22.ピンポン外交

 

そして、フォレストはまた大統領と会うことになりました。

本作品はアメリカ史の紹介でもあります。

 

TVナレーター:「ニクソン大統領が卓球チームを激励」

フォレストのナレーション:

「卓球チームがホワイトハウスに招待された」

「それで僕はまた行った」

「そしてまた合衆国大統領に会った」

「今度は安いホテルだった」

 

 

 

 

『雨にぬれても』〜B.J.トーマス〜の曲が流れます。
 

ニクソン大統領:「首都訪問を楽しんでるかね?」

フォレスト:「イエス、サー」

ニクソン大統領:「ホテルは?」

フォレスト:「アボットホテルです」

ニクソン大統領:「新築のいいホテルがある」

フォレスト:「そっちへ移りたまえ」

 

それはあの有名なウォーターゲート事件のあったホテルです。
 

《ウォーターゲート事件》

ウォーターゲート事件(ウォーターゲートじけん、アメリカ英語: Watergate scandal)とは、1972年に起きたアメリカ合衆国の政治スキャンダル。1972年6月17日にワシントンD.C.の民主党本部で起きた中央情報局(CIA)工作員による盗聴侵入事件に始まった、1974年8月9日にリチャード・ニクソン大統領が辞任するまでの盗聴、侵入、裁判、もみ消し、司法妨害、証拠隠滅、事件報道、上院特別調査委員会、録音テープ、特別検察官解任、大統領弾劾発議、大統領辞任のすべての経過を総称して「ウォーターゲート事件」という。

~Wikipediaより~

 

ホテル従業員:「警備係ですが...」

フォレスト:

「向かいのビルに電気屋をやった方がいい」

「ヒューズが飛んだらしい」

「懐中電灯の光で眠れないんだよ」

「よろしく」

 

部屋の机には『ウォーターゲートホテル』と書いてありました。
 

TVのニクソン大統領:

「私は合衆国大統領を辞任します」

「フォード副大統領が明日、この執務室で大統領の宣誓を行います」

 

 

 

23.友との約束

 

フォレストは陸軍の除隊を告げられます。
 

フォレストのナレーション:

「こうして僕の軍隊生活は終わってしまった」

「僕は故郷へ戻った」

 

フォレストは久しぶりに母に会いました。
 

フォレスト:「戻ったよ、ママ」

フォレストの母:「分かってるわ」

フォレストのナレーション:「僕の留守中に大勢の客がうちに来ていた」

フォレストの母:

「大勢のお客が来たのよ」

「『うちの商品を使ってくれ』って」

「『ラケットを宣伝してくれ』って」

「2万5000ドルの小切手を置いていった人も」

フォレスト:

「自分のラケットがある」

「やあ、ルイーズ」

フォレストの母:

「それは分かってるけど、2万5000ドルの小切手よ」

「持っていれば、手になじむかもよ」

フォレストのナレーション:

「ママは正しかった。世の中は本当に不思議だ」

「バッバとの約束を守るために、僕はすぐ家を離れた」

「僕はバッバの家族に会いにバイユー・ラ・バトルへ行った」

バッバの母:「あんた、気は確か?それともバカなの?」

フォレスト:「バカをする者がバカです」

バッバの母:「そうね」

フォレストのナレーション:「もちろんバッバの墓参りもした」

フォレスト:

「やあ、バッバ、フォレスト・ガンプだよ」

「君の言った通りに全部計算したよ」

「僕の持ってる金は2万4562ドル47セント」

「少し使ったからね」

「こういう宣伝をした」

「『僕が中国へ行った時、愛用したのはライト印のラケット』」

「誰にでも分かる嘘だからママは構わないと」

「とにかく、そのお金でガソリンとロープと網、エビ捕り船を買った」

フォレストのナレーション:

「散髪に行って背広を買って、ママとレストランで食事」

「バス代とドクター・ペッパー3本」

 

『キャスト・アウェイ』でも主人公は救出された後にドクター・ペッパーを飲んでいましたね。

監督が好きなんだろうと思います。

持っているお金でフォレストは漁船を買いました。

 

