NORIKUMAです。
プロフィールの写真を変えました。ちょっと法律家っぽいでしょ。いつものペコちゃん顔のNORIKUMAに会いたい人は、ピグ友になってね。
ところで、日曜日は風邪で一日寝ていた。皆様も急に秋がやってきましたので、体調管理はご注意ください。
さて、今日のタイトルですが、今月号の月刊税理に「遺産分割に係る弁護士報酬の取得費算入の可否」と題してこの裁判で補佐人税理士を務めた粕谷先生が、論文を寄せています。
改めて読んでみて、もう一度NORIKUMA的に検討してみようと思いました。
しかし、事案の概要を見ると、「THE 争続」ですね。
父が死亡したのは、昭和41年11月。法定相続人6人いたが、相続人間で協議が難航し繰り返し遺産分割の調停がされたが、成立にはいたらなかった。最終的には、父死亡から37年後の平成16年にようやく審判が確定した。
今回の主人公のAは、法定相続人の一人だが、結果土地の一部(父が大正15年に取得)と現金、そして共同相続人からの代償金を受け取っている。Aはこの間に、弁護士に1312万5000円の報酬を支払っている。
Aは、相続した土地を1億5000万円で売却し、その申告の際に上記弁護士報酬で相続財産のうち土地の占める割合に応じた金額を取得費に算入したが、課税庁は取得費に算入することは認めず、あくまで取得費は譲渡対価の5%でであると更正処分したため、Aがその取り消しを求めたもの。
東京地方裁判所では、下記判断により納税者の主張は棄却されている(H22.4.16)。
「遺産分割の法的性質は、共同相続人の共有に係る相続財産の分配にすぎず、これにより相続財産に含まれている個々の資産の財産価値そのものに変動を及ぼすものではないから、遺産分割に要した費用は、当該資産の客観的価格を構成するものとは認められない。また、それが、被相続人の取得のときに遡ってその当時における客観的価格を構成するとか、あるいは、被相続人の取得のための付随費用とみる余地がないことは明らかである。
また、遺産分割は、相続人間の協議、調停及び審判によって行うことができるところ、相続人間の協議によって行われる場合はもとより、調停や審判によって行われる場合であっても、相続人が弁護士に委任することが通常必要とされるものではないから、遺産分割に係る事務の委任に係る弁護士報酬は、相続人が相続財産を取得するための付随費用には当たらないというべきである。
そうすると、本件報酬部分は、遺産分割に係る事務の委任に係る弁護士報酬であるから、本件土地の客観的価格を構成するものと認められないことは明らかであるし、本件土地を取得するための付随費用ということもできない。また、これが設備費又は改良費に当たらないことも明らかである。よって、本件報酬部分は法33条3項の「取得費」には当たらないというべきである」。
遺産分割の法的性質からこれが、「通常必要とされるものでない」ので、取得費にならないと判断された。
では、東京高等裁判所の判断はどうだったのだろうか。
東京高裁では、まず取得費についてこう述べている。「取得費のうちの「資産の取得に要した金額」は、被相続人と相続人の両者について、その不動産を取得したときにおける、①その不動産の客観的価格を構成すべき取得代金の額と、②その不動産を取得するための付随費用の額を合算すべきことになる。このうち、相続人については、相続は被相続人の死亡という事実に基づいて何らの対価なくして財産の承継が生ずるものであるから、①は考えられず、相続により取得した不動産の所有権移転登記手続等をするために要する費用(登録免許税等)が、②の付随費用に当たるものである。本件においては、遺産分割に要する費用が、相続人の上記②の付随費用に当たるかどうかが、問題となる。」
そして遺産分割に要する費用については、地裁の「通常必要とされるもの」という判断から離れ、「付随費用」か否かにより判断が下っている(控訴棄却 H23.4.14)。
「遺産分割は、共同相続人が、相続によって取得した共有に係る相続財産の分配をする行為であり、これによって個々の相続財産の帰属が定まり、相続の開始の時にさかのぼって、各相続人が遺産分割により定められた財産を相続により取得したものとなるのである(民法909条)。このような法的性質に照らして考えると、遺産分割は、まず、これにより個々の資産の価値を変動させるものではなく、遺産分割に要した費用が当該資産の客観的価格を構成すべきものではないことが明らかである。そして、遺産分割は、資産の取得をするための行為ではないから、これに要した費用(例えば、遺産分割調停ないし同審判の申立手数料)は、資産を取得するための付随費用ということもできないといわざるを得ない(これに対し、例えば、既に共同相続人の共有名義の相続登記がされているときに、遺産分割の結果に基づいて単独名義に持分移転登記手続をするために要する費用は、単独で相続したことを公示するために必要な費用であるから、単独名義の相続登記をする費用と同様に、資産を取得するための付随費用に当たるというべきである。)。したがって、遺産分割の手続について弁護士に委任をした場合における弁護士報酬は、相続人が相続財産を取得するための付随費用には当たらないものというべきである。」
月刊税理で粕谷先生は、相続と遺産分割というものから考察している。だが、NORIKUMA的には、これは取得費の概念の問題であると推察する。取得費とは、そもそもなにか。東京高裁の控訴人の弁論では「相続による財産移転の場合、被相続人の取得費のみならず、相続人において新たに取得のための費用が発生していれば、当該費用も取得費として譲渡所得から控除される点については、当事者間に争いがない。問題は、相続の場合における付随費用をどのように判断するかである」としている。
ここに、論点がある。つまり取得費を「相続人において新たに取得のための費用」とすれば、この遺産分割における弁護士費用は取得費とすべきだ。だが、取得費の概念は果たしてそこにあるのか否か。この答えとして、東京高裁は、「遺産分割は、資産の取得をするための行為ではない」とした。
ある、判決文を引用する。これは、今回の裁判とは逆に納税者の主張が最高裁で認められた判決だ。いわゆる右山事件。ここでは「法60条1項の規定の本旨は、増加益に対する課税の繰延べにあるから、この規定は、受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していないというべきである。そして、受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用の額は、受贈者の資産の保有期間に係る増加益の計算において、「資産の取得に要した金額」(法38条1項)として収入金額から控除されるべき性質のものである。そうすると、上記付随費用の額は、法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算において「資産の取得に要した金額」に当たると解すべきである」とした。
だが、この判決文では、なぜ名義書換手数料が取得費となったかの結論が書いていない。「付随費用」に該当するから「取得に要した金額」となる。では、その判断は地裁のように「通常必要と認められている」からかどうなのか。
本来なら、この右山事件できちんと「付随費用」の定義を示すべきであった。現在認められている登記費用と判決で認められなかった遺産分割における弁護士費用の違いはなんなのか。高裁では遺産分割が資産を取得するための行為でないとした。その判断基準は、民法909条。「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる」とありそれが借用された。でも、それは遺産分割の効力の時期についての話で、それを付随費用になるかならないかの判断に、そのまま持ってきていいものだろうか。
判決文とは、裁判官がその判断をした理由を書くところだ。もう少し具体的に記載をしていただかなくてはこれからもこの「付随費用」の解釈での論争は続くだろう。
NORIKUMA