20.恋心
エリザベス:
「あなたにお礼を言わなければ」
「命の恩人には一体どんなお礼をしたらいい?」
ジョーンズ:「礼なんかいいよ」
エリザベス:「でも命を助けてもらったのよ」
ジョーンズ:
「話の種にすればいい」
「キャンプで子供たちに聞かせて怖がらせる」
「気をつけた方がいいよ、バレリーナの先生」
エリザベス:「そうね」
ある日、エリザベスはピアノを弾いているジョーンズを遠くから見つめます。
エリザベスはジョーンズを段々と意識しはじめるんですね。
ジョーンズはアマンダに卓球を誘われました。
老人の患者が勝手に審判をしたり、ボールを隠して逃げたりします。
めちゃくちゃなゲームとなりました。
ジョーンズはテレビを見ている最中に看護婦から薬を飲むように言われます。
ジョーンズは苛立ち、薬をぶちまけてしまいました。
ジョーンズの心のバランスが危ういのがとても分かるシーンです。
躁の快感が忘れられず、うつの状態に絶望を感じるジョーンズはもう限界に来ていました。
再びエリザベスと面談します。
ジョーンズ:
「やはりだめだ」
「無駄だ」
「努力してくれた事は分かるけど...」
「ここから出してくれ」
エリザベス:「薬のせいなの?」
ジョーンズ:
「エリザベス、僕は中毒患者だ」
「躁状態が必要なんだ」
患者さんは躁や軽躁状態を欲するようになるんですね。
それだけ、気分のいい全能感です。
この病気の恐ろしさです。
ジョーンズ:「あの状態がないと生きていけないんだ」
エリザベス:「鬱が次に必ずくるわ」
ジョーンズ:「あれは覚悟の上だ」
エリザベス:
「もう忘れたの?」
「この病院へ来た時、ほっとけば自殺していたわ」
ジョーンズ:
「病院に来たんじゃない」
「君の所へ来たんだ」
「僕の命を助けてくれた女性だから」
エリザベス:
「じゃあ、私たちはおあいこね」
「もう一度言わせて」
「この間のお礼を」
「あの時のあなた、本当に感心したわ」
「あなたは人の扱い方を心得てるわ」
「羨ましいわ」
「あなたは才能のある人よ」
ジョーンズ:
「僕は3歳でモーツァルトを弾いた」
「12歳であらゆる本を読んだ」
「18歳の時は全世界が我が物だった」
「ある日目覚めたら病院だった」
「正常じゃない、昔からだ」
「お願いだ、もう我慢できない。ここから出してくれ」
「僕の力だけではもうどうにもならない」
エリザベス:「そうね、分かるわ」
絶望に苦しむジョーンズにエリザベスの瞳から涙が流れ、暗闇に光るライトで輝きました。
ジョーンズ:「苦しい...」
苦しむジョーンズの姿にエリザベスはいたたまれなくなり、彼の頭に恐る恐る手を伸ばします。
二人の心が触れた瞬間でした。
21.主治医と患者
アマンダの両親が転院を希望していました。
アマンダの父親:「お世話になりましたが、娘は引き取る事にします」
アマンダの母親:「温かい家庭もありますし...」
アマンダには出て行きたくないという気持ちや不安が顔の表情に出ていました。
そこには両親に言いたいことが言えない家族関係だということが想像できます。
Dr. キャサリン:「先生の意見は?」
エリザベス:
「もう学校へ行けるわ」
「精神的にも強くなった」
「感じるでしょ?」
「でも治療はやはり続けなくてはいけません」
「次は火曜の朝だったはね」
「いいわね?」
アマンダ:
「実はうちの両親が別の治療師を知っていて、そっちに行くようにと...」
別れ際にアマンダは振り返り走ってきて、泣きながらエリザベスとハグしました。
ここで皆さんに、このいつまで続くか分からない、辛い不安な世界に住む患者にとって、主治医や心理士、訪問看護士がどれほど大切な存在かを知って欲しいと思います。
毎週、隔週の診察の日まではどうにか生き延びようと、その奪われた活力の中で、それでも振り絞って耐え忍ぶ患者さんがほとんどだということを知って欲しいのです。
それほどまでに患者と主治医や心理士は密接な関係です。
精神科は予約しなくてはならないほど、混み合っています。
その中で主治医が患者の話を聞けるのは5分〜10分と短い時間です。
