10.ザンパノとイルマット

 

あくる日の朝、目を覚まし荷台から出るとそこはサーカス団の宿舎でした。

どこからか美しい曲が流れてきました。

ジェルソミーナはその美しい音色に誘われるように部屋を覗きます。

そこではあの綱渡り芸人がバイオリンを弾いていました。

近くの婦人に聞きます。

 

ジェルソミーナ:「ここはどこ?」

婦人:「ローマよ。あれが聖パオロ大聖堂よ」

ジェルソミーナ:「サーカスと一緒?」

 

ザンパノと綱渡り芸人が顔を合わせます。

二人は昔からの知り合いでした。

 

イルマット:

「やあ、誰かと思ったら "ペッポウ" か」

「これはいいぞ、動物が要るからな」

「冗談だよ、分かるだろ」

「タバコは?あるのか?」

「彼は芸術家と言うべきだ。異色番組だぞ」

「何をやるんだ?」

「鎖を切る芸はどうした?」

ザンパノ:

「友達として忠告する。口をきくな」

「余計な口をきくと後悔するぞ」

イルマット:「冗談を言っただけなのに」

ザンパノ:「忘れるなよ」

 

ショーが始まり、イルマットは見事な空中芸を見せて観客の拍手をもらいます。

イルマットはザンパノを小馬鹿にしたようにささやきます。

 

イルマット:「がんばれよ」

ザンパノ:「嫌なヤツだ」

司会:

「ジラッファ・サーカスの新アトラクション!」

「ザンパノ!鋼鉄の肺を持った男の登場です!」

ザンパノ:

「皆さん!これは太さ5ミリの鉄の鎖です」

「鋼鉄より強い粗鉄製です」

 

イルマットがそっと近寄り、観客席の一番前で見物します。

 

ザンパノ:

「これを胸にまいて、このフックで両端をつなぎます」

「そして胸の筋肉を拡張するだけで、つまり胸のチカラでフックを壊します」

「フックに仕掛けがと疑う方は確かめて下さい」

「ジェルソミーナさん」

「これは痛さを消すためのものではありません」

 

イルマットが騒ぎ立てて茶化します。

 

イルマット:「凄いぞ、いいぞ、いいぞ」

ザンパノ:「フックが肉に食い込んで、血が出ることがあるので.....」

 

イルマットはザンパノの口上の邪魔をして、鎖を引きちぎる動作をします。

 

イルマット:「イー、イー、イー」

ザンパノ:

「雄牛2頭分の力は必要としない」

「大学の先生でなくても、少し頭がよければ分かることだ」

「必要なことは3つある。健康な肺。鉄の肋骨。それに超人的な力です」

「気の弱い人は見ない方がいいと申し上げる」

「太鼓が3回鳴りましたら、ジェルソミーナさん、どうぞ」

 

ザンパノが両腕を上げて、深く息を吸い込み、肺と胸を膨らませ力を入れたその時、

 

イルマット:「ザンパノ!電話だよ」

 

観客は大笑いです。

ザンパノはショーが終わっても、怒りを抑えきれません。

 

ザンパノ:

「殺してやる」

「出て来い、このバカ野郎め!」

「二度と笑えなくしてやる!」

 

何とかイルマットは逃げることができ、喧嘩は終わりました。

あくる朝、ジェルソミーナはイルマットにバイオリンを教えて貰います。

 

イルマット:「さあ、吹くんだ」

 

ジェルソミーナは息を大きく吸い込み、トランペットに一気に息を吹き込みました。

 

イルマット:

「ああ、上出来だ。お前は筋がいい」

「いいかね、おれはバイオリンだ」

「これを聞いたら、こっそりとおれの後ろへ来てラッパを吹く」

「今やったようにな。ではやろう」

ジェルソミーナ:「だめだわ」

イルマット:「なぜ?」

ジェルソミーナ:「ザンパノが怒る」

イルマット:「聞いたか?全部俺のせいだ。」

サーカス団長:「ザンパノは?呼んでこい。わしが話す」

ジェルソミーナ:「町へ行ったわ」

サーカス団長:

「よし、あとで話す。怖がることはない。家族なんだ」

「一緒に働いてる。芸は身のためだ」

イルマット:

「覚えたか?おれがこうしたら、分かったな」

「やってみよう。うまくやれよ」

「見物の皆さん、ただ今からいとも悲しい曲をかなでます」

 

イルマットが最初にバイオリンを弾きます。

そのあと、ジェルソミーナがトランペットを大きく吹きました。

 

イルマット:

「いいぞ、すばらしいぞ。実に見事だ!」

「ザンパノと一緒でも大したもんだな」

「おれの曲が終わる前に、後ろへ来て吹くんだ」

「さあ、もう一度だ。はじめよう」

 

ジェルソミーナはもう一度吹きました。

 

イルマット:

「どうだ、いいぞ」

「ジェルソミーナ、3回やろう」

「場内を一回りするから、おれの後ろで吹け」

「分かったな」

「さあ、ここを指で押して、この指はここだ」

「それで吹くんだ」

「やってみろ」

 

ジェルソミーナは2つの音階で吹くことができました。

 

イルマット:

