クリスチャンの方なら、『比類なき真珠』という物語をよくご存知ではないでしょうか。


救われるのは自分の行いや努力によって得られるものだと信じていた頃の私は、どうしても「信じるだけで救われる」という教えが理解できませんでした。


でも、この『比類なき真珠』という物語が、「信じるだけで救われる」という意味を理解する助けになったことがあります。


この物語は、インド人のランバウという真珠取りのおじいさんと、キリストの福音を伝えるアメリカの宣教師の話なのですが、宣教師は2年間に、いろいろおじいさんの力になってあげました。


次第に宣教師に心を開くようになったおじいさんは、キリストの救いの福音をよく聞くようになり、本当の神様がおられること、神の御子イエス・キリスト様がおじいさんの罪のために死なれたこと、そしてイエス様が死後三日目に復活されたことはよく分かったのでした。


しかし、長い間ランバウおじいさんは、「一生懸命努力し、頑張ってこそ神様に認められ救われる」というイスラム教の教えを信じていたので、「イエス様を信じるだけで救われる」ということがどうしても理解できませんでした。



さて、ここからストーリーに入っていきます。



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


大きな水しぶきがあがった。

つづいて無数のさざ波がたち、それから波止場の水はまた静けさをとりもどした。


その低いインドの波止場に、ひとりのアメリカ人がうずくまっていた。

その目は深い水の底から、ぶくぶくとあわが上がってくる一点にじっとくぎづけにされていた。


間もなく真っ黒な頭が現れて、きらきら輝く二つの目が見上げた。


と見るまに年取ったインド人の真珠取りが、かすかな笑いを口元に浮かべ、あぶらぎったからだから水をふりちらしながら、波止場の上に這い上がってきた。


「たいしたもんだね、ランバウさん!こんな素晴らしいもぐり方を見せてもらうのは、全く初めてですよ。」

そこにいたアメリカ人の宣教師は叫んだ。


「ほら、見てください、先生。」ランバウはそう言うと、くわえていた大きなカキを取り出して見せた。


宣教師が受け取って、ナイフでこじ開けている間に、ランバウは腰布の中からも、いくつか小粒のカキを取り出した。


「これは素晴らしい、ランバウさん!ほら、すごい宝物だよ!」と宣教師は興奮して大声を上げた。


「ああ、確かに結構なものでしょうね。」と、ランバウは肩をすくめた。


「いや、全く素晴らしい、ランバウさんだって、こんないい物を見るのは初めてでしょう?申し分ないよ。ね、そうでしょう?」と、宣教師は何度も、その大きな真珠をひっくり返して見てから、ランバウさんに返した。


しかし、ランバウは「いや、とんでもない。もっといいやつだってあります…もっともっといいやつがね。わしだってひとつ持って…」と、終わりのほうは、聞き取れないような小さな声になって消えた。


そして、「こいつには、ほら、まずいところが、たくさんありますよ。ここの黒いしみ、ここのちょっとへこんだところ、形だって少しいびつだし。でも、まあまあと言えるでしょうがね。」とランバウはそう説明した。


宣教師は嘆息し「それじゃ、真珠にかわいそうですよ。これ以上に申し分のない真珠なんて考えられませんよ。」と答えた。


ランバウは「あなたは、いつも神様のお話の時、言ってるじゃないですか。人間は、自分ではみんな完全だと思っていても、神様の目には、ありのままの姿が映って、自分には気がつかない欠点も見えるものなんだって。それと同じです。」と言った。


「あなたの言うとおりです。そして神様は、その人間に、少しの欠点もない完全な義の衣を着せてくださるのですよ。素直に神様が無償で与えてくださる救いのたまものを信じさえすればね。わかるでしょう、ね。」と宣教師は答えた。


「いいえ、先生。何度も申し上げたとおりです。そんな安っぽすぎる話って考えられません。せっかくのあなたの良い教えも、そこのところにきて台無しになっちゃうんです。わしにはどうしても、『うん』と言えませんね。わしはたぶん高慢ちきなんでしょうが…でも、天国のすみかは、自分で苦しんで手に入れなきゃ気がすまないし、そうしなければ安心できないでしょうよ。」とランバルは言った。


「ああ、ランバウさん!それでは、決して天国には行けないんですよ。いいですか、天国に行く道はひとつしかないんですよ。

ねぇ、ランバウさん、あなたも、だんだん年を取ってゆくし、このシーズンが、あなたの真珠取りの最後のシーズンになるかもしれないんですよ。

もし、真珠をちりばめた天国の門を見たいと思うなら、神様が御子によって与えてくださった、新しい命を受け入れなければならないのですよ。」と、宣教師の話すことばには、ランバウじいさんのために祈り続けてきた長年の祈りがこめられていた。