中には1分という病院もあるようです。
精神疾患は服薬治療と心理療法と2つに分けることができます。
服薬治療をベースとしていますが、心理療法はそれと同じくらいの治療効果があるとエビデンスがあります。
保険治療が可能な心理療法もあります。
毎年22000人の自死される方の多くが精神疾患です。
3337人が家庭問題、11014人が健康問題(うち精神疾患は7587人)。
自死者の多くは突発的で一時の衝動で行うことが多いです。
うつの希死念慮で頭がいっぱいの患者ならば、必ず服薬や心理療法で改善できます。
考えて考えた末の結論ならともかく、誰かの理解と助けがあれば、死なずに住んだ命が毎年たくさん消えていっている現状です。
双極症にかぎらず、こういった心理療法への人材とその待遇をよくすることで、救われる命がたくさんあります。
エリザベス:「いつでも電話してきてね」
Dr. キャサリン:「彼女の無事を祈りましょう」
エリザベス:「今、時間がありますか?」
Dr. キャサリン:
「これから会議なの」
「でも、いいわ」
エリザベス:「いいえ、じゃあ明日ご相談が...」
Dr. キャサリン:「じゃあ、明日ね」
22.もっと知りたい
スーザンが病棟まで訪ねてきました。
スーザンはジョーンズとのひと時を楽しそうにエリザベスに話します。
スーザン:
「彼のような人は初めてよ」
「言うこと、なすことが驚きで...」
「クレイジーだけど楽しかったわ」
エリザベス:「クレイジーって?」
エリザベスは少し差別的な言葉にムッとします。
女としての嫉妬が伝わります。
スーザン:
「例えば2人でホテルへ入ったの」
「サービス係がシャンパンを運んで来たら、彼を浴室へ呼び込んだのよ」
「私たちはお風呂に入ってて、彼ったらまっ裸のまま立ち上がるの」
「信じられる?」
エリザベス:「彼がどこにいるかは、医師と患者の秘密でお教えできないの」
スーザン:「じゃあ、私の電話番号を...」
エリザベス:「伺っておくわ」
スーザン:
「彼は独身だと思うわ」
「恋人の話はしたけど、エレン...何とか」
「音楽の勉強をしていたとか」
エリザベス:「名字は分かる?」
スーザン:
「エレン...何とか...」
「でも彼女は死んだと言っていたわ」
「私はホッとしたけどね」
エリザベスはエレンを知り合いに調査してもらいます。
発症の原因を突き止めようという精神科医としての心と、彼をもっと知りたいという女性としての心とが同居しているんですね。
23.トラウマ
そしてジョーンズと再び面談をします。
ジョーンズ:「何の話をする?」
エリザベス:「何でもいいわ」
ジョーンズ:「じゃあ、君の事を話そう」
エリザベスは無言になり、反応しませんでした。
ジョーンズ:「なら君が話題をくれよ」
エリザベス:「エレンのことは?」
ジョーンズ:「どのエレン?」
エリザベス:「あなたのエレンよ」
ジョーンズ:
「僕のエレンか。分かった」
「エレンか...」
「エレンだけが本当に僕を愛してくれた」
「あの美しい赤毛...」
「僕を第二のモーツァルト、シェークスピア、ピカソ、ニジンスキーだと言った」
「なのに彼女は死んでしまった」
エリザベス:「どうして亡くなったの?」
ジョーンズ:
「空中ブランコから落ちたんだ」
「いや違ったよ」
「セメント・ミキサーで...」
「...今さら関係ない!」
エリザベス:
「そうね」
「名字は?」
ジョーンズ:「忘れたよ」
エリザベス:
「ライアンでは?」
「エレン・ライアン?」
それを聞いたジョーンズは寝そべっていたソファから起き上がり、顔つきが変わります。
エレンのことを無理やり思い出させたエリザベスの残酷な行為に怒ります。
ジョーンズ:
「あんたはビョーキのクソ女だ!」
「僕のスパイをしたのか」
「ミスFBIか?」
エリザベス:
「彼女と話をしたわ」
「今はエレン・ノートン夫人よ」
「アイオワに住み、子供が2人いるわ」
「『あなたが治療を受けてよかった』と言ってたわ」
「昔のあなたは医者に行く事を拒否して、彼女は去った」