「うまいぞ!」

「では、ついて来い。1・・・2・・・」

 

二人は行進します。

そこにザンパノが戻ってきます。

トランペットを取り上げ、ジェルソミーナを止めさせます。

 

ザンパノ:「何事だ」

サーカス団長:「わしがやらせてる」

ザンパノ:

「おれの相棒だ。こいつの仕事はおれが決める!」

「あんなバカ野郎とは仕事させん!」

「いやなんだ、不愉快だからだ!」

「二度としてみろ・・・」

 

イルマットはバケツの水をザンパノの頭にかけました。

 

サーカス団長:

「ザンパノ、やめろ」

「ゴルフレッド、止めろ!殺されるぞ!」

「二人を押さえろ、パオロ!」

 

周りの男たちがザンパノを止めに入ります。

 

サーカス団長:

「いったい何という奴らだ」

「ザンパノ、来い。ナイフを持ってる」

イルマット:「気をつけろ、ナイフだ」

ザンパノ:「来てみろ 殺してやるぞ!」

 

イルマットは奥の部屋に鍵を閉めて閉じこもりました。

 

ザンパノ:「ドアを開けて出てこい、腰抜け!」

警官:「ナイフを捨てろ!」

 

ザンパノとイルマットは警察に連行されて、サーカス団は立ち退き命令が下ります。

 

女の団員:「どうするの?」

「私たちといればいつか彼が来るわ」

「彼なんか忘れなさいよ」

「いないほうがいいのよ」

「一人でどうするの?」

「ここにいれば食べさせてあげる」

ジェルソミーナ:

「車は?」

「警察に渡せばいいのよ」

「いっしょにおいでよ」

「寝る場所は?」

「私の車に二人分の場所がある」

サーカス団長:

「働け、モラ。全部片付けるんだ」

「4時にトラックが来る」

「お前は好きなようにしろ!」

「一緒に来るか奴を待つかだ」

「奴とはこれきりだ」

「あの間抜けもな」

「もうゴメンだ」


オステオスペルマム

 

 


11.役立たず
 

ジェルソミーナはずっとサーカスの跡地にいました。

オート三輪の荷台で寝ていました。

どこからか口笛が聞こえてきて、懐中電灯の暖かな光がジェルソミーナを照らします。

夜にイルマットが先に釈放されて帰ってきました。

 

イルマット:

「眠ってたのか?」

「何てケモノ臭いんだい。よく平気だな」

「ザンパノはまだブタ箱だ。たぶん明日出られる」

ジェルソミーナ:「明日?」

イルマット:「ああ、たぶんな」

ジェルソミーナ:

「二人とも悪いのよ。ザンパノ一人じゃないわ」

「それにあんたはもう出てきて」

イルマット:

「そうさな、見方によってはおれの方が悪かった」

「だが奴はナイフを」

「降りて来いよ。降りろよ」

「奴にはブタ箱も薬だ。何年でもいるがいいさ」

「おれは先が短い」

「ああ、うまい空気だ。ここにかけよう」

「いい部屋着だな」

「かけろ。かけろよ」

 

二人は横に並んで話をします。

 

イルマット:

「お前の顔はおかしいな」

「それで女かい。まるでアザミだ」

ジェルソミーナ:「ザンパノを待たないわ。皆に誘われたのよ」

イルマット:「奴と別れるいい機会だ」

 

イルマットは大笑いで寝転びます。

 

イルマット:

「明日出てきて誰もいない時の奴の顔を見たい」

「絶対に別れろ。奴は野蛮人だ」

「何の理由もない。つい、からかいたくなる」

「なぜかな、自分でも分からん。いつもそうなる」

「ところで、どうしてザンパノと一緒になった?」

ジェルソミーナ:「母さんに1万リラくれたの」

イルマット:「本当にそれだけでか」

ジェルソミーナ:「私には妹が4人いるの」

イルマット:「奴を好きか?」

ジェルソミーナ:「私が?」

イルマット:

「そう、お前さ」

「逃げないのか?」

ジェルソミーナ:

「逃げようとしたわ」

「だめだった」

イルマット:

「お前は変わってるな」

「ダメとは何だ?。奴がいやなら皆と行けばいい」

ジェルソミーナ:

「皆と行ったって同じことよ」

「ザンパノといたって変わりはないわ」

「どっちだって同じよ。私は何の役にも立たない女よ」

「いやだわ、生きてることが嫌になったわ」

 

ジェルソミーナの本当の悩みは自分が無価値な人間だと感じていることなんですね。

役に立たないから1万リラで母親に売られた。

役に立たないから、ザンパノに人間扱いされない。

そう思い込んでしまっています。

 

イルマット:

「料理はどうだ?」

「料理は作れるのかい」

ジェルソミーナ:「いいえ」

イルマット:「何ができるんだ?歌や踊りは?」

ジェルソミーナ:「いいえ」

イルマット:「すると、男と寝るのが好きか?」

 

ジェルソミーナは横を向きます。

 

イルマット:

「では何が好きだ?」

「別に美人でもなし」

ジェルソミーナ:「私はこの世で何をしたらいいの?」

イルマット:

「おれがお前と一緒になったら、綱渡りを教える」

「ライトをあててやる」

「おれの車で巡業する」

「世の中を楽しむ。どうだい?」

「それとも、いつまでもザンパノと一緒に苦労を続けるか、ロバにたいにコキ使われながら...」

「しかし、お前もザンパノには何かの役に立つんだろう」

「前に逃げた時はどうだった?」

ジェルソミーナ:「ひどく殴られたわ」

イルマット:

「奴はなぜ引き戻したのかな」

「分からん。おれなら一発でお前を捨ててしまう」

「おそらく、惚れてるんだ」

ジェルソミーナ:「ザンパノが私に?」

イルマット:

「変かい?奴は犬だ」

「お前に話しかけたいのに吠える事しか知らん」

ジェルソミーナ:「かわいそうね」

イルマット:

「そうだ、かわいそうだ」

「しかし、お前以外に誰が奴のそばにいられる?」

「おれは無学だが何かの本で読んだ」

「この世の中にあるものは何かの役に立つんだ」

「例えばこの石だ」

ジェルソミーナ:「どれ?」

イルマット:

「どれでもいい」

「こんな小石でも何かの役に立ってる」

ジェルソミーナ:「どんな?」

イルマット:

「それは・・・」

「おれなんかに聞いても分かんないよ」

「神様はご存知だ」

「お前がいつ生まれ、いつ死ぬか、人間には分からん」

「おれには小石が何の役に立つか分からん」

「だが何かの役に立つ」

「これが無益ならすべて無益だ」

「空の星だって同じだとおれは思う」

「お前だって何かの役に立ってる」

「アザミ顔の女でも」





12.ジェルソミーナの決意

 

ジェルソミーナは小石をイルマットから受け取り、じっと涙を浮かべながら見つめました。

次第にジェルソミーナの顔に笑顔が戻っていきます。

ジェルソミーナに生きる気力が戻って来ます。

それはイルマットの慈愛です。

神はジェルソミーナにイルマットを使わせ、命を与えました。

 

ジェルソミーナ:

「何もかも火をつけて焼いてやるわ。布団も毛布もみんな」

「彼が思い知るわ」

「もうあの人とは働きたくないのよ。1万リラくれた分は働いたわ」

「彼は無関心よ。何も考えていない。’言ってやる。何のつもりだと」

「何の役に立っているのか」

「スープに毒を入れてやる。いやダメ、みんな焼いてやる」

「私がいないと彼は一人ぼっちよ」

イルマット:

「皆が誘ったんだろ?」

「お前は一座の連中に来いと言われたんだろ?」

「俺のことは言わなかったか?」

ジェルソミーナ:「二度と仕事しないって。ザンパノとも」

イルマット:

「誰が奴らと仕事するもんか。俺を必要とするのは奴らの方なんだ」

「俺はどこへでも行ける。俺は一人で自由にしたい人間だ」

「俺は一人で暮らせる。お前はどうする?。俺には家もない」

ジェルソミーナ:「さっきなぜ先が短いと言ったの?」

イルマット:

「いつも死を考えてるからさ」

「おれの仕事はいつ死ぬか分からん危ない仕事だ」

「いつ死んでも誰も悲しまん」

ジェルソミーナ:「お母さんは?」

 

イルマットとは "狂人" という意味です。

彼は綱渡りという芸風からいつ死んでも覚悟して生きていました。

性格は柳に風が吹いているようで、風来坊のようです。

イルマットの陽気さ、思いつくことは何でもする軽快さ。

それは善いことも悪いことも超越した本当の自由な生き方。

いつ死ぬか分からない不安を持ちながら、今の一瞬を命を懸けて楽しむ、人助けもする、嫌な奴もからかう。

生死は神の意向にまかせ、”今に生きる”。

こういった生き方が生き物本来の生き方ではないでしょうか?

 

イルマット:

「お前はどうするんだ?。奴を待つか一座と行くか」

「さあ、乗れ。警察の近くまで運転して行ってやる。出てきた時にすぐ分かる」

「わあ、この怪物は動くのかい」

 

イルマットの運転で警察まで連れて行ってもらいました。


イルマットとお別れの時です。

 

イルマット:「ここだ、ここが警察だ」

ジェルソミーナ:「行くの?」

イルマット:「行くよ。本当におれと一緒に来たいのかい?だが役に立たん女は連れて行きたくないんだ」

 

イルマットは首にかけていたネックレスをジェルソミーナにかけてあげます。

 

イルマット:

「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」

「これをやる。思い出の品だ」

 

イルマットとそういって珍しく寂しそうにジェルソミーナと別れました。

 

イルマット:

「チァオ!」

「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」

 

ジェルソミーナは悲しんでいましたが、顔を上げてイルマットにお別れの挨拶を涙混じりの笑顔で返しました。

 

イルマット:「さよなら、ジェルソミーナ」

 

イルマットはスキップしながらマンションの向こう側へ消えて行きました。

 


プリムラ・マラコイデス


 

13.お似合いの二人
 

時が経ち、ザンパノは釈放されます。

 

ジェルソミーナ:「ザンパノ、ここよ」

 