漁師:「驚いたな、あんたバカかね?」

フォレスト:「バカをする者がバカです」

 

 

 

 

 

 

24.エビ捕り船

 

フォレストのナレーション:

「エビ捕りの方法はバッバから聞いていたけど、捕るのは難しかった」

フォレスト:「5尾だ」

漁師:

「あと2尾でカクテルが作れる」

「船に名前を付けないからツキがないのさ」

フォレストのナレーション:

「船の名なんて初めてだけど、付けるとしたら1つ」

「世界で一番美しい名前だ」

 

船のネームプレートには『JENNY』と描かれてありました。

ジェニーの近況のシーンが入ります。

ジェニーはディスコで仲間とマリファナを吸っていました。

肌もかさかさで目には強いアイシャドーがギラついていました。

薬でハイになり、マンションのベランダから飛び降りようとしていました。

ジェニーの『虚無感』は現実逃避に変わり、精神は死の手前まで追い詰められていました。

ベランダの強風にふと寒さを感じたジェニーには包み込んでくれる温もりを必要としていました。

涙を流し震えるジェニーは明るい夜空の月を眺めます。

ジェニーは誰かに助けを求めているようでした。

 

フォレストのナレーション:

「手紙は来なかったけど、いつも彼女のことを想い、幸せでいるようにと祈っていた」

「僕は彼女を想い続けた」

 

晴れやかな晴天の下、フォレストが諦めずにエビ漁を続けていると、知った顔が目につきました。

ダン小隊長でした。







フォレストは船から岸辺のダンに向かって手を振ります。

嬉しさのあまり船から海へ飛び込み、船は航行したまま、無人となりました。

 

フォレスト:「ダン小隊長!こんな所で何を」

 

未だにフォレストがダン小隊長と呼ぶのは名誉を重んじるダンへの思いやりなのだと思います。

もう皆さんフォレストの『バカ』な行為に騙されてはいけません。

ロバート・ゼメキス監督はすべて意図的ですよね。

 

ダン小隊長:「海で運試しをしたくてね」

フォレスト:「脚が無いのに?」

ダン小隊長:

「分かってる」

「手紙をくれたろ?」

「フォレスト・ガンプ船長の姿をこの目で見たくてね」

「それに言っただろ?『お前が船長になったら、俺は一等航海士だ』とね。約束を守ったのさ」

フォレスト:

「言っとくが、お前を『サー』とは呼ばんぞ」

「分かってます」

 

船員のいない船が波止場に突っ込んできました。
 

フォレスト:「あれが僕の船です」

 

 

 

25.希望の戦場

 

二人は朝と昼と夜となく、かつての戦場のように航海に出かけました。

『大統領殿』〜ランディ・ニューマン〜の曲が流れてきます。

 

ダン小隊長:

「いい予感がする」

「エビがいる。左へ舵を回せ」

 

ダンは敵を捜す隊長のごとく、脚を失った後の人生が嘘のように生き生きしています。
 

フォレスト:「どっちです?」

ダン小隊長:

「あっちだ、あっちだ!」

「舵を左へ回すんだ!」

「ガンプ、何してる!反対だ。左だ!」

「今度こそ大漁だぞ」

「見てろよ」

 

フォレストは網を引き上げますが、エビは中々捕れません。
 

フォレスト:「1尾もいませんよ」

ダン小隊長:「勘が外れたのさ」

フォレスト:「どこにいるんです?」

ダン小隊長:「神に祈るんだな」

 

実直なフォレストはさっそく教会へお祈りに行きます。

コーラスで黒人女性に混じってゴスペルまで歌う派手っぷりです。

 

 

 

 

フォレストのナレーション:

「毎日曜、教会に通った」

「小隊長も時々来たが祈るのは僕の役目だった」

フォレスト:「だめだ」

ダン小隊長:「頼りない神だな」

フォレストのナレーション:

「本当に偶然だったがその時、神の力が働いた」

 

