アーム社のイノベーション戦略を御紹介しましょう。
○2011年9月14日(水)アーム西嶋社長
司会 PCは、元々は「計算機」だった。2000年頃に「メディア」となり、今はネットワークサービスのインターフェースとなった。現在、携帯vsPCの最終戦争になっている。つまり、アームvsインテルということ。前回インテル副社長の話を聞いた。今回はアーム。
西嶋 アームはインテルとはバッティングしない。むしろ、重要なパートナーである。営業利益率は我々が45%で、インテルは32%。イノベーションの面では10年先を考えている企業が勝つ。アームは顧客側のイノベーションに依存する。250社のチップメーカーにライセンスしている。彼らは1000社以上の企業にOEMしている。
アームは日本では知名度は低い。英国でも同様で、ヒースローの入国審査官も自国の会社と認識していなかった。携帯電話では、アーム搭載チップが通常で2個、スマホで3~4個、iPODで1個入っている。また、デジカメ・プリンタで1個、カムコーダで2個入っている。会場のみなさんも知らないうちに平均5個は使っていただいている。御礼申し上げたい(笑)。
大手の半導体メーカーでアームがライセンスしていないところはない。非アームの携帯電話はない(アナログ時代はあった)。ルネサス、クアルコム、TI、STマイクロなどがチップ化して、ノキアやモトローラに売っている。
従業員は2000人。創業は90年で、たった12人だった。低消費電力のマイクロプロセッサのアイデアで立ち上げた。アームの名前はAdvanced RISC (Reduced Instruction Set Computer) Machineから来ている。RISCマイクロプロセッサの開発は20年前に流行していて、ほとんどの会社は性能競争に走った。アームだけは省電力型を狙った。そして、「学校向け低価格PC」を目指していた。これはマーケットも大きくないし、ビジネスも大きくないと思われていた。シリコンバレーだったら競争・競争だっただろうが、ケンブリッジという田舎の森の中では、こうした低消費電力という目標にじっくり取り組めた。
アームがライセンスビジネスにしたのは、半導体まで作るお金がなかったから。半導体では、ワンロット数十万個で、ロジスティクスや在庫も必要となると膨大なお金が要る。90年当時、こういうビジネススタイルはなかったし、誰も上手くいくはずがないと世間は思っていた。創業者の中からも何人も辞めていった。ケンブリッジというシリコンバレーのような喧噪とは無縁な静かな場所だったので、低消費電力チップの設計・ライセンスビジネスに対して、揺るぎない信念の下で、10~20年も取り組むことができた。
シリコンバレーは性能競争中心で、低消費電力チップには顧客がいなかった。日本くらい。そのうち、アップル等のPDAが顧客となった。しかし、結果的にPDAマーケットは大きくはならなかった。今でも残っているマイクロプロセッサフォーラムでは、トランジスタ数やクロックスピードという性能競争が主流だった。結局、1992年以降、みんな止めていった。今では、インテルとアームのみが残っている。携帯電話の電池は、当初、米では電波を強くしないといけなかったので、半日しかもたなかった。日本では1日程度だった。そこで、低消費電力チップが13億台もの携帯電話の差別化要因となった。アームのみが10年の経験があり、真に差別化されており、このアドバンテージに他社は追いつけなかった。時間こそが最大の競争力である。優秀な人は各国にいる。しかし、みんな同じ方向(性能競争)に向けて全速力で走っていたのに、突然、逆方向(低消費電力)に走れと言われても追いつけない。
アームのビジネスモデルは、アームが250社のチップメーカーにライセンスし、250社がアプリメーカーに供給する。チップの設計費用は100億円程度で、幾つか作るとして、250社で割ると、数億円で済む。ユーザーであるチップメーカーとしてはR&D費用を節減できる。今日では、MPUの方に大きな差別化要因はない。フォンノイマン型コンピュータが登場して、何十というアーキテクチャがあったが、消えて行き、他の要因、つまり、「低消費電力」や「エコシステム」が決め手となるようになった。アーキテクチャ上で差別化できないなら、5億円でアームからライセンスを買った方が良いということ。ライセンス料は、1~2%の小金で、チップ1個当たりにすると5~10円。アームはライセンス料で半分、ロイヤリティ(生産量に比例)で半分稼ぐスタイル。お客様が成功しないと、アームも儲からない。売って終わりではなく、死活問題を共有するパートナーである。したがって、「共生」「共存」の「エコシステム」となる。
分業・専業という論点では、効率化の歴史は分業の歴史だった。高集積化が進んだので、IPライセンスビジネスが誕生した。技術の変化がビジネスの変化をもたらした。クラウドも光ファイバーができたから登場してきた。「エコシステム」とは、「量の差別化」である。「互換」の場合、実はバグも互換であり、バグまで真似しないといけない。IBMシステム360の場合もそうだった。「プロセッサ、ソフトなければただの石」と言われる。AMDが生き残ることができたのは、インテル互換チップだからであり、インテルが創出した膨大なソフト資産に依存している。アームを使えば、これはIPなので、最初からどこでも「互換」となる。ディジタル化でソフトの量が著しく増大した。逆説的だが、ソフトは作ってはいけない。新規ソフトは、できるだけ避けるべきである。なぜなら、新たに作ると必ず新たなバグが生じる。だから、新規ソフトを作らずに、同じソフト、同じプロセッサを使いまわすようになる。だからこそ「互換」。量の面では、チップメーカーとしては、10億個売らないと採算に合わない。ボリュームが極めて大切になる。6月に台湾でOEMをする。これからは、アーム上でウインドウズ8が動く。アームの技術を、みんなが使ってくれる。だから我々としてはユーザー頑張れとなる。2010年で61億個。2020年には累計1500億個を目指している。開発費を個数で割るので、1億個や10億個では割に合わなくなる。だから、61億個で割るアームが使われる。
これからは様々なものがつながる時代になる。くつも医療も。
サーバーでも低消費電力は大切。電気の制約がある。だから、低消費電力型マイクロプロセッサが使われる。半導体製品はスケーラブルで、同じソフトが使える。
アームのことをBBCが紹介してくれた。タイトルは「英のものづくりは没落?」というものだった。フロントランナーは、早く走りぬけようとしても、必ず後進国にキャッチアップされる。イノベーティブでないと生き残れない。