暗い日曜日
シャンソンの哀しい調べに誘われるように、人々は自らの命を絶っていく…。
1930年代、名曲「暗い日曜日」を聴きながら自殺する者が続出、
世界各国で発禁処分となったという実話を基に、男女の愛の形を浮き彫りにする。
メディアファクトリー暗い日曜日
ハンガリーのブタペスト。瀟洒なレストラン“サボー”にて、誕生日パーティの
主役である老紳士が急死するという事件が起こる。
彼が最後に聴いたのは、「暗い日曜日」。
そして、最後に目にしたのは、ある女性の写真だった…。
時は遡って、60年前の“サボー”。
ユダヤ人経営者のラズロと、その恋人イロナは、アンドラーシュという青年を、
ピアニストとして店に