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ニッケル争奪戦と“天国にいちばん近い島”ニューカレドニアの悲劇
2008年5月27日 火曜日 谷口 正次
ニューカレドニアは南太平洋に浮かぶ島。日本人観光客の人気リゾートである。その東側に位置するウベアという島を舞台にした『天国にいちばん近い島』という小説(森村桂、1966年、角川書店)がベストセラーになり映画化もされてすっかり有名になった。
このニューカレドニアの本島は細長い島で、その形が鯨に似ているので先住民たち
の間には先祖が鯨であったという伝説が残っている。フランスの統治国でメラネシ
ア系の先住民が約40%を占める。島を取り囲む珊瑚礁は、オーストラリアのグレー
トバリアリーフに次ぐ世界第2位の海洋生態系に恵まれていると言われていた。
ところが、このニューカレドニアには豊富なニッケル鉱が産するため、150年前か
らフランスの植民地の主要産業としてニッケルの採掘が続けられ、現在までずっと
世界に輸出されてきた。
その結果、陸地と周辺の珊瑚礁の生物多様性とその生態系は、ニッケル採掘の影響
で大きなダメージを受けている。今でも全島19カ所にわたって鉱山が分布する。
日本は、2000年までニッケル鉱石の約50%をニューカレドニアから輸入していた
が、フランスからの独立志向が強い先住民労働者のストライキの頻発などから、出
荷の安定性を欠き、2001年以降25%以下に急減してその分インドネシアに振り替わ
り、インドネシア産が50%を占めるに至った。
しかし、中国の高度経済成長に伴ってステンレスやバッテリーに使われるニッケル
需要が大幅に伸びたため、もともと世界第4位の埋蔵量と生産量をほこるニューカ
レドニアのこと、生産量では世界第2位のカナダの資源メジャー、インコが2004年
から南部で世界最大規模のニッケル鉱山開発を始めた。年間500万トンの鉱石を採
掘し、湿式精錬という方法で6万トンの酸化ニッケルと4000トンの炭酸コバルトを
抽出する計画である。
開発はこれまで、数少ない自然破壊を免れてきた地域で行われている。ニッケル鉱
石は、もとの岩石が地質学的長年月をかけてラテライトとよばれる赤土状に風化し
た表層下部に濃縮しているため、地表から20メートル程度の部分を頭の皮を剥ぐよ
うにして採掘が行われる。
その結果、広範にわたる地表の自然破壊だけでなく雨が降ると赤泥が川を通じて海
に流れ出し、海洋生態系を破壊するわけだ。インコが開発を行っている地域は特に
豊かな原生林に覆われ、90%以上と言われる固有種の植物や花の特別保護区が設定
されているばかりか、鉱山の廃水を海底から放流するパイプの放出口近くにはラ
グーンと呼ばれる海洋生態系特別保護区が設定されている。
この鉱山開発に今も反対運動を続けている地域の先住民のリーダー、ラファエ
ル・マプー氏は、「太古の祖先から受け継いできた豊かな森林とラグーンをこのよ
うに破壊されるくらいなら死んだ方がましだ」と訴えている。
反対派の先住民組織はリブ・ヌー(Rheebu Nuu)と名乗り、“先祖の眼”という意味
である。それは、鉱山開発が行われているゴロー地区が、伝説で鯨だった先祖の眼
に相当するところに位置することから名付けられた。強い反対運動によって開発工
事は大幅に遅延しているが、本年度中には生産開始見込みとなっている。
リブ・ヌーは、2006年4月初めに暴動を起こして、重機械類を破壊し工事は約1カ月
ストップした。そのためフランス本国から派遣された軍隊が工事現場に常駐してい
る。彼らはニューカレドニア行政裁判所に工事中止を訴え、その結果2006年6月操
業ライセンスが取り消されたが、不思議なことに建設ライセンスが残っているとい
う理由で工事は続行された。
そこで今度はフランスのパリの大審裁判所(Tribunal de Grande Instance de
Paris)に訴え、2006年11月21日、精錬によって発生するテーリングとよばれる廃
棄物の堆積場の工事差し止め仮処分決定がなされた。そして48時間以内の工事中止
と、中止しない場合1日に付き3万ユーロの罰金が申し渡された。
しかし、工事は継続されたばかりか、会社側の口頭弁論によって2007年2月2日には
仮処分が撤回された。その後、テーリングの堆積場で発生する廃水をパイプライン
で海岸から5キロメートル離れた海底から放流するパイプの敷設工事の妨害を行っ
ている。
陸上のルートには、にわかづくりの家を建てると会社側はルートを変更して工事を
強行し、現在は海底の一部敷設の段階まできた。リブ・ヌーたちは漁船を仕立てパ
イプの撤去を求めている。そして先住民たちが、先祖から受け継いだ聖なる場所を
表すトーテムポールを数箇所に立てて抵抗のシンボルとしている。
この鉱山開発は、当初カナダのインコが行っていたが、同社は2006年10月、ブラジ
ルの鉱山会社で世界一の鉄鉱石生産量を誇るCVRD(Vale)社に約2兆円のキャッシュ
で買収された。このほか、2005年から2006年にかけて資源メジャーたちが入り乱れ
て演じたニッケル鉱山会社買収劇は激しいものであった。
買収を争った企業は、CVRD(ブラジル)、フリーポート・マクモラン(米)、BHP
ビリトン(英・豪)、エクストラータ(スイス)、テック・コミンコ(加)に対し
て被買収側の企業は、インコ(加)、ファルコンブリッジ(加)、そして
WMC(豪)であった。
ファルコンブリッジはエクストラータに1兆9500 億円で、WMC社はBHPビリトンに
8700億円で買収された。
このような争奪戦の最中、ニッケルの国際価格は急騰し、一時1トン当たり5万5000
円に達し、ロンドン金属取引所の指定在庫は世界の消費量の2日分を切ってパニッ
ク状態になり日本は国家備蓄を3度にわたって放出した。現在は2万8000~2万9000
円の高値で落ち着いているが、2001年の安値時期には5000円レベルであった。日本
ではステンレス製のお墓の花立てまで盗まれた。
ニューカレドニアに限らず、世界の資源豊富な発展途上国の自然破壊の進行と先住
民の抵抗そして資源ナショナリズムの台頭など資源供給側の不安定要因がますます
大きくなってきている。
それは中国がエンジンとなっている需要の大幅増加によるところが大きく、スカイ
ロケッティングと表現されるような価格急騰を招いている。