ジョーンズ:「違うよ、彼女は死んだ」
エリザベス:
「いいえ、生きてるわ」
「あなたのご両親もいるの?」
ジョーンズ:
「両親は最初からいないよ!」
「クソッ!」
「自分を何だと思ってるんだ!」
「医者だって?」
「自分こそビョーキだ!」
「人を病人扱いして、自分はスパイのマネか!」
エリザベス:「病気を治そうとしてるのよ...」
ジョーンズ:「ビョーキなのはあんただ!」
エリザベス:「落ち着いて。病気は治るのよ」
ジョーンズ:
「友達だと思ったのに!」
「ひどい女だ。僕を裏切ったんだ」
「あんたを信用した僕がバカだったよ」
「もう出ていくよ」
「これきりだ、友達!」
人にとって、耐えられない悲しみの過去。
それは心の平静のために、無意識に心の奥底に隠されます。
これがトラウマというものです。
無理に思い出そうとすると身体が動悸に襲われたり、フラッシュバックします。
とても危険な行為です。
24.土砂降りな心
夜の土砂降りの雨の中、ジョーンズは怒り叫びながら病院のゲートから出ていこうとします。
ジョーンズ:
「お前は何てバカだ!」
「二度とするな!」
「バカヤロー!」
「病院なんかに行ったからだ」
「バカだ。お前はバカだ!」
エリザベスが車で追いかけて来ました。
エリザベス:「お願い、車に乗って」
ジョーンズ:「消えろ!」
エリザベス:「お願い、乗って」
ジョーンズは車を蹴り飛ばします。
エリザベス:「話をさせて」
ジョーンズ:
「断る」
「ビョーキ女に用はない。行ってくれ」
エリザベス:「お願い。私の話を聞いて」
エリザベスは車を止めてジョーンズの元に駆け寄ります。
ジョーンズ:
「何だよ」
「話せ」
「勝手にしろ」
エリザベスは黙って後ろから付いていきました。
ジョーンズ:
「分かった。許してやる」
「いいだろ?だからもう行ってくれ」
エリザベス:「謝るわ。患者のプライバシーを...」
ジョーンズ:
「待ってくれ。僕は患者じゃないぞ」
「自発的に入院して、退院したんだ」
「友達を求めてね。だがバカだったよ」
エリザベス:
「エレンはレコード店や音楽会に行く度にあなたの名前を探すって...」
「なぜ死んだなどと言ったの?」
「なぜそんな事を言ったの?」
ジョーンズ:
「本当に死んだからさ。君も同じさ!」
「『僕の名を探す?』じゃあ、なぜ僕を捨てたんだ?」
「知りたいね!」
「僕が面倒を起こすから、誰も彼も逃げていく...」
「僕と関わった人間は皆逃げる」
「突き放され、自分一人になっちまう」
「いつもそうだ」
エリザベス:「自分が可哀想?」
ジョーンズ:
「だから死んだ事にして諦める」
「金魚と同じさ。1匹死ねば次を買えばいい」
重ねて言いますが、患者は本心ではない病状のせいで、愛情を持って接してくれる親しい人々とのコミュニケーションが絶たれて、残酷な言葉を発してしまいます。
患者にとっての「重要な他者」もまた孤独になります。
そしてその苦しさから当人と離れる決断をします。
良心の呵責でその後も苦しむ人達もいるでしょう。
人にはその人だけの人生がそれぞれあります。
離れずにいることを誰にも強制はできません。
残された患者は去っていかれた孤独とそれを引き起こした言動への自責の念で、ずっと心は切り裂かれたままです。
こうしたことの繰り返しから、やがては患者を絶望に追いやり、世をあきらめて自死してしまうのだと思います。
エリザベス:
「私はあなたを気づかってる人間よ」
「ほっとけばあなたは絶望して自殺するわ」
「そうでしょ?」
ジョーンズ:「ほっといてくれ!」
エリザベス:
「あなたのすばらしさ...」
「あなたの才能は永遠に失われる」
「私に何が残るの?」
「医者の立場を忘れた女の切り裂かれたハート」
「私はどうしたらいいの?」
去られる気持ちを痛いほど知っているジョーンズ。
自分の自死で取り残されるエリザベスの気持ちが分かります。
ジョーンズはエリザベスの手を強く握りました。
ジョーンズ:「先生。僕らはここで何をしたらいい?」
エリザベス:「分からないわ」
