語り部アロマが紡ぐ
「輝きの姫 第129光」聞いていかれませんか。
テイト国 神殿近くのカフェ
カラーーン
ユチョンが、カフェのドアを開けると、ドアについている鐘が音を立てました。
「ようこそ。椅子におかけください。
まだパンは焼きあがっていないけど、今日は蜜香紅茶の葉が手に入ったからすぐ入れますね」
キッチンから優しい声が聞こえてきます。
ユチョンは、部屋の中を見渡して、窓の方を向いている椅子を選んで腰かけました。
数分後、ガラスのカップに透き通ったコハク色のお茶が注がれテーブルに運ばれてきました。東からの陽の光がユチョンに当たり、背後からはシルエットしか分かりません。
「どうぞ。
蜜香紅茶は、ウンカという虫が葉を噛み、その酵素によって甘味を感じさせてくれる紅茶です」
コトンと出窓のスペースに置かれます。
ユチョンは少し冷めるのを待ってから、カップに口をつけました。
「あまい」
「でしょ。蜜を入れているみたいでしょう。でも何も入れていないんですよ。自然が作り出した優しい甘さです」
ジョンウが自分のカップを持って隣の椅子に掛けました。
「何かあったんですか?」
しばしの沈黙の後、ユチョンは話し始めます。
「バカな男の話を聞いてくれるか。ジョンウ」
ジョンウはその時初めて男の顔を見ます。
「ユチョンか・・・!ユチョン、無事だったんだな。ああ、なんか可愛かったのにカッコよくなって、ますますいい男だな」
「ジョンウはおしゃべりになったな。昔は無口だったのに」
「ああ、そうだ。その通りだ。
ユチョンが意地悪をされていた時も、笑顔が無くなった時も、ホントは心配で声を掛けたかったのに、かけられなかった。私に勇気がなくて。
母親の再婚を祝えないほどココロが硬くなってしまうまで追い詰められていたのに。
ユチョン。ごめん。話しかけられなくて。
話を聞いてあげられなくてごめん」
頭を下げるジョンウ。
「なんでジョンウが謝るんだよ。俺が勝手に・・・」
ユチョンの声が詰まり、涙がこぼれます。
「なんで・・・」
丸まったユチョンの背中を、ジョンウの手がそっとさすります。
「辛かったよな。妬む奴は多かったから。
よく我慢したな。ユチョン」
「~~~っ」
頷いたり、首を振ったり、ひとしきり涙を流したユチョンでした。
「・・・・・。涙って不思議だな。泣いたのに・・・なんかスッキリした」
「誰にも言わないで抱えちゃうと、ココロのなかで不満はどんどん大きく膨らんじゃうから。泣いたり話したりして、ちょこちょこ外に出した方がいいんだ。
あの時のユチョンにしてあげられなかったから、
今、私はここでいろんな人の話し相手をしているんだ」
「そうか。・・・その、ジョンウは愚痴を聞いてて辛くないのか?」
「うん。そういう時もある。
けどね、壁を乗り越えられたよって報告に来てくれる時もあるんだ。
何年も経ってから『あのときのお礼に』って珍しい茶葉をもらったりとか。
このお茶もそうなんだ」
ティーカップを掲げてウインクするジョンウ。
「なるほど。おいしいわけだ」
「うん」
蜜香紅茶を飲み干し、ユチョンは立ち上がります。
「逢えてうれしかった。ジョンウ。ありがとう。
ああ、ここに来るように勧めてくれたジュンスにもお礼を言わなきゃ」
「ジュンス!彼が引き合わせてくれたんだ。そうか。
ユチョン。私からもありがとうと伝えてください。12年振りに胸のつかえが取れましたと」
ユチョンはフニャっと笑います。
「わかった。じゃあ、またお茶しにくるよ」
「はい。いつでも」
晴れやかに微笑むジョンウでした。
続く