ある嵐の日の中、フォレストたちは漁をしていました。

ダンは戦場そのままに嵐に向かって叫んでいました。

まるで自分の運命に逆らうかのように抗うようでした。

 

 

 

 

ダン小隊長:「この船は沈まんぞ!」

フォレストのナレーション:

「僕は怖くて震えていたが、ダン小隊長は荒れまくった」

ダン小隊長:

「こんなものが嵐か?」

「笑わせるな!もっと風を吹かせてみろ」

「貴様と俺の対決だ!」

「俺は逃げも隠れもせんぞ!」

「俺を打ちのめせ」

「貴様の力でこの船を沈めてみろ!」

TVナレーター:

「ハリケーン『カルメン』は多大な損害を与え、特に沿岸のエビ漁業は壊滅的な被害を受け、漁船がこのような姿をさらしています」

「関係者の話では嵐に耐えたエビ捕り船はたったの1隻」

フォレストのナレーション:

「それからは大漁続き」

「エビはシュリンプ・カクテルやバーベキューに必要で、僕らのバッバ=ガンプ社のエビは売れに売れた」

「持ち船も増えてジェニー号は12隻」

「大きな倉庫に社名入りの野球帽」

「バッバ=ガンプ社の名は有名になった」

バス停の中年男性:

「待てよ」

「君がバッバ=ガンプ・エビ会社の社長だと言うのかね?」

フォレスト:「ええ、景気のいい会社です」

 

 

 

 

男性は大笑いしました。

 

バス停の中年男性:

「こんな大ボラを吹く奴は初めてだよ!」

「こいつが百万長者だとさ」

 

男性は笑いながら去って行きます。

不思議とフォレストの近くには人が寄ってきます。

お婆さんが一人、ベンチでフォレストの話を聞いていました。

 

お婆さん:

「とにかく楽しいお話だったわ」

「あなたがとてもうまく一生懸命話したから」

フォレスト:「ダン小隊長の写真を?」

お婆さん:「ええ、拝見したいわ」

 

フォレストはお婆さんに『FORTUNE』誌に掲載されている自分とダンの表紙を見せます。
 

フォレスト:「これです」

 

お婆さんは目を点にして驚きました。
 

フォレスト:「もう少し小隊長の話を」

 

また漁船でのエピソードに戻ります。

 

 

26.感謝

 

ダン小隊長:

「フォレスト...」

「命を救ってくれた礼を言うよ」

 

そう言ってダンはきれいな夕陽を背景に、まるで人魚のように自由に海へ飛び込みました。

脚を失った身体がまるでピチピチした魚のようでした。

ダンが飛び込んだ水しぶきがカメラ一面にまぶしく撒き散らされます。

とても美しい瞬間です。

そしてダンは何か満ち足りたように海中を背泳ぎで泳ぎました。

とても感動的な場面です。

 

 

 

 

フォレストのナレーション:

「口では言わなかったが、小隊長は神と仲直りしたのだ」

 

フォレストがダンとベトナムで会ってからこれまで、全く変わらなかったダンに対する敬意は、私たちも見習わなければならない、見逃せない態度だと思います。

フォレストのそばにいると皆が癒やされるのは、相手の存在そのものを無条件で認める彼の優しい心があるからだと思います。

ダンはエビ捕り漁で成功したという理由で、フォレストに礼を言ったのではありません。

彼の自信や自尊心を取り戻す手助けをしてくれたからに違いありません。


 

 

27.母の遺言

 

アメリカ史は続きます。
 

TVナレーター:「フォード大統領の暗殺未遂事件です」

 

フォレストに母の様態が悪いと連絡が入ります。

フォレストは急いで母のもとに駆けつけます。

2階のベッドに主治医といっしょにいました。

 

フォレストの母:「まあ、フォレスト」

主治医:「まっすぐ背骨が伸びたな」

フォレスト:「病気なの?」

フォレストの母:

「じき死ぬのよ」

「ここに来て座って」

フォレスト:「なぜ死ぬの?ママ」

フォレストの母:

