ある日の朝。
薬局の調剤室で仕事をしていたら、受付の方から、ろれつの回っていないおじさんの声が聞こえてきました。
事務さんが道案内をしていたので、どうもこのおじさんは道を聞くために薬局に来たのだとわかりました。
(患者さんではありません。)

おじさんは酔っ払いみたいな喋り方だったので、何を言ってるのかがよくわかりません。
その上、ぞんざいな物の言い方だったので、なんか嫌な感じがしました。
それでも事務さんは、このおじさんの言っていることを聞き取り、親切に接してあげていたので、とても感心しました。
だから、おじさんもすんなり薬局を出て行くだろうと思ったのです。
でも、だんだん雲行きが怪しくなっていきました。

おじさん 
「ま、ま、真っ直ぐに、い、い、行けば、い、い、いいんだね!」

事務さん 
「その道の右手側を歩いて真っ直ぐに行き、レストランが見えたら、右に曲がって下さいね」 

なぜかこのやりとりが全く同じセリフで、実に3回も繰り返されたのです。
ついにおじさんは激昂して、

「ま、ま、真っ直ぐ、い、い、行って、れ、れ、レストランで、み、み、右だろ‼️も、も、物事は、は、は、ハッキリ、い、い、言いなさいよ。あ、あ、あんたもや、や、薬局につ、つ、勤めているなら、は、は、ハッキリい、い、言えるだろうがっ‼️」

と、ろれつが回らないながらも事務さんに怒鳴り散らし、更に「物事はハッキリ言いなさいよ」というセリフを何度も何度も繰り返して言いました。

薬局内は緊張が走り、私もドキドキしましたが、一方で何となくおかしくて仕方がありません。
「物事をハッキリ言いなさいよ」
というセリフをハッキリ言えていないこのおじさん自身が言うなんて...、まるでコントです。

『人は自分に当てはまることを他人に言うものなのね』
と思い、コースに書かれている投影を思い出しました。

ということは、既にこの話はおじさんの話ではなく、自分についての話ということになるっ!?
なので、聖霊に
『今起きていることはどういうことなのか、私にわかるように教えて下さい』
と心の中で言いました。

世界や兄弟に見ているものは、自分についての見たくないものだったりします。
この世界は投影なので、ここで起きていることは全部自分に当てはまるのです。

私はこのおじさんに対して、
『そのセリフを他人に言う前にまず自分に言いなさいよ』
と思いましたが、まさに私がおじさんにこう思ったこと自体を、まず自分自身に言うべきでした。
兄弟に言う前にまず自分に言おう。

聖霊を思い出し、聖霊と共に世界を見直すと、確かに兄弟を批判したり、非難したり、裁くなんてことは、できそうにありません。
それは天に唾するようなもので、もれなく全部自分に返ってきます。

このおじさんの態度は、いわゆる愛を求める懇請だったのだと思い直しました。
(同時に私の愛を求める懇請でもあります。)

その後、おじさんは怒りながら出て行きましたが、薬局ではこのおじさんについて誰も何も言わず、ただ静かに自分たちの仕事を淡々とこなしていました。
まさに何も起きていなかったかのように、平和な雰囲気に包まれていました。

このことがあってから、何となく世界や兄弟がより一層親切に感じられるようになりました。

***

それから数日経って。
夕方、自宅マンションの資源ゴミ置き場に、段ボールや衣類などを持って行った時のことです。
雨が降っていたけれど、両手が荷物でふさがっていたし、大した距離でもなかったので、傘を持たずに行きました。
資源ゴミ置き場はマンション駐車場の一角にあるプレハブ小屋です。
私がその中でゴミの分別をしているうちに雨が一段と激しく降り出しました。
私がプレハブ小屋から出たところでちょうど、仕事帰りであろう30代前半の女性と目が合いました。
その女性は私を前から知っているみたいに親しみのある雰囲気で、
「入ります?」
と言いながら、自分の傘を私に差し出して、私を傘の中に入れてくれました。
「ありがとうございます!」
と私も遠慮なくその傘に入れてもらい、わずか5m、時間にして数秒、見ず知らずの彼女と一緒の傘にいました。
何て親切なんでしょう!
コロナ禍以来、ソーシャルディスタンスなどと言われているさなかに、リラックマが描かれている上下スエット姿のおばさん(私)を自分の傘に入れてあげる人がいるなんて、まさに奇跡です!
(コースで言う奇跡と違うかな!?)
こんな素敵な人が同じマンションに住んでいると思ったら、泣きたくなるほど嬉しかったです。
聖霊、兄弟、本当にありがとう。


T 14.Ⅲ.5:1-4
奇跡は、あなたが無罪感と自由と喜びを選択したことをあなたに教える。 それは原因ではなく、結果である。 
それは正しく選択したことの自然な成果であり、罪悪から自由になるという選択から生じるあなたの幸福を証ししている。 
あなたが癒しを差し出す相手はみなそれを返してくれる。

—『奇跡講座 上巻』
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