例えば、ノリがつまんない冗談を言う。


悪いけど、オモシロくない。



笑うツボが違うらしい。



お笑いは、大好きだ。

でも「バカ殿」は、笑えない。


それを見て、大笑いするノリを軽蔑すらしてしまう。


「バカみたい。そんなんで笑って。」




例えば、車。


ノリは、道を知らない。

渋滞をイライラしながらでも並ぶ。

40年住んでる街なのに、裏道を使おうとしない。


アタシは、すごくイライラしてしまう。


「なんで、この時間にこの道行くの?」




例えば、友達。


ノリの友達に会う。

みんないい人。


でも、ノリ・・ちょっと浮いてる感じ。


「この空気、読めないの?」









きっと。


「大好き」のままであったなら、

何でもなく、

「バカ殿で大笑い」しようが、

「渋滞でイライラ」しようが、

「みんながちょっと引いて」いようが、

構わなかったのかも知れない。




「浮気したくせに」



ずっと、許せないままでいる。




「バカみたい。そんなんで笑って。」


「なんで、この時間にこの道行くの?」


「この空気、読めないの?」



こういう事を、平気で言ってしまう様になった。


機嫌悪くなるノリに、


「そんな事言わせるノリが悪いんだからね。」


と、また攻撃。







ノリの帰りが遅くなる。


「また女?」


と不安になり、連絡の電話にも冷たくなる。




自分でもわかっている。

こんな事したら、離れて行く事も。



でも、止められない。


素直になれない。




ひどい言葉。


軽蔑の言葉。




そんなんじゃ、浮気するのも当然だ。



でも。

「信じられなくしたのは、ノリだ。」


「アタシが、悪いんじゃない。」


と、自分を正当化するアタシがいる。




もう、加害者になっていたのかも知れない。







んー。

素直に「ギュッ!して」って言えたらよかったのかも知れない。

でも、ノリは言ったら絶対してくれる。

そう言うんじゃなくて、ノリからして欲しかった。


やっぱり、アタシは「自分大好きの自己中」なのかも。





平日。

2人で仕事を休んで、たくさん話をした。


素直に許すことは出来ないけど、

ノリの言葉を信じる事にした。


それでも好きだったから。




でも。

溝が出来る。


夫婦を、50・50を二人合わせて100にするとしたら。


アタシは、50までがんばれなくなった。


んー。40までしかがんばれない。

「信じる事」を手放しで出来なくなったから。

「信じる」は、がんばってするものじゃないから。


40までしかできないアタシと、

今まで通りの50までのノリと。


後の「10」が埋められない。


ノリに「後の10をノリが埋めてくれないと、100にはならないよ?」

の話をしても、ノリは「さっぱりわからない。」と言う。



ちゃんと、気持ちが伝わらない様だ。


「今まで通りじゃダメなんだよ?」


「何もなかった様になんて、出来ないよ?」


「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!!!」



グズグズ言うアタシに、最近のノリはあからさまにイナな顔をするようになった。




どんどん、溝が深くなる。




こんなはずじゃなかったのに・・・・。








数週間過ぎても、アタシは元に戻れない。


イライラしてばっかりだ。


ノリの、「別れたんだからもういいだろ。」の態度にイライラする。





しばらくしてからの会話。


空っぽの様な毎日の中で、

言わなくていい話を振ってしまう。


「なんで浮気したの?」


「・・・家に居場所がなかったから・・。」


「居場所?」


「だって、いつもお前疲れた・・って。」


「金ない。って言うし。」



「ちょっと待って?アタシのせいなの?」


「アタシが、居場所なくしてるから浮気するの?」



「・・・・・」






「で、なんでサキだったの?」



「なんか、あの子病気なんだって。」


「不治の病らしいよ。目の。お兄さんもそうなんだって。」


「子供に遺伝してるか、心配なんだって。」


「それで、相談受けた。

なんか、かわいそうになっちゃって。」



たぶん、内容はともかく、よくある浮気の始まりの話。




「てかさー。子供に遺伝してるって、ノリ聞いてもわかんないじゃん?

