ようこそ
語り部アロマの紡ぐ「ルネサンス幻影」第14場scene1
聞いていかれませんか。
ヴェネツィア旅行から3ヶ月過ぎ冬の寒さが感じられる頃、フィレンツェのヴィスコンティ家では、召使いたちが客間のひとつを模様替えしています。
ヴィスコンティ夫人が指示します。
「ベッドは片付けて、長椅子や、ゆったり座れるソファーをいくつか配置して。それは中央に置くの。注文から3ヶ月、やっと今日届いたのよ。あの子の喜ぶ顔が目に浮かぶわ。あとは、ライティングデスクと本棚があればいいから。こんな感じかしら?あなた」
「うむ、いいんじゃないか。3ヶ月かかったが、これでも先方に無理を言って早めてもらったのだぞ。
ああ、そろそろユノ達が帰ってくる時間だな。待ち遠しいな」
そのころ、市街に出掛けていたユノとジェジュン。
「ねえ、ユノ。あの市場楽しかったね。果物やお花、古い家具や食器。いろんなものがいっぱいあって見ていておもしろかった」
「欲しいものがあれば買ってあげるっていったのに、なにも欲しがらないのだから。ジェジュンは」
「うん。買わなくても困らないから。
欲しいものが、あるにはあるけど僕にはとても・・・」
次の言葉を口に出さず、遠くを見つめるジェジュン。
ユノはくすっと笑って、時計台を見上げます。
「よしっ、もういいだろう。帰ろう!ジェジュン。我が家へ!」
わくわくして飛び切り可愛い顔をしたユノがジェジュンを急かします。
「うん。・・ユノ?なんか様子が変だよ?」
意気揚々と戸惑うジェジュンの手をしっかり繋ぎ、ユノは家路を急ぎました。
ヴィスコンティ家に着くとある部屋に連れて行かれました。
「ここ客間だよ。お客様がおいでなの?」
ユノがドアを開けジェジュンを部屋の中に引き入れます。
「あ・・・。これ。チェンバロ」
部屋の中央に置かれたチェンバロをそっと撫でるジェジュン。
「ピカピカだ。ユチョンのよりすこし大きいかな・・。すごく綺麗」
「気に入った?これはジェジュンのものよ。この部屋も貴方が自由に使っていいわ」
ヴィスコンティ夫人が嬉しそうに話します。
「あ、あの・・。ユノ知ってたの?僕がチェンバロを欲しいこと。僕、言ってないよね」
「ああ、聞いてない。ジェジュンが欲しいものでもあるだろうが、俺たちがジェジュンに弾いて歌って欲しくて用意したんだ。
劇のときみたいにまた歌ってよ。ジェジュン」
「あ、ありがとう。僕、これがすごく欲しかったの。歌を歌いたくて・・。嬉しい」
頬を染め、きらきらした瞳で感謝するジェジュンの笑顔は、みんなが期待した以上に綺麗でした。
次へ続く。