”心のままに” 唇を重ね合わせました。
そして二人は関係を持ちます。
25.医師として
ジョーンズは病棟に戻り、元の生活に戻ります。
ジョーンズ:
「おはよう。笑顔が素敵だ」
「挨拶をしたくてね」
ジョーンズはエリザベスを気遣い、会話は最小限にして立ち去ります。
エリザベスは患者と関係を持った医師としての後悔に堪えることができませんでした。
そしてパトリックに打ち明けます。
パトリックはエリザベスの医師としてのキャリアを考え、ジョーンズを追い出します。
結果としてジョーンズはエリザベスと引き裂かれることになりました。
ジョーンズは別の病院に移されることになります。
ジョーンズは必死に説明を求めてエリザベスに会おうとしました。
エリザベスは自室のドアを閉めて、彼を遠ざけます。
ジョーンズ:「エリザベス、エリザベス!」
ジョーンズはドアを何度もノックします。
パトリック:
「待てよ。君は別の病院へ移るんだ」
「それまではローゼン先生が君の治療をする」
ジョーンズ:「病院を移るならエリザベスの口から聞きたい」
ジョーンズはドアを何度も何度もノックしました。
警備員が来て彼を取り押さえました。
エリザベスはジョーンズの声を聞きながら必死に堪えていました。
ジョーンズはまたもや絶望のどん底に突き落とされます。
ジョーンズは病院を移されましたが、退院したとエリザベスは聞かされます。
パトリック:「きっと彼は会いに来る」
エリザベス:「いいえ、来ないわ。彼にとって私は死んだ女よ」
夜中にエリザベスに電話が入り、アマンダが自死したと告げられます。
エリザベスは心あらずで、彼女の面談の映像を何度も見返していました。
アマンダ:
「死なんか平気よ」
「大抵の人は死というものを怖がってるけど、わたしは平気よ」
「死んだら安らぎが得られる」
「死は温かい。ボーエン先生、あたしはうつくしい?」
そしてジョーンズの映像を見返します。
ジョーンズ:
「桟橋の手すりに登った時、バカな奴だと思った?」
「今でもそう思ってるんだろ?」
「『ケガして何になるんだ?』と」
「だがあそこに登るって事が大事なんだ」
「そのためにすべてを賭ける」
「エリザベス、すべてを賭けるほど大事なものが君にある?」
「このテープはためになるよ。消さずに保存をしておいて」
涙を浮かべながら、その映像を見ていました。
エリザベスは医師としての自信を完全に失っていました。
患者のためになにが自分はできるのか。
本当に助けることができるのか。
エリザベスはジョーンズをこの世から失ってしまう恐れを懐き始めました。
上司の精神科医に辞表を出しに行きます。
Dr.キャサリン:「どうしたの?」
エリザベス:「辞表です...」
Dr.キャサリン:「誰かを殺したの?」
エリザベス:
「過ちを...」
「許されない事をしたのです」
Dr.キャサリン:「ジョーンズね?」
エリザベスはジョーンズを必死に探しました。
26.最期の挨拶
ジョーンズはバイクを盗み、ハワードの家に最期の挨拶に来ました。
ジョーンズ:「戻ったぞ!見てくれ、戻った!」
ハワード:
「すごいバイクだな」
「退院をしたのか?」
ジョーンズ:「道具をもらいに来たんだ」
ハワード:「エンジンを切れよ」
ハワードはキーを回してエンジンを切りました。
ジョーンズ:「空を飛んで抜け出したんだ」
ハワード:「気分はどうだ?」
ジョーンズ:
「最高だよ」
「道具を返してくれないか?」
ハワード:「ああ、返すよ。取ってこい」
ハワードは息子に道具を取りに行かせます。
ジョーンズは息子に計算問題を出します。
ジョーンズ:「答えて、1492÷68は?」
ハワード:「どこの現場で働くんだ?」
ジョーンズは鳥が飛ぶマネをします。
ハワード:
「あそこか?もう工事は終わったよ」
「工事は先週終わったよ」
ジョーンズ:「現場監督に雇われたんだ」
ジョーンズは虚言を言うようになります。
ハワード:「分かったよ。待ってろよ」
ジョーンズはハワードと別れを惜しむようにハワードの手や腕を何度も触りました。