医者じゃないんだしさー。」


「しかも、かわいそうってさ、アタシはかわいそうじゃないの?」


「何の為に、毎日忙しくがんばって来たのかわかってるの?」



また、アタシは大きな声をあげる。

自分で振った話に、怒り出す。


何もなかった様な顔して、普通にご飯を食べるノリが

やっぱり許せない。





「悪かった。もう二度としないよ。」



こんな言葉聞きたくて、蒸し返してる訳じゃない。


本気の・・本当の事が聞きたいのに。


「ホントにごめん。」


が、伝わってこないんだ。


「ごめん。」

じゃなくてもいい。


ノリの本心が見えない。


「サキを好きだったけど、やっぱりお前にする。」


みたいな話の方が、すっきりするのに

なんで『繕う』んだろ?


だから、本気が伝わってこないんだ・・。



だから、アタシはまだ終われない。



ノリの気持ちが、わからない・・。





でも、ノリと別れる事は考えていなかった。


それでも好きだったから。





ホントはね。

「ごめん」

って言って、ギュッ!!って抱きしめてくれたら

許せちゃったかも知れないと、思う。


アタシは、淋しかった。

かまって欲しかった。


「えー?どうしたの?突然?」



毎日していた携帯チェックは、最近していない。


見てもヤナ思いするだけだし。

取り立てて『変化』もなかったし。

オートロックの暗証番号は、変えまくってるし。


急に

「別れたから。」

って、どうしたんだろ??



「なんかさ、サキが『お前に悪いし』だってさ。」


「え?アタシのせいなの?」


てか。

悪いって、悪いと思うなら最初から悪く思って欲しかった。




「そう言う訳じゃないと思うけど、イロイロ思ってさ。」


「そうなんだ。」


「ま。そう言うわけだから。」




どう言う訳だかわかんないけど。

そんな急に言われてもビックリだし。





なんか、ビックリだけど、ホッとしたのも事実。



ノリ・・。

帰って来てくれたんだ・・。



道中は、なんだか『フツウ』な感じだった。


吹っ切れた感じのノリと、安心したアタシと。







でも。

その後の生活の中で、

そんな簡単に忘れる事も出来なかった。

もちろん許す事なんて。





アタシは、元に戻れない・・・。






毎日のようにイライラしていたアタシは、

ちょっと気に入らないと喧嘩を仕掛ける。



ノリの携帯を持ってきては、サキに電話する。




「どう言うつもり?」






そんな事していたら、ノリが離れて行く事もわかっているのに。


嫌われて行くのもわかっているのに。


止められなかった・・。





それでも、ノリのバイトは続く。



ノリ、38歳。

ウェイターのバイトの子達は、大学生が主体。


カッコ悪くないのか?

何も感じないの?


「覚えが悪くて、大学生に笑われちゃったよ。」


「子供3人いる。って言ったら、大変ですね~。だってー。」


「飲み会誘われたから、言って来るよ。」


「年上だから、場違いだよなー。」




ノリ。

やめてよ。

もう聞きたくないよ。



そして、家に入れるお金・・。って言ってたのに、

くれるのは1万5円。


ノリのいない土日に子供の事・家の事・・

全部一人でしなきゃいけないのに、

悪いけど1万5千円じゃあ、

バイトなんて行かないで欲しい。

疲れた顔見たくないし。



でも、きっとお金じゃないんだよね。

サキとの時間作る口実なんだと思う。


それを

一生懸命『嘘』をつくから悲しくなるんだ。


「家の為に。」

「お前の為に。」


って・・・。




それから5ヶ月。


バイトの飲み会があるとの事で

車で送って言った時の事。


「別れたから。」



突然、ノリが言い出した。