「そういう時が来たのよ。そういう時がね」

「いいわね。死を怖がらないで」

「生の一部なんだから」

「誰も逃げられない運命なの」

「私がお前のママになったように。私なりに努力したわ」

フォレスト:「最高のママさ」

フォレストの母:

「自分の運命は自分で決めるの」

「神様の贈り物を生かして」

フォレスト:「僕の運命って?」

フォレストの母:

「それは自分で見つけるのよ」

「人生は『チョコレートの箱』。食べるまで中身は分からない」

 

それはフォレストの母の息子への最後のレクチャーでした。

自分の存在意義は自分で決める。

だからこそ、生気をもってエネルギッシュに生きていけるのだと思います。

はかなくして自死を選ぶ人も多くいらっしゃいます。

本人以外にそれを止めさせる権利はないのだと思います。

残されたものはつらいですが。

その代わりに...生きる選択をしてもらいたいがためにこういったヒューマンドラマが生まれるのだと思います。

きっかけや手助けや励ましを差し伸べることしかできない。

それは本人への敬意を示すことであり、運命でもあるのかなと思います。

もし当人の心がひどく侵されていて、落ち込んでいる場合、精神科の薬を服用することで自死したい感情から解き放つことはできるので、精神科医に連れて行ってほしいと思います。

 

フォレストのナレーション:「ママは何でも僕が分かるように説明した」

フォレストの母:「別れるのは悲しいわ」

フォレストのナレーション:

「ママは癌だった」

「火曜日に死んだ」

「花のついた帽子を買ってあげた」

「この話はそれだけだ」

フォレスト:「7番のバスが来ましたよ」

バス停のお婆さん:「またすぐ次のが来るわ」

 

 

 

 

そう言ってお婆さんはハンカチで涙を拭きました。
 

フォレスト:

「僕はフットボールのスターで戦争の英雄」

「有名人でエビ捕り船の船長」

「それに大学卒。市議会は僕に特別の仕事をくれた」

「小隊長との仕事はそれっきり」

「でも小隊長は僕の金をどこかのフルーツ会社に投資してくれて『一生食うに困らない』と」

 

投資先がベンチャー時代のアップルコンピュータなんですね。
 

フォレスト:「お陰で一つ心配が減ったわけです」

フォレストのナレーション:

「ママは言ってた。『必要以上の金は意味のない無駄な金』と」

「それで一部をごっそり教会へ寄付」

「一部は入り江の漁師共済病院へ」

「小隊長は僕がイカれてると言ったけど、バッバの取り分を彼のママへ」

「彼女は料理人暮らしをやめた」

「超リッチマンになった僕は無料で大好きな芝刈り」

「でも夜、何もする事がなく、誰もいない家にいるとジェニーの事を想った」

 

 

 

28.やすらぎのForest

 

フォレストは夜にジェニーの幻影をよく見るようになります。
 

フォレストのナレーション:「ある日、本物が...」

ジェニー:「やあ、フォレスト」

フォレスト:「やあ、ジェニー」

 

このシンプルな挨拶のような何気ない自然な優しさをジェニーは求めていたのでしょうか。

ジェニーはフォレストの優しさを取り込むかのように、懐かしい匂いを思い出すかのように抱きしめました。

 

フォレストのナレーション:

「ジェニーが戻ってきた」

「他に行く所がなかったのか、それとも疲れていたのか、何年も眠らなかったかのように眠り続けた」

「でも彼女が家にいる!」

「毎日散歩しながら僕はとめどもなくしゃべった」

「ピンポンの話、エビ捕り船の話、ママが天国へ行った話」

「僕がしゃべるのをジェニーは静かに聞いてた」

 