ザンパノは感慨深げにそして恥ずかしげにタバコをくわえました。

 

ジェルソミーナ:「一座の人たちに誘われたのよ」

ザンパノ:「行けばいいのに」

 

ジェルソミーナは黙って荷台からザンパノのコートを取り出し、ザンパノに着せてあげました。

それは本物の夫婦のようでした。

二人は旅の途中に海岸に立ち寄ります。

ジェルソミーナは故郷に似たその海岸に走って向かいました。

そして実家を思い出していました。

 

ジェルソミーナ:「私の家はどの方角?」

 

ザンパノは靴と靴下を脱ぎ、波に向かって歩きながら珍しくやさしく言います。

 

ザンパノ:「あっちだ」

 

それはそれは光が無数に反射して綺麗な明るい穏やかなシーンでした。

モノクロ映像に遠い沖まで反射した陽光がきらめきます。

 

ジェルソミーナ:

「前には家に帰りたくてしかたがなかった」

「でも今ではどうでもよくなったわ」

「あんたといるところが私の家だわ」

ザンパノ:

「そいつは立派な考えだ」

「家へ帰れば満足に食えんから気が変わったんだ」

ジェルソミーナは恋心の分からないザンパノに苛立って言います。

ジェルソミーナ:

「あんたってケダモノね。あきれたわ」

ザンパノは恥ずかしくてとても口にできないのかもしれませんね。

ザンパノ:「ハッハッハッハッハッ。だが本当だぜ」





14.修道院

 

ザンパノたちは旅の途中で修道女に出会い、修道院で宿を取ることとなりました。

 

修道女:「許可が出ました。あちらの納屋でお休みを」

ザンパノ:

「ありがとう、院長様。感謝します」

「早く毛布を持って来い」

 

修道女は純真なジェルソミーナに好意を持ちます。

ザンパノたちは食事をもらいました。

 

修道女:「まだ少しありました」

ザンパノ:「ありがとう。美味い」

修道女:「もう一杯いかが?」

ザンパノ:「いただくんだ」

修道女:「彼女もご一緒にお仕事を?」

ザンパノ:

「少し手伝っています。太鼓とラッパをやります」

「ラッパを聞かせてあげろ」

 

ジェルソミーナはイルマットに教えてもらった、あの物悲しい曲を吹きました。

ザンパノはあまりの上手さに食事の手を止めて、聞き続けました。

 

修道女:「まあ、上手ね」

ザンパノ:「もういい、これを洗え」

修道女:「私が洗います」

ザンパノ:「洗いますよ」

修道女:

「では一緒に」

「彼女はラッパがお上手ですね。何という曲ですの」

ジェルソミーナ:「知りません」

 

修道女はジェルソミーナに話しかけます。

 

修道女:「いつも車の中で寝るの?」

ジェルソミーナ:「中が広いのでお鍋もランプもそろってるの」

修道女:「ステキね。あちこちへ巡業するのはお好き?」

ジェルソミーナ:「あなたはここばかり?」

修道女:

「私たちも移るのよ。2年ごとに僧院を変わるの」

「ここは2つ目なの」

ジェルソミーナ:「どうして?」

修道女:

「同じ所に長くいると、どうしても離れなれなくなるから」

「住む土地に愛情が湧いて、一番大切な神様を忘れる危険があるの」

「私は神様と二人連れで方々を回るわけなの」

ジェルソミーナ:「人によって色々あるのね」

修道女:

「僧院の中を見たい?」

「案内するわ。千年以上もたつ古い僧院なのよ」

 

納屋の中での就寝前の二人の会話です。

 

ジェルソミーナ:「ザンパノ、なぜ私と一緒なの?私は不細工だし、料理も何もできないのに」

ザンパノ:「何を言ってるんだ。早く寝ろ。おかしなことを言う女だ」

ジェルソミーナ:

「雨だわ。泊まってよかった」

「ザンパノ、私が死んだら悲しい?」

ザンパノ:「お前、死ぬのか?」

ジェルソミーナ:

「前にはこんな生活なら死にたいと思ってたわ。今は二人が夫婦みたいね」

「小石でも役に立つなら一緒に暮らせばいいわ」

「よく考える必要があるわ。あんたは考えない?」

ザンパノ:「考えることはねえ」

ジェルソミーナ:「本当に?」

ザンパノ:

「何を考えてるんだ。こんなバカげた話はいいかげんにやめろ!」

「早く寝ろ!眠い」

ジェルソミーナ:「ザンパノ、少しは私を好き?」

 

ザンパノは何も答えなくなりました。

ジェルソミーナはトランペットを吹きます。

 

ザンパノ:「やめて寝ろ」


ノースポール


 

15.窃盗の罪
 

夜中に起きるとザンパノは起きて何かをしていました。

 

ザンパノ:「あそこに銀のハートがある。お前は手が小さいから入る」

ジェルソミーナ:「いやよ」

ザンパノ:「何が嫌だ。誰に言ってる!」

 

ザンパノはジェルソミーナをブチます。

 

ジェルソミーナ:「いやよ。悪いことだわ」

ザンパノ:「うるさい!」

 