ハワードの手の温もりを自分に流し込むように...。
今までありがとうと言うように...。
ハワードはジョーンズがあの現場で死ぬことを決めたのだと即座に察知しました。
ハワード:
「よせよ」
「すぐ戻るよ」
ハワードは納屋から彼の大工道具を持ってきます。
異様な雰囲気を察知したハワードはジョーンズと二人きりで話をするために、息子を家の中に取りに行かせたのだと思います。
ハワード:「寄ってけよ。昼飯でも食って行け」
ジョーンズは道具を渡せとハワードに催促します。
ジョーンズ:「早く渡せ!」
ジョーンズは語気を強めて言いました。
ジョーンズにとって大工道具は裏切らない唯一の友人なのですね。
ジョーンズ:「渡せよ」
ハワードは道具を渡しました。
ハワードのジョーンズを見つめる目には、分かり会えない辛い気持ちやジョーンズのこれからの不安が出ていました。
ジョーンズ:
「言いすぎて悪かったよ」
「ありがとう」
ハワード:
「礼なんか言うなよ」
「子供たちに会ってけよ」
「バイクは置いといて一緒に昼飯を食おう」
「いいだろ?」
それでもハワードはジョーンズをあきらめず、食い下がります。
親友と関わるということは「身を呈する」ということです。
厄介事も引き受ける。
何かを親友に捧げるということです。
ジョーンズはハワードにとって、自分の身体の一部になっているということですね。
ジョーンズ:
「奥さんに聞けよ」
「聞けよ」
ハワード:「そんなの大丈夫だよ」
ジョーンズ:「聞くのが礼儀だ。聞けよ」
ハワード:
「戻ってくるまで行くなよ」
「引き止めておけ」
ハワードは息子に言いました。
ハワードの息子:「答えが出たよ。21.941167」
ジョーンズ:「76だよ」
ハワードの息子:「待ってよ」
ジョーンズはバイクのエンジンをかけて出ていきました。
ハワード:「おい、待て!」
ハワードはジョーンズを追いかけましたが捕まえることができませんでした。
大の大人が本気で親友を走って追いかける姿が心に残る、グッと来るシーンです。
ジョーンズに逃げられたハワードはエリザベスに連絡します。
27.もう終わりにしたい...
エリザベスは完成した工事現場に向かいます。
ジョーンズは屋根に登り、景色を眺めていました。
今の感情はあのときの陽気なものとは全く違っていました。
間違いなく、彼はこの世に決着をつけるためにここに来た。
ジョーンズは大事な大工道具を腰から外して、屋根の上から落とし、覚悟を決めました。
近くの空港から離陸する飛行機と同時に、屋根から飛び降りようとしました。
エリザベス:「ジョーンズさん!」
ジョーンズは飛びませんでした。
死ぬ間際でハワードとエリザベスの温かい声が、絶望の中にもかすかに響き渡っていたのではないでしょうか。
ジョーンズ:
「空を飛びたかったんだ」
「だが飛べない」
エリザベス:
「いいのよ」
「わたしを許して」
涙ぐむエリザベスの頬をジョーンズは愛情を込めてゆっくりと撫でます。
その手に唇を擦り寄せるエリザベス。
真っ直ぐジョーンズの目を見つめます。
ジョーンズ:「それで、これからどうする?」
エリザベス:「まず、コーヒーを飲むわ」
ジョーンズ:「いいよ」
エリザベス:「カフェイン抜きで...」
二人は屋根の上でキスをしました。
そして物語は終わりを告げました。
28.最後に
双極症と闘っている皆様。
日々の病気との闘い、さぞお辛いことと思います。
定期的に襲ってくるうつの症状。
迫ってくる不安感。責めてしまう自分自身。見えない将来。
若い方はこれから人生を楽しもうという時の発症で、療養の日々を余儀なくされます。
一番何かをやろうという意欲や情熱のある時に、このような病気は正直「ひどいな、神様」と言いたくなります。
「健常者」との境界線を突然引かれてしまったような感覚。
ある人はそのぶつけたい怒りの感情や居場所をロック歌手に求めました。
ツアーへの参戦は「延命」だと言います。
ですがその慰めである「刺激」さえも、この病には躁へのきっかけとなります。