「最後のシーズン!そのとおりです。あなたのおっしゃるとおりです。実はわしは今日限りで水にもぐるのをやめるんです。

最後と言えば、今月は、今年最後の月ですね。わしには準備しなければならないことがあるんです。来世のための準備をしなければならないんです。

わしが準備しようとしているのは、ほら、あそこに男の人が見えるでしょ、あれは巡礼です。きっとボンベイかカルカッタに行くんでしょうね。はだしで、できるだけとがった石の上を選んで歩くんです。

数十メートル歩くたびに、ひざまずいて道に口づけしています。

いいことですね。新年のがんたんから、わしも巡礼を始めるんです。この計画は、わしの生涯の計画です。

今年こそは、必ず天国にいけるということをはっきりさせなきゃならないんです。

デリーまでひざで歩いて行こうと思うんですよ。」とランバウは話した。


「なんですって、そんなばかな!デリーまでは九百マイルもあるんですよ。ひざの皮膚が破れてしまって、ボンベイに着かないうちに、敗血症か、感染して病気になってしまいますよ。」と宣教師は言った。


「いいえ、デリーまで行かなきゃならないんです。死ななくなるんです。苦しんで天国が買えるのなら、苦しいことだって平気です。」とランバウは答えた。


「ランバウさん!それはだめです!あなたに天国を買ってあげるためにイエス・キリストが死なれたんです。それなのに、どうしてそんなことをさせられるでしょう!」


しかし、この年よりは、がんとして動かなかった。


「先生、あなたはわしの一番の友達ですだ。長い事、いつもわしの味方になって下すった。病気の時、困った時、あなたにだけしか友達になってもらえなかったこともありました。でも、そのあなたでも、この大きなわしの願いを取り上げなさることはできないんです。

永遠に幸せになりたいという願いをね。

デリーにはどうしても行かなきゃならないんです。」


無駄だった、この真珠取りには理解できなかった。

代価を払わないでも与えられるキリストの救いを、受け入れることはできなかった。


ある日の午後、ドアにノックの音がするので開いてみると、ランバウが立っていた。


「やあ、よく来ましたね!さあ、どうぞ、ランバウさん」と宣教師が部屋の中に招くと、「いいえ、ちょっとわしのうちまで来ていただきたいんです、先生。お見せしたいものがありますだ。いやと言わないで下さいね。」とランバウは言った。


宣教師の心は踊った。たぶん、ついに神は祈りにこたえようとされているのだろう…と。


「もちろん、行きますよ」


それから十分後、ふたりがランバウのうちに近づいた時、ランバウは言った。


「明日から一週間そこそこで、デリーに出かけるんですよ。」


宣教師の心は沈んだ。


うちに入ると、宣教師は特別に自分のためにランバウが作ってくれたイスに落ち着いた。


このイスに腰掛けて彼は、この真珠取りのために、何度となく天国に至る神の道を説いてきたのだ。

ランバウは部屋を出て行くと、すぐに小さいけれど重みのある、英国製の金庫を持って戻ってきた。


「この箱は、だいぶ前からとっといたんです。中にしまっておくものは、たったひとつしかないけれどね。これから、この中味のことで聞いていただこうと思うんです。

先生、わしには、息子がひとりあったんです。」とランバウは話した。


「なんですって!息子ですって?今までひとことだって、そんなこと言わなかったじゃないですか。」


「はい、先生。言えなかったんです。」そう言いながらも、真珠取りの目はうるんだ。


「でも今は、お話しなければなりません。じきに行ってしまって、また帰ってこられるかどうかも分からないんですからね。

息子もやはり真珠取りでした。インドの海岸沿いの仲間の中では、第一の真珠取りでした。

すばしっこいもぐり方といい、鋭い目といい、強い腕っぷしといい、よく息が続くことといい、いやしくも真珠取りの仲間の中で息子にかなうものはひとりだってありませんでした。


どんなにわしを喜ばせてくれたことか!いつだって、まだ、だれも見たこともないような真珠を見つけようとして夢中でした。


ある日、そいつを見つけました。

でも、見つけた時は、あんまり長く水にもぐりすぎていたんです。

そのためそれからすぐに死んでしまいました。」


老真珠取りはうなだれ、瞬間、全身が震えた。


しかし、こそという音もたてなかった。


「それからずと、その真珠をとっておきました。でも、わしはこれから旅に出かけて、もう帰ってこないんですから、この真珠をわしの一番の友達の先生にもらってもらおうと思うんです。」


