NORIKUMAです。

 

 

本日は、久しぶりの税理士損害賠償請求訴訟です。結果をいいますと、残念ながら税理士さん負けています。えー

 

 

 

では、早速事案の概要から。と・・ここで一点ご了承いただきたいのは、これは、判例タイムズに掲載されたものですので、判決文をコピーして貼り付けますと、著作権等の問題があるといけませんので、私の言葉で書かせていただきます。

 

 

 

事案の概要は、次のようになっています。

Aの法定相続人は、Aの子であるXとB、C、Xの子でAの養子となっていたD及びEの5名である。Aは財産全部をXに相続させる旨の遺言を残している。そのため、Aの死後はB及びCと紛争状態となった。そのような中で相続税の申告期限が迫っていたため、XとD、Eは、税理士Y2に申告書作成を依頼した。なお、Aの遺産は、不動産、銀行預金並びに火災保険であった。取得財産の価額は、合計で1億2500万円ほど。

 

 

 

さあ、税理士であるあなたならどのような申告書を作成する。なお、ここでのポイントは、遺留分減殺請求されている場合ということだ。ただ、これもご存じのとおり、民法が改正されているので今後は頭を悩ますことは少なくなろう。(違うところで悩むことはあるだろうが・・)そして、相続財産に小規模適用が可能な財産があるというところである。えー

 

 

 

考えられる申告としては、2つあろう。①遺留分減殺請求を考慮することなくXが遺言により全財産を取得したものとして小規模を適用した上で、遺留分減殺請求が解決した後に更正の請求をするというもの、②小規模を適用することなく、法定相続分に従った共同相続として申告し、同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することにより後日更正の請求が可能となるようにしておくという方法だ。書籍等では、①の紹介が多い。しかし、どちらも方法として有り得る話だ。

 

 

 

ただ、事案の概要にあるように、税理士さんは委任を受けているのはXとD、Eのみで、遺留分減殺請求をしているB、Cからは委任は受けていない。そういう意味では、申告としては①を選択する税理士さんが多いのではなかろうか。

 

 

 

この税理士さんの選択は②。ただ、上記でも書いたが②が誤っているなどということはない。この訴訟でも、裁判所は、②を税理士さんが選択したことについて、「善管注意義務違反に当たるとはいえない」ときちんと判断している。

 

 

 

事案の概要に話を戻すが、結果的に、税理士さんは②を選択した。申告書は、8月に税務署に提出され、法定相続人ら全員の相続税として約350万円をAの遺言執行者であるY1弁護士は相続財産から支払っている。BとCについては、税務代理権限証書の添付がないため受理されず、10月に税務署よりXの口座に返金された。ただ、このY1弁護士は、その後BとCに対し、申告書の捺印をお願いし、結果10月に申告・納付が完了した。なお、この時のBとCの相続税額約130万円と延滞税等は、Y1弁護士が相続財産から支出している。

 

 

 

このような状況の中、Xは、申告から約1年経過後に、F税理士に依頼して、XとD、Eの相続税の更正の請求を行った。それは、①の方法による。この更正の請求により小規模宅地の特例が使え、Xの納税額は0となり、DとEの納付額も還付された。

 

 

 

と・・・・これが一連の流れだ。Xは、当初申告をしたY2税理士さんと遺言執行者であったY1弁護士を相手に損害賠償請求訴訟を提訴した。

 

 

 

争点は4つあり、①不必要な相続税の納付に関する責任の有無、②F税理士に支払った報酬についての賠償義務の有無、③税理士が受領した報酬の返還義務とY1弁護士の賠償義務の有無、④BとCの延滞税、加算税の支払いに関するY1の責任の有無である。

 

 

 

これは、非常に難しい事案だよね。えー

 

 

 

明らかに間違えた申告をしたというのであれば、税理士に責任はあるだろうけれども、実際には誤った申告ではないのだから・・。ただ、Y1については、微妙。弁護士さんも遺留分減殺請求がなされている事案の場合、遺贈された相続財産の中から、遺言に取得する財産のない法定相続人の相続税額、しかも延滞税などまで支払うのは、どうなんだろう。この辺、弁護士でないからよくわからんが、Xの信条としては、心中穏やかでないのは確かだ。

 

 

 