またある人は絵や書道に、生きる希望を託して、たくさん練習しました。
薬を飲みながらの生活に、これは本当の自分なのだろうかといつも疑問をもっていました。
しかしながら、リチウム(気分安定薬)は効いてくると手が震えるという副作用があります。
その人は絵や書道を諦めました。
唯一の生きる目的だったことすらさせてもらえません。
病気というハンディキャップを負いながらも、それでも働かないといけないと、社会に無言の圧力をかけられています。
どうかこういう方たちを「想像」して欲しいんです。
その感情を、その生活を。
たくさんの「諦め」を感じながら生きています。
夢、結婚、出産、仕事など。
敷かれたレールなんてものは本当はありませんし、本人の生き方次第です。
ですが、境界線で区切られた人たちには憧れとしての「レール」が頭をよぎります。
病気にさえならなかったら、きっと今、将来はあの人たちと同じように、幸せを享受できていただろうにと...。
ある方がnoteの記事に書いていました。
障がい者になって「努力ではどうにもならないことがあるのを知った」と。
もっともっと想像しよう。
身近にいる人の気持ちを。
わたしたちは誰しもが「守られるべき存在」です。
自信をもって生きていきたいのです。
「切符を持っていない」のに列車に乗せてもらっている気持ちが分かりますか?
無賃乗車しているのではないかと人の心に怯えて生きている人の気持ちが分かりますか?
シンプルな言葉「みんなが支え合って生きていく社会」
一人ひとりの意識を変えれば、必ず実現できると信じます。
ハワードのような良き友人を目指しましょう。
さいごに5年連続幸せ度世界ナンバーワンの福祉国家フィンランドの元首の言葉を紹介させてください。
『社会の強さとは、最も豊かな人たちが持つ富の多さではなく、最も脆弱な立場の人たちの幸福によって測られます。誰もが快適で、尊厳のある人生を送る機会があるかどうかを問わなければなりません』
~フィンランド前首相 サンナ・マリン~
~懸命に病と闘ったnoteクリエイター るり さん。 そして今も双極症、精神疾患、それに対する偏見と闘っている人たちとその家族に
この記事を捧げます~
もりともき
29.参考図書
『双極性障害(躁うつ病)とつきあうために』 日本うつ病学会
(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/shiryo/data/bd_kaisetsu_ver10-20210324.pdf)
『仕事をしている双極性障害患者さんの手記』 日本うつ病学会
(https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/gakkai/shiryo/data/shuki_20201005.pdf)
『双極症 病態の理解から治癒戦略まで 第4版』 加藤忠史
『躁うつ病とつきあう』 加藤忠史
『躁うつ病はここまでわかった』 加藤忠史
『双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本』 加藤忠史
『双極性障害【第2版】 ──双極症I型・II型への対処と治療』 加藤忠史
『対人関係・社会リズム療法でラクになる「双極性障害」の本』 坂本誠
『バイポーラー(双極性障害)ワークブック 第2版』 モニカ・ラミレツ・バスコ
『双極性障害の対人関係社会リズム療法』 エレン・フランク
『対人関係療法でなおす双極性障害』 水島広子
『対人関係療法でなおすうつ病』 水島広子
『「死にたい」「消えたい」と思ったことがあるあなたへ』 磯野真穂他
『ぎりぎりの自分を助ける方法』 井上祐紀
『マンガでわかる家族療法1』 東豊
『マンガでわかる家族療法2』 東豊
『となりのあの子の観念奔逸 ~「私」というアイデンティティー~』 たけくまゆきこ
note記事(https://note.com/tnggli) るり
note記事(https://note.com/luli_mama/) るりママ