対象財産であったCILP持分は、その主たる構成要素であるCILPの事業用財産(の共有持分)のうち主要なものの経常的な管理が国内にある事業所ではない事業所において行われていたということができるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当しないというべきである。 したがって、本件現物出資は、適格現物出資に該当するものと認められる。」

 

 

 

 

東京地裁も、通達の合理性は認めている。東京地裁の判断は非常に丁寧にまとめられていて、読めば、確かにねと思う。

では、同じ通達から課税庁の判断がなぜずれたのかを確認する。

 

 

 

課税庁側は、この現物出資の対象資産は、CILP持分そのものであり、その内実は、CILPのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体(個々の事業用財産の共有持分を含む。)であるとした。持ち分そのものというところまではいいが、各種権利義務の総体というと、やはり判断材料が異なってくる。

 

 

 

そのため、「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かの判断についても、①本件CILP持分は、国内にある原告の本社経理財務部が 管理する有価証券台帳に投資有価証券として記帳されている、②本件現物出資は原告本社の取締役会で意思決定が行われ、その他のC ILP持分に係る追加出資の意思決定等が原告本社において継続的に行われていたという点を考慮し、現物出資に至るまで、原告本社において経常的に管理されていたと結論付けた。

 

 

 

しかし、この部分も、東京地裁のように、CILPの事業用財産は、①現金、②知的財産のラ イセンス・・・等の判断の方が妥当なように思われる。

 

 

 

 

ただ、その後、国側が控訴しているので、まだこの裁判は決着がついてはいない。

 

 

 

 

しかし、最近の税務は難しい。これ、自分の顧問先ならどう。ケイマンにLPS設立。その持ち分を完全子会社に現物出資。しかし、その子会社はその持ち分を英国親会社に譲渡しちゃった。対価としてその親会社株式の10%を取得した。

 

 

 

 

話聞くだけで大変そう。えー

 

 

 

 

 

この塩野義事件の審査請求時のもう一つの争点である、事前照会とちゃうねん・・・の件は、そもそもの処分が取り消しの判断のため、東京地裁では、判断されていません。

 

 

 

 

 

NORIKUMAクマ