あくる朝、ザンパノたちは僧院を出る準備をしています。

ジェルソミーナの暗い表情に、修道女は話しかけました。

 

修道女:「どうしたの?ここにいたいの?院長に頼んであげるわ」

ザンパノ:

「ありがとうございました。皆さんの温かいおもてなしは、貧しい芸人には大助かりでした」

「押せ!」

 

ジェルソミーナは泣きながら僧院を後にしました。

ここでのシーンはジェルソミーナが神のもとに行く未来を予告しているようですね。

ジェルソミーナの汚れなさとザンパノの罪の深さが際立ったシーンです。

牧場、湖を抜けて旅は続きます。





16.殺人の罪

 

道端に見慣れた車が止まっていました。

そこではイルマットが車の修理をしていました。

ザンパノとイルマットが鉢合わせをします。

 

イルマット:「 ”ペッポウ”  手伝ってくれ。俺もいつか手伝うぜ」

 

ザンパノはイルマットの車の修理道具を蹴散らしました。

足だけが見えるのみでザンパノの顔が写っていないところが不気味で恐ろしいですね。

 

イルマット:「 ”ペッポウ” 」

 

ザンパノがイルマットに襲いかかります。

この前の喧嘩での怒りが治まらないザンパノはイルマットを殴ります。

 

ザンパノ:「くたばれ!」

ジェルソミーナ:「ザンパノ、やめて!」

 

ザンパノは殴り続けました。

 

イルマット:「殺すつもりか」

ザンパノ:

「お礼だ。”ペッポウ” のな」

「この次は覚悟しろよ」

 

イルマットはふらふら歩いた後、そのままその場にひれ伏してしまいました。

ジェルソミーナがあわてて駆け寄ります。

 

ジェルソミーナ:

「ザンパノ、早く!」

「様子が変よ、おかしいのよ!」

「様子が変よ」

 

ザンパノが近寄ってきて、イルマットの足を蹴って様子を確認します。

 

ザンパノ:「起きろ、冗談はよせ」

ジェルソミーナ:「死ぬわ」

ザンパノ:「静かにしろ!」

「おい!」

 

ザンパノはイルマットのうなだれた指先を見て、死んだと分かりました。

頭の打ちどころが悪く、イルマットは後頭部を車にぶつけて死んでしまいました。

ジェルソミーナが気が狂いそうになり叫び出します。

 

ザンパノ:

「静かにしろ!」

「静かにしろったら!」

「まずいことになった」

 

ザンパノは狼狽しながら周囲を確認します。

ザンパノはイルマットの両足を持ち、遺体をひきずって、橋の下に隠します。

その様子を息を飲んでジェルソミーナがじっと見つめます。

ジェルソミーナの身体が段々と震えてきました。

そしてイルマットの車を橋の下に突き落とし、車は炎上します。

ザンパノはジェルソミーナの腕を引っ張って車に乗せて、逃げるように去っていきました。

ザンパノは警察に捕まるのを恐れて、遺体を橋の下に放置して車の事故に見せかけてその場を立ち去ったのです。


カトレア

 

 

17.心の崩壊
 

その間の車から見える風景は葉が枯れて落ちた朽ちた木ばかりです。

黒い木枝がおぞましさを増幅させます。

ザンパノたちは食うために芸をしながら旅を続けました。

季節は冬。道の隅には溶けないで残っている雪が鬱蒼と暗在しています。

 

ザンパノ:

「気の弱い方は見ないで下さい」

「肉が破れて血が出るかも知れん」

「では太鼓を合図に。ジェルソミーナさん、どうぞ」

 

ザンパノの口上には笑顔はなく、淡々としゃべっています。

 

ザンパノ:「ジェルソミーナさん、太鼓だ」

 

思い詰める時間が多くなっているジェルソミーナ。

ザンパノの言葉にはっと気が付き言葉を発します。

 

ジェルソミーナ:

「彼の様子が変よ。ザンパノ!」

「ザンパノ、彼が死にそうよ!」

 

ジェルソミーナは精神が崩壊していました。

道化の化粧で発するこのジェルソミーナの言葉に、事件の凄みが感じられます。

ザンパノは事件以降、周囲を確認する癖がついていました。

車を止めて、ジェルソミーナに話しかけます。

 

ザンパノ:

「どうしたんだ、何があった?」

「誰も見てなかったんだ。大丈夫だ。誰も知っちゃいねえ」

「腹が減った、ここに居ろ。俺が作る」

 

ジェルソミーナはザンパノが車から離れた隙に、ふらふらとどこかへ行こうとしていました。

 

ザンパノ:

「おい!どこへ行く!。おい、いったいどこへ行くつもりだ?」

「どこへ行く気だ?。へい、家へ帰りたいのか?」

 

ジェルソミーナは穢らわしくザンパノを拒絶していました。。

その間の雑用、看病をザンパノはしていました。

 

ザンパノ:

「食え」

「泣くのはよせ!やめろ!泣くなったら!」

「寒い、もう寝るぞ」

ジェルソミーナ:「いや、いや 入らないでちょうだい!」

ザンパノ:「好きにしろ!」

 

ザンパノたちの移動が続きます。





18.遺棄の罪

 

