そんなこともあったっけ……。
モクモクとブロッコリーが茹で上がる湯気がキッチンに広がっている。
家族のために夕食の準備をしながら、
明香里はふと子どもの頃のことを思い出していた。
明香里にとって子どもの頃の記憶というのはあまり良いものではなかった。
できれば頑丈な箱の中にしまって記憶の片隅に追いやってしまいたいようなことを時々思い出して、ため息をつくことも多く、その度に毎度“その頃の自分”というのを解放する必要があった。
……。
今さら誰にも向けられない怒りと対峙するのは、そんなことができるのかと思うくらい簡単ではなく、
一つ一つのカサブタになった傷口に、
わざわざ改めて塩を塗りなおすような必要があるのかと疑問を抱きながら、長年背負い続けている荷物がスッカリと下ろせる瞬間を待っていた。
つづく