老人は金庫のかぎをあけて、ていねいに包装した包みを取り出した。

そっと、木綿の布を開くと、とてつもなく大きい真珠をつまみ上げて、宣教師の手にのせた。


それは今までインドの海岸近くで見つけられた真珠の中でも最も大きな部類に属するものだった。

養殖真珠などには決して見られないような、つややかさと、まばゆいばかりの光に輝いていた。

どの市場に出しても法外な値段のつくしろものだった。


一瞬、宣教師は声をのんで、驚きの目をみはった。


「ランバウさん!何という真珠でしょう!」


「そうでしょ、こいつこそ本当に申し分のないものですよ、先生。」インド人は静かに答えた。


ある新しい考えがひらめいて、宣教師はすばやく顔をおこした。


「ランバウさん、これは素晴らしい真珠ですよ。驚くべき真珠ですよ。お金を払わせてください。一万ドルで買いましょう。」


「先生!何ですって?」


「じゃあ、一万五千ドルでどうですか?それでもまだ不足なら、あとは働いて埋め合わせしましょう。」


「先生。」


全身を硬直させながら、ランバウは言った。


「お金なんかで売れませんよ。どんなにお金を積まれたって、いやです。

わしにはかけがえのないものです。お金にはかえられません。

市場で百万ドルの値がついても手放せはしません。

あなたにお売りするんじゃないんです。贈り物として、どうぞ受け取って下さい。」


「いいえ、ランバウさん、私には受け取れませんよ。私は欲しい真珠をそんなふうにして手に入れたくないんですよ。たぶん、私は高慢ちきなんだろうけれども、そんなじゃ安っぽすぎますよ。支払わなければなりません。それを手に入れるために働かなければなりません。」


それを聞いて老人はあっけにとられた。


「先生、少しもわかって頂けないんですね。わしの一人息子が、この真珠を取るために死んだんですよ。

だから、どんなにお金を積まれたって売りたくないんです。

この真珠には、わしの息子のいのちがかかっているんです。売ることはできません。差し上げることしかできません。

どうぞわしの愛のしるしとして受け取って下さい。」



宣教師は息をのんで、一瞬ことばが出なかった。

それから老人の手をつかんだ。


「ランバウさん。」


低い声で宣教師は言った。


「分かりましたか?わたしが今言ってたことは、そっくりそのまま、あなたが神様に向かって言っていたことなんですよ。」


真珠取りは、探るように長い間、宣教師の顔をみつめていた。

それから、ごくゆっくりと、しだいにわかってきた。


宣教師は続けた。

「神様は、何かとひきかえに救いを下さるんじゃないんですよ。その救いは非常に大きなもので、値段は付けられないものなんです。

だから、この地上の人間には、誰にだって買えるものじゃないんです。何百万ドル積んでも、とても足りるものじゃありません。何百万年生きて働いたって、それで手に入ることができるものじゃありません。

それに値するような善人がいるわけでもありません。


神様はそのために、ひとりの子のいのちをおかけになったのです。

その血をお流しになったのです。


天国の入口を、あなたのために備えるためにね。


何百万年かかって、何百回、巡礼をくり返したって、その入口はあなたのものにはなりません。


ただ、罪人のあなたのために、神様の下さった愛のしるしとしてお受けすることができるだけなんです。


ランバウさん、もちろん、この真珠は、本当にもったいないと思って、ありがたくいただきますよ。あなたの愛を受けるのに、ふさわしいものであるように、神様にお祈りしながらね。


ランバウさん、あなたも、神様が下さる、大きな、天国というたまものをお受けしませんか?

あなたにそれを下さるためには、神様はひとり子の死も惜しまれなかったということが、わかったのなら、ほんとうにもったいないと思ってね。」



大粒の涙が、老人のほおを流れた。

深い霧が、しだいに晴れていった。

ついに彼は理解した。


「先生、やっとわかりました。この二年間、わしにはイエス様の教えは納得がゆきましたが、その救いがただで与えられるということだけは、どうしても信じられませんでした。

やっとわかりました。お金でも買えない、働いても手に入れられない、それほどに尊いものもあるんですね。

先生、イエス様の救いをお受けします。」



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*



「私たちがまだ弱かったとき、キリストは定められた時に、不敬虔な者のために死んでくださいました。正しい人のためにでも死ぬ人はほとんどありません。情け深い人のためには、進んで死ぬ人があるいはいるでしょう。しかし、私たちがまだ罪人であったとき、キリストが私たちのために死んでくださったことにより、神は私たちに対するご自身の愛を明らかにしておられます。」ローマ人への手紙5:6-8


「ですから、兄弟たち。あなたがたに罪の赦しが宣べられているのはこの方によるということを、よく知っておいてください。モーセの律法によっては解放されることのできなかったすべての点について、信じる者はみな、この方によって解放されるのです。」使徒の働き13:38-39


「そのあかしとは、神が私たちに永遠のいのちを与えられたということ、そしてこのいのちが御子のうちにあるということです。御子を持つ者はいのちを持っており、神の御子を持たない者はいのちを持っていません。私が神の御子の名を信じているあなたがたに対してこれらのことを書いたのは、あなたがたが永遠のいのちを持っていることを、あなたがたによくわからせるためです。」ヨハネの手紙 第一 5:11-13



神様、あなたは真実なお方です。

感謝します。


アーメン。