塀があって風除けになる場所でザンパノが火を起こしていました。

ジェルソミーナが久しぶりに荷台から起き上がってきました。

 

ジェルソミーナ:「ここがいいわ」

ザンパノ:「寒いぞ」

 

ザンパノのジェルソミーナへの態度の冷たさが明らかに変わってきているんですね。

ジェルソミーナへの思いやりが少しずつにじみ出ています。

 

ザンパノ:「座って陽にあたれ」

 

ジェルソミーナの気分の波が一段と激しくなっているんですね。

今は少し晴れやかな気分のようです。

 

ザンパノ:「スープを飲むか?」

 

ザンパノは火に焚べていた鍋を味見をします。

ザンパノ:「何か足りんな」

ジェルソミーナ:「よこして、私がする」

ザンパノ:

「久しぶりだ。10日ぶりに口をきいたな」

「殺す気はなかった。たった2発食らわしただけだ。何てことなかった」

「鼻血が少し出ただけで、放したら倒れやがった。2発ぐらいで刑務所はごめんだ」

「人並みに働きたい。生きる権利はある!」

 

ジェルソミーナは食事の味を整えて、ザンパノに皿を渡します。

 

ザンパノ:

「悪くない。さあ、もう行こう」

「村でお祭りがある。5、6キロだ。稼げるかも知れんぞ」

 

急にジェルソミーナの様子が豹変しました。

 

ザンパノ:「どうした、どうしたんだ?」

ジェルソミーナ:「彼の様子が変よ」

 

ザンパノはジェルソミーナが病気になったと分かりました。

 

ザンパノ:

「お前の家へ帰ろう。お袋さんの所へ」

「お袋さんの所へ帰りたくねえのか?」

ジェルソミーナ:「私がいないとあんたは一人よ」

ザンパノ:「俺は遊んでられん!飯のタネを稼ぐんだ。お前は病気だ!ここがな!」

 

そう言ってザンパノは頭を指さします。

ジェルソミーナはそのまま外で寝ようとして横になります。

 

ザンパノ:

「来い、何してる。寒いぞ、車に乗れ」

「乗れ」

ジェルソミーナ:

「あんたが彼を殺したのよ。もういやだわ」

「逃げたかったの。彼が言ったのよ。一緒にいろって」

「薪が足りないわ。火が消えるわ」

 

少し時間が経ち、ジェルソミーナは眠りにつきました。

ザンパノはジェルソミーナの服と毛布を外で寝ているジェルソミーナのそばに置きました。

毛布を優しくかけてやります。

ポケットにあったお金をジェルソミーナの手に握りしめさせました。

そして荷台の幌を閉めようとした時、トランペットに目が止まります。

ザンパノはジェルソミーナが起きないようにトランペットをそばに置いて立ち去ります。

車を押して公道に移動する時、カメラはザンパノがジェルソミーナを見つめる目線になり、ジェルソミーナの姿は段々と小さくなっていきました。

 

クレマチス



19.精霊の声
 

それから何年が経ったのでしょうか。

とある町のサーカス団でザンパノは相変わらずの  ”鋼鉄の肺男”  の芸をしていました。

白髪まじりのザンパノは声も少しかすれて年を取っていました。

サーカスの出番の合間にその町を散歩します。

 

歌声:「♪ラ~ララララ~♪」

 

ふと、精霊のような歌声が一瞬の間だけ聞こえてきました。

ザンパノはすぐに振り返りました。

それはザンパノが聴いたことのある曲でした。

気のせいかと思い、また前を向いて歩き始めます。

 

歌声:「♫ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♫」

 

するとまた、ザンパノを呼び止めるかのように今度ははっきりとその声が聞こえてき

ます。

ザンパノはまた後ろを振り返ります。

声の方に行ってみると、娘が洗濯物を干しながら、その曲を口ずさんでいました。

そのまわりにはちいさな子供が輪をつくって、スキップしながら回っていました。

真っ白な純白のシーツを大きく広げながら、娘が歌っています。

 

歌声:「♫ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♫」

ザンパノ:「ヘイ、その歌はどこで覚えたんだ?」

洗濯娘:「歌って何なの?」

ザンパノ:「今のやつさ。唄った歌だ」

洗濯娘:

「ああ、この歌?」

「♫ラ~ララララ~♫」

ザンパノ:「それだ」

洗濯娘:「ずっと昔、ここにいた娘が歌ってたの」

ザンパノ:「どれくらい前だ?」

洗濯娘:「ずっと昔よ。4年か5年前だわ。ラッパで吹いてたわ。それで覚えたのよ」

ザンパノ:「その娘は?」

洗濯娘:

「死んだわ、かわいそうに」

「あんたはサーカスの人ね。あの娘も旅回りの芸人だったわ」

「ここでは知り合いもなく、口数も少なかった」

「変わった子でね。ある夜、私の父があそこの海辺で見つけて、連れて帰ったの」

「熱が高かった。それで私たちの家へ。何も言わず、何も食べずに泣いてた」

「具合がいいと、日光浴してた。そしてラッパを吹いた」

「ある朝冷たくなっていたの」

「町長さんがあとの面倒を見てくれた。町長さんに聞けば分かるかも・・・」

 