主文は、Y1弁護士については、約7万円の賠償金が、税理士については、約165万円の賠償金の支払いが命じられている。

 

 

 

弁護士さんの約7万円とは、BとCの延滞税と加算税の額と同額。税理士さんの165万円は、いまだ還付されていないBとCの相続税額130万円とF税理士への報酬のうち35万円の合計額となっている。ちなみに、Y2税理士さんの相続税の申告報酬は、約91万円ほどであった。

 

 

 

つまり・・・・申告報酬91万円 < 損害賠償請求による支払額 165万円 ・・・ということになる。

 

 

 

 

税理士さんに対する、争点1の裁判所の判断を抜粋する(H30.2.19東京地裁 判例タイムズ№1464 197頁~)。

1 原告は、Y2が作成した申告書(法定相続人らの共同相続として申告され、一定額の相続税を納付するとの内容)に押印しており、その内容も一定程度は把握していたものと認められる。

 

2 しかし、遺留分減殺請求がされている状況下における相続税申告について、共同として行うか、申告時において小規模宅地等の特例を適用するか、その適用の有無により課税額にどのような差異が生じるのかなどの点は、専門的知見に基づく判断を要するものであるのだから、一般人である原告においては、Y2の作成した申告書の当否につき独自に判断することは困難であると考えられる。

 

 

3 そのため、本件においては、上記②の方法を採用することによるリスクの存在や内容等について十分な説明がされていたものとは認め難いのであるから、上記押印の事実から直ちに、原告が上記の方法を採用することに同意していたものと認めることはできない。

 

 

4 結果、Y2が②の方法を採用したことは、不適切であり、税理士としての善管注意義務に違反する行為であった。

 

 

 

以上が、争点1に対する東京地裁の判断である。

 

 

 

 

争点2以下は取り上げないが、ほんと、微妙な話だ。裁判官は「不適切」と表現したが、税理士からみると、Y2の申告は、税法上は認められているものだ。

 

 

 

では、税理士Y2からすると、どうすればよかったのか。

 

 

 

説明不足か・・・それとも、説明した際に申告内容に同意した旨、一筆もらっておけばよかったのか・・・。

 

 

 

 

「一般人である原告においては、Y2の作成した申告書の当否につき独自に判断することは困難であると考えられる」と言われちゃうとね・・・。

 

 

 

 

そんなこと言われると、そもそも税理士が作成した申告書はすべて税の専門家作成なのだから、一般人はわからない・・・といえるだろ。納得するまで、説明し続ける・・・・それしかないというのか。えー

 

 

 

これは、以前T&Aマスターで掲載された。その記事では、控訴ありとなっているが、判例タイムズでは、そこは触れていない。

 

 

 

ただ、この判決に際し、多くの税理士は、不思議と思うだろう。私も、思っている。

 

 

 

 

「そもそも税理士は、複数の方法がある場合は、複数を提示し、それを納税者に選んでもらうという方法をとるはずなのに、それをしなかったのか」

 

 

 

これの答えは判決文中にはない。被告であるY2は、①か②を選択するかは「税理士により見解が分かれるところ・・・」とだけある。

 

 

 

資産税をやるときは、税理士はかなり慎重のはずなのだが・・・。

 

 

 

 

この訴訟で学ぶことといえば、

1 複数方法がある場合は、必ずそれぞれの方法を示して、最終的な決断は納税者本人にしてもらわなくてはいけない。今回のように決して誤った申告ではないが、裁判では「一般人である原告においては、Y2の作成した申告書の当否につき独自に判断することは困難であると考えられる」などといわれるので、説明には時間をかけて行わなくてはいけないということになる。

 

 

2 複数方法があっても、やはり書籍に書いてあるものは、納税者との間でリスクが少ないものでもあるので、そこは素直に認めよう。

 

 

3 資産税専門の税理士も多くなっているので、不安なときには、そちらを紹介することも大事。断る勇気も必要だ。

 

 

 

せっかく、苦労して申告書を作成したのに、納税者には喜ばれず、訴訟ではもらっている報酬以上の賠償金の支払いが命じられる・・・・自分自身のリスク回避も重要だ。

 

 

 

 

相続人の争いに巻き込まれるのは、ゴメンだ。えー

 

 

 

 

NORIKUMAクマ