散歩先にジェニーの生家にたどり着きました。

ジェニーは履いていた靴を昔の生家に投げつけました。

そして取り憑かれたように辺りの石を何個も投げつけました。

倒れた後、ジェニーは泣き崩れました。

ジェニーは不幸の原因が家庭環境にあったとようやく知ったのです。

愛情を与えてもらえなかった家庭。

愛情飢餓感はここで生まれ、大人になってもずっと渇きっぱなしの人生。

人に依存するようになり、利用される人生。

自身の『無価値感』を払拭しようと理想像をつくりあげるも、努力は届かない。

次第に燃え尽き、『虚無感』を覚え、回避行動に移り、現実逃避に病む人生。

もう死ぬことでしか逃げられないようになってしまいました。

唯一ジェニーの中に残っていた温かみ。

それは幼い時にフォレストのそばで安心して寝たこと。

フォレストとの時々の再会と揺るがず、絶え間のない温かな手紙。

ジェニーの心の光でした。

フォレストはジェニーの傍らに優しく腰を下ろしました。

 

 

 

 

フォレストのナレーション:

「投げる石が足りない時もある」

「彼女の戻った理由はどうでもよかった」

「僕らはまた昔のように『豆と人参』になった」

「毎朝、僕は彼女の部屋に花を飾った」

「彼女は僕にこの世で最高の物をくれた」

 

それはバッバ=ガンプ社の帽子の色と同じ、ナイキのスニーカーでした。
 

フォレストのナレーション:

「ダンスも教えてくれた」

「ジェニーと僕は本当の家族のようだった」

「生涯で一番幸せな毎日だった」

 

ある夜、雑誌を見ているジェニーを見ているフォレスト。

ジェニーが寝るために2階の寝室へ行こうとしている所をフォレストは呼び止めました。

 

フォレスト:

「結婚しよう」

「僕はいい夫になるよ」

ジェニー:「分かってるわ」

フォレスト:「結婚はしたくない?」

ジェニー:「私なんかと」

フォレスト:

「僕を愛せないのかい?」

「僕は利口じゃないけど、愛は何かは知ってるよ」

 

それは以前にフォレストがジェニーに言われた言葉でした。

ジェニーにとって「愛」とは『もらう』ものでした。

子どもの頃からずっと、求めて求めて求め続けてきたものでした。

決してジェニーから『与える』ものではありませんでした。

ジェニーには『与える』愛がなかったのです。

人は自分を好きでないと、人に心から優しくすることはできません。

愛を『与える』ことはできません。

それは愛する唯一の資格です。

ジェニーはまだ自分の人生を受け入れていません。

まだ自分の境遇を呪っています。

人は自分の不幸をも受け入れることで初めて前に進むことができます。

自分を愛するとはそういうことです。

自分に対する『無条件の愛』『無償の愛』

そのようにして初めて自分の中の土壌から芽が出はじめて、『自我』が育ちます。

そこからたくさんの愛を人に『与える』ことができるのではないでしょうか?

ジェニーはフォレストが寝ている寝室にやってきました。

ジェニーは黙ってフォレストの横で添い寝しました。

 

ジェニー:「フォレスト、愛してるわ」

 

ジェニーとフォレストは身体を重ね合います。

次の朝、ジェニーは再びフォレストの元からいなくなりました。

ジェニーにあげた栄誉勲章を置いて。

今のジェニーにとってフォレストはあまりにも眩しすぎたのだと思います。

自身の身体しか『与える』ものがなかった。

フォレストを愛しているにもかかわらずです。

フォレストはジェニーがいなくなった寝室をじっと見つめます。

彼は何を思うのでしょうか。

幾日も考え続けます。


 

 

29.前に進むために

 

彼は再び走り出しました。

脚装具が取れてようやく走れるようになった幼少期。

ジェニーに挑まずに走れと言われたべトナムの戦場。

走ることが好きで『バカ』だと言われても走ってきた。

フォレストは走ることで自分を作り上げてきました。

 

フォレストのナレーション:

「その日、何の理由もなく僕は少し走りたくなった」

「道の外れまで」

「ついでに町の外れまで」

「郡の外れまで走る事にした」

「ここまで来たんだからついでに州を横断しよう」

「その通り僕はアラバマ州を横断した」

「何の理由もなく走り続けた」

「海まで」

「どうせここまで来たのだから、回れ右して走り続けよう」

「反対側の海に出ると、どうせだから、また回れ右して走った」

「疲れたら眠り、腹が減ったら何か食べた」

「もよおしたら、その辺で...」

バス停のお婆さん:「そんなに走り続けたの?」

フォレストのナレーション:

「走りながらママやバッバ、ダン小隊長の事を想った」

「そして誰よりもジェニーのことをいつも想った」

TVニュース:

「今日ですでに2年、アラバマ州の庭師、フォレスト・ガンプは走り続けてアメリカ大陸を横断しています」

TVナレーター:

「『走る男』フォレスト・ガンプは4回も大陸を横断。再度ミシシッピ川を渡ります」

記者A:「動機は?」

記者B:「世界平和のため?」

記者C:「ホームレス救済?」

記者D:「環境問題?」

記者E:「動物愛護?」

フォレストのナレーション:「理由もなく走る事が不思議らしい」

記者F:「なぜです?」

フォレスト:「走りたいからだよ」

フォレストのナレーション:

「走りたかった」

「僕のしてる事を見て、なぜか納得する者もいた」

一般人:「目からうろこが落ちた」

「彼こそ何かを悟り、人生に答えを見つけた人だ」

「あなたに従います」

フォレストのナレーション:

「道連れができた」

「人数はさらに増えた」

「さらに大勢が加わった」

「僕は『人々に希望を与えた』と」

「そんな事、僕には分からない」

「でも助けを求める人はいた」

ステッカー販売の男:

「すまんが助けて欲しいんだ」

「ステッカーの販売なんだが、あんたのひらめく頭でいい文句を考えてくれないか」

「気をつけろ!犬のクソを踏んだぞ!」

フォレスト:「よくある事さ」

ステッカー販売の男:「クソを踏むのが?」

フォレスト:「仕方ない」

フォレストのナレーション:

「その男はステッカーの文句を思いつき、大儲け」

 

『SHIT HAPPENS』ステッカーは1980年代、流行した車のステッカーでした。
 

 

 

 

フォレストのナレーション:

「Tシャツを商売して全財産をスッた男もいた」

「だが僕の似顔絵も描けず、カメラも持ってない」

 

トラックが水たまりを跳ねて、フォレストは泥水を被ります。
 

Tシャツ販売人:「これで拭けよ。売れないTシャツだ」

フォレスト:「いい1日を!」

フォレストのナレーション:

「その男もアイデアを思いつき、大儲けしたそうだ」

 

おなじみのスマイルマークの「HAVE A NICE DAY」Tシャツですね。
 

 

 

 

フォレストのナレーション:

「とにかく話したように、道連れが増えた」

「ママは言ってた『過去を捨ててから前へ進みなさい』と」

「走ったのはそのためだ」

「僕は結局3年と2ヶ月14日と16時間走りつづけた」

 

 

 

 

フォレストは突如走るのを止めて、後続で走る人たちに言いました。
 

一緒に走ってきた人:

「待て、何か言うぞ」

フォレスト:

「僕はとても疲れた」

「うちに帰る」

 

 

 

 

フォレストが逆方向に向かって帰ろうと歩いた時、モーゼが海を2つに分けたように人々は道を開けました。
 

 

 

 

一緒に走ってきた人:「俺たちは?」

 

 

 

 

 

 

30.胸を張って

 

フォレストのナレーション:

「こうして走る日々は終わり、アラバマへ戻った」

「ある日突然、ジェニーから手紙が『サバンナへ来て欲しい』とそれでここへ来たんです」

「僕をテレビで見て...」

「9番のバスでリッチモンド通りまで、そこで降りて左へ歩いて、ヘンリー通り1947番地のアパートです」

バス停のお婆さん:

「バスに乗る事はないわ」

「ヘンリー通りなら、あの道を少し行った所よ」

「あの道よ」

フォレスト:

「あの道?」

「ありがとう」

 

フォレストは大急ぎで走り出しました。
 

バス停のお婆さん:「幸運を祈ってますよ」
 

 

フォレストがジェニーのアパートの部屋のドアを開けると、とても明るいジェニーがいました。
 

ジェニー:

「フォレスト!」

「元気?入って」

フォレスト:「手紙が...」

ジェニー:「届いたのね」

フォレスト:「今ここに住んでるの?」

ジェニー:

「仕事から戻って片づいてないの」

フォレスト:

「いい所だ」

「エアコンもある」

 

フォレストはお土産にチョコレートを渡しました。
 

フォレスト:「少し食べたよ」

 

このジェニーの変わりっぷりは見ていてすごいですね。

あの病んでいたジェニー。

元気さとフォレストに会えた嬉しさでいっぱいです。

涙が込み上げてきますね。

 

ジェニー:

「あなたの記事を切り抜いたのよ」

「ほらね」

「走ってるあなた」

フォレスト:

「たくさん走った」.

「ずっとね」

ジェニー:

「どう言ったらいいか...」

「今まであなたにした事を全部、許して」

「私はずっとどうかしてたのよ」

 

ジェニーの家に一人の子どもが現れました。
 

ジェニー:

「アラバマの友達よ」

「ガンプさんにご挨拶を」

男の子:「こんにちは」

フォレスト:「こんにちは」

男の子:「テレビ見てもいい?」

ジェニー:「音を低くしてね」

フォレスト:「ママなのかい?」

ジェニー:

「そうよ」

「名前はフォレスト」

フォレスト:「僕と同じ?」

ジェニー:「父親の名を付けたの」

フォレスト:「父親が僕と同じ名前?」

ジェニー:「あなたがパパなのよ」

 

ジェニーはフォレストを愛情深くじっと見つめます。

フォレストはとても驚いてたじろぎます。

 

ジェニー:

「私を見て」

「私を見て」

「あなたは何もしなくていいのよ」

「いいわね?」

「いい子でしょ?」

 

フォレストはとても心配そうにしてジェニーに尋ねました。
 

フォレスト:

「本当にすばらしい子だ」

「でも、頭はどうなの?」

「どこか...」

ジェニー:

「とても利口よ。学校でも一番」

「話をしてやって」

 

とてもジーンとくる親子、家族の場面です。

実は今まで、フォレストが幼少時代からバカにされてきても、悲しむ場面は一度もありません。

いくらお母さんの愛情をたっぷり受けていても、実際は辛かっただろうと思います。

ジェニーが何度も離れていくのも、自分の境界知能のせいにしていたにちがいありません。

人は困難があると、一点に原因を集中させます。

フォレストは境界知能ゆえ、人と分かり会えない寂しさ、孤独感があったのだと思います。

名誉やお金では心の問題は解決しないのですね。

フォレストはそっと息子の隣に座りました。

まるで兄弟のようでした。

二人は隣の部屋のリビングでTVを見ているんですね。

ジェニーがそれをドア越しに見ている映像がとてもキレイなんです。

ジェニーが優しくのぞいている感じが出ていて、とても美しいシーンなんです。






 

 

31.結(むすび)

 

3人で公園に散歩に行きました。

ジェニーはフォレストに病気の事を告白します。

 

ジェニー:「私は病気なの」

フォレスト:「風邪でもひいたのかい?」

ジェニー:

「ウィルスに感染して、医者もどう治療したらいいか分からないの」

フォレスト:

「僕と一緒に帰ろう」

「フォレストと一緒にグリーンボウの僕の家で暮らそう」

「僕が君の看病をするよ」

ジェニー:「結婚してくれる?」

フォレスト:「いいよ」

 

故郷の家で結婚式が始まります。

ジェニーはフォレストのネクタイを整えてあげました。

結婚式にダン小隊長が参列してくれました。

しっかりと2本脚で歩いていました。

 

 

 

 

フォレスト:

「ダン小隊長だ」

「ダン小隊長」

ダン小隊長:「やあ、フォレスト」

フォレスト:

「新しい脚だ。見てごらんよ」

「そう、新しい脚だ。オーダー・メイドの脚さ」

「スペースシャトルを作るチタン合金だ」

フォレスト:「魔法の脚だ」

ダン小隊長:「フィアンセのスーザンだ」

フォレスト:「ダン小隊長!」

スーザン:「よろしく」

フォレスト:

「ダン小隊長、僕のジェニーです」

「やっとお会いできたわ」

 

結婚式はしめやかに行われました。

優しい陽光に包まれたなごやかな式でした。


 

 

32.ジェニーの運命、フォレストの使命

 

ジェニーは最愛の母のベッドで眠っていました。

フォレストはアフタヌーンティーセットを持ってきます。

ジェニーはそれに気づいて起きます。

 

ジェニー:「ベトナムは怖かった?」

フォレスト:

「ああ」

「さあ...分からないな」

「時々雨が降りやんで星が出てくると、きれいだった」

「入り江に太陽が沈む時のようにね」

「水面がどこまでもキラキラ光る」

「山の湖もきれいだった。透き通ってて、上と下に2つの空があるようだった」

「それに砂漠の日の出」

「境が分からなかった」

「どこまでが天国でどこからこの世なのか」

「美しかった」

ジェニー:「一緒に見たかったわ」

フォレスト:「君もいたよ」

 

 

 

 

フォレストがそういうと、ジェニーは嬉しそうにフォレストの手を握りました。

 

ジェニー:「愛してるわ」

 

 

 

 

 

 

フォレストがベトナムで見た夜景、漁船で見た夕焼け、ランニングで見た空と湖。

これらはジェニーが恐れた『死』を和らげるためにフォレストは体験したのかもしれません。

今、この時のために。

それも神様の思し召しで運命のような気がしてなりません。

フォレストの母が死ぬ前にフォレストに諭しました。

死は運命であると。

フォレストはジェニーの死を受け入れたからこそ、旅立っていくジェニーに正気を保って慰めることができたのだと思います。

フォレストはジェニーの墓の前でジェニーに語りかけました。

 

フォレスト:

「君は土曜の朝、死んだ」

「僕らの樹の下に君を埋めた」

「君のパパの家はブルドーザーで潰したよ」

「ママはよく言っていた『死は生の一部なのよ』と」

「でも悲しい」

「小さなフォレストは元気だよ」

「また学校へ通い出す」

「毎日、3度の食事は僕が作ってる」

「そして、毎日髪をとかし、歯を磨かせてる」

「ピンポンも教えてる」

「とてもうまい」

「釣りもする」

「本も読む。とても利口な子だ」

「君にも見せたい」

「自慢できる」

「あの子からの手紙だよ」

「読むなと言われたからここに置いておく」

「ジェニー、僕には分からない。正しいのはママなのか、ダン小隊長だったのか」

「僕らには皆、運命があるのか、それとも風に乗ってたださまよってるのか」

「たぶん、その両方だろう」

「両方が同時に起こってる」

「君が恋しいよ。ジェニー」

「欲しいものがあったら、いつでも呼んでくれ」

 

フォレストの帰り際、数羽の鳥がさえずりながら飛んでいきました。

その声にフォレストは思わず、振り向きます。

それは祈りが叶えられた鳥になったジェニーの姿なのかもしれません。







 

30年前のフォレストとその母のように、フォレストと息子はスクールバスに乗り込もうとしています。
 

フォレスト:

「バスが来たよ」

「この本か」

フォレストJr.:「おばあちゃんがよくパパに読んだ本でしょ?」

フォレスト:「大好きな本だ」

 

本の中から鳥の羽根が落ちました。

バスが来て、フォレストJr.が初めて乗ろうとしています。

 

フォレスト:

「フォレスト、待って」

「お前を愛してる」

フォレストJr.:「僕もだよ、パパ」

フォレスト:「ここで待ってるよ」

バスの運転手(ドロシー):「これはスクールバスよ」

フォレストJr.:「あなたはドロシー。僕はフォレスト・ガンプ」

 

そしてさきほどの羽根がフォレストJr.のバスを見届けるかのように、風に煽られて上昇して行きました。

こうしてフォレストの物語は終わりました。


 

~PART4へ続く