ザンパノは心が動揺して黙って立ち去ります。

ザンパノの前に横たわる有刺鉄線がザンパノの罪を示すような茨のムチに見えてきます。



20.ザンパノの贖罪

 

サーカス会場ではザンパノの出番が始まりました。

 

司会:

「ザンパノに盛大な拍手を」

「鋼鉄の肺の男です」

「どうかご期待下さい」

「では音楽を」

 

ザンパノがうつむき加減で入場してきました。

年老いた体つきになったザンパノ。

 

ザンパノ:

「さて、皆さん!」

「太さ5ミリの鎖と大きなフックがあります」

「鋼鉄より硬い粗鉄製です」

「今から胸をふくらませて、つまり胸の筋肉だけで、このフックを壊します」

「この布は血が出た時の万一の用意です」

「血が出る時もあります」

「気の弱い人は見ないで下さい」

「フックが肉に食い込むことがあります」

「ご忠告しときます。どうぞ」

 

この口上は作品中に何度も繰り返されて出てきます。

ですが、その都度感じる意味合いが違うんですね。

同じ口上を言うことで、効果があります。

それは職業として「食べていかねばならない」ことを語っています。

そして「時の変遷」です。

口上は同じですが、場所、相棒そして老いの変遷がはっきり現れます。

悲しいほどに。

「タイム イズ グレート アーサー」(時は偉大な作家だ)

チャップリンの「ライムライト」でのセリフです。

そしてその繰り返しはリフレイン効果です。

音楽や詩は「流れ」を想起させるんですね。

物語に「普遍性」と「形式美」を観るものに植え付けます。

 

イルマットの歌「♫ ジェルソミーナ、ジェルソミーナ タリラリ♫」

ジェルソミーナのラッパ「♪ラ~ララララ~、ラ~ララララ~♪」

 

の繰り返しもリフレイン効果です。

出番を終えたザンパノは酒場で酒をあおり、荒れに荒れました。

そして男たちに突っかかり、喧嘩をします。

 

ザンパノ:

「友達などいらん。なんで逃げるんだ。誰もいなくても平気だ」

「俺はひとりで居たいんだ」

 

そこにはザンパノの意思はなく、気分のまま、荒波に弄ばれているようでした。

ザンパノに突然襲いかかってきたのは、空虚感ですね。

突風、寒さ、どうしようもない孤独感です。

これまでどこかでジェルソミーナが生きていると信じていたのだと思います。

なので今までザンパノは正気で生きてこられた。心は保たれていたんです。

ですが、ジェルソミーナはもうこの世にいないと知りました。

「後悔の念」

ただ、ただ、自分への「怒り」。

「淋しさ」が容赦なく襲いかかってくる。

ジェルソミーナを無くして「生きる意味」を知り、そしてその希望を無くしたと知った。

酔っ払ったザンパノはふらふらと海岸へ向かいます。

ジェルソミーナの故郷のような海岸です。

夜の海岸。黒い液体のような波が何度も何度もザンパノに押し寄せてきます。

ジェルソミーナがザンパノと生きていくと決めた、あの光が無数に反射し輝く海岸とは対照的なものでした。

あの時、ジェルソミーナはザンパノに言いました。

 

ジェルソミーナ:

「前には家に帰りたくてしかたがなかった」

「でも今ではどうでもよくなったわ」

「あんたといるところが私の家だわ」

 

ジェルソミーナが死んでいたという浜辺にザンパノは腰を下ろします。

そしてジェルソミーナを想い、夜空を見上げます。

「もう天国に行ってしまったんだな、俺を置いて...」

そんな言葉が聞こえてきそうです。

そして、自分はもうこの世では独りなのだと気付きます。

息遣いが荒くなり、周囲を見渡し、怯え、そしてザンパノは浜辺に泣き崩れました。

砂を掴んだその手に本当に掴みたかったものは、時という月日が消し去っていました。

カメラは大きく写した泣き崩れるザンパノから、徐々に引いていき、フレームには優しい小波と少し明るい月がザンパノを慰めるように入ってきました。

そして、ザンパノとジェルソミーナの物語は終わりました。

 


ツバキ


 

21.男女関係とは
 

凹凸という漢字があります。

凹+凸で▢

どんな能力、生活、境遇の人でも、その長所や短所は、ピースが会えばこのように綺麗にくっつくことができるんですね。

男女の関係というのは分からないものですね。

お互いに話さないでも心が通じている男女もいます。

ザンパノは旅芸人で出会いと別れが日常茶飯事。

情を持っても仕方がないのできっとドライなのでしょう。

ですが、人間だれしも「孤独」が付きまといます。

普段は日々の追われる生活や一時のコミュニケーションで紛らしているだけです。

ザンパノはそういった感情についてあまり考えたり、言葉にすることはなかったのでしょう。

毎日連れ添ったローザと死に別れて、助手がほしかったのと同時に、自身も淋しかったのだと思います。

ジェルソミーナを引き取った後も、行きずりの女性との関係は相手を変えて続きます。

もう、悪習慣になっているんですね。

ジェルソミーナに家出をされたり、イルマットと芸の練習をするのを見て、少しずつですが、淋しさや嫉妬が見えてきます。

淋しさは誰かと一緒の時は感じませんが、近くにいなくなると、出てくる感情ですね。

イルマットへの怒りの原因はこのことかもしれません。

そしてジェルソミーナへの暴言、暴力の原因は、自分のモノが意のままにならない苛立ちから、大事な人が離れて行ってしまう恐れからに変わっていっています。

一方のジェルソミーナ。

はじめは何とも思っていなかったザンパノ。

いつからか、ザンパノの役に立ちたいと思い始めるんですね。

ジェルソミーナは強制された雑用を自分の「役割」に変えていった。

役割を積極的にこなすことで「自己肯定」していったんですね。

最後には料理のできなかったジェルソミーナがザンパノの料理の味付けを整えることができるまで成長します。

ザンパノが惚れ聞くほどまでに、ラッパの演奏が上達します。

そして自分の存在を愛し始めます。

その温かさがザンパノにも影響し、しっかりとザンパノの支えになっていきました。

ジェルソミーナは純粋な娘です。

楽しい時はパントマイムで表現し、笑顔をみせ、悲しい時はつぶらな瞳が涙でキラキラしています。

淋しい時ははっきりと言動に出します。

そんなザンパノには皆無な感情表現に、彼女の豊かな心に、彼は惹かれていったのだと思います。

心理学者や精神科医は男女関係を「恋愛と依存」に分けます。

悲惨な境遇で過ごした人間のそれは「依存」であると両断します。

ですが、過去も今も将来も困難で辛いことの多い彼の人生に、自分の持ち合わせていない武器を持っている人に頼り切ることを誰が責めることができるでしょうか。

気持ちのままに、心の平穏を求めるその行為を悪いことだと本当に言い切れるでしょうか。

責任は二人だけで背負えばいいのだと思います。

二人で苦しみを分かち合い、受け入れればいいのだと思います。

他人に善悪を判断する権利はないと思います。





22.罪と贖罪

 

作品の解釈は人それぞれでいいと思います。

それが芸術作品の特徴であって、象徴的な理由だと思います。

ザンパノはどれほどひどい男なんだと言ってしまうくらいに罪を犯します。

「人身売買、強姦、暴言、暴力、窃盗、殺人未遂、殺人、遺棄」

ここまでザンパノに罪を犯させている所に、フェリーニ監督は彼に人間の業をシンボル化させています。

当然そこには神の存在が見えてきます。

ザンパノという罪だらけな孤独な男に対して、神はジェルソミーナという天使を遣わしました。

貧しい放浪生活の中に光を与えました。

そして、罪を犯していく人間から、神はジェルソミーナという安らぎを取り上げて、贖罪を求めます。懺悔を促します。

神は許しを与えて、また新たなジェルソミーナを違う形で遣わしてくれるでしょう。


オキザリス


 

23.人の存在意義

 

人は皆、神の子です。天使だと思います。

それは私の宗教観からではなく、思いつきからです。

人間が人との関係を断てないようになっているのは、あなたがご自身のことで感じる通りだと思います。

孤独の中では生きていけないようになっています。

コメントを下さった方で、「孤独な人は早死しやすい」と教えていただきました。

どうしたら人と関係を持つことができるのか。

それは相手の「役に立つ」ことです。

「役に立つ」ことで相手は受け入れてくれます。

私たちも相手に役に立ってもらえば、受け入れると思います。

相手の役に立つこと、それが相手にとっては救いとなり、「感謝」するようになります。

相手に「感謝」して、万物に「感謝」して、神様に「感謝」する。

感謝の対象。その人が天使でなくて、何なのでしょう。

役に立つということは、技術のみではありません。

技術のみで心が無ければ、感謝が持続しないからです。

役に立つの原型は「存在してくれること」です。

そばにいるだけで「感謝」が生まれる。

そんな単純なことができれば、相手は感謝してくれるのです。

「人の存在意義」はただ「生きている」ことなのです。

生きてさえいれば、どんな小石でも光を放つことができ、明かりを照らすことができ、誰かに気づいてもらえます。

あなたはこの作品でジェルソミーナにそのことを教えてもらったことでしょう。

悲劇的なエンディングではありますが、ジェルソミーナの命が消えたことで、それまで温かかった小石が際立ち、きらびやかなトランペットが奏でる美しい音色が存在したことをはっきりと私達に示したのだと思います。





24.さいごに

 

ここまでお読みくださって、本当にありがとうございます。

世界中の誰もが認める名作「道」を真に理解して、皆様に伝えることができるのか、正直不安でしたし、今もまだお伝えできたとは思いませんが、私の拙い人生を省みて今の記述が精一杯でした。

ですが、皆さんに何かしら感じていただけたとは思います。

ぜひとも、本作品を観ていただいて、私の感想を貴方独自のご経験から、塗り替えていってほしいと思います。

それでは、次の作品もよろしければお付き合いくださいませ。

ありがとうございました。




25.関連作品

 

『ライムライト』チャールズ・チャップリン監督

『フェリーニの道化師』フェデリコ・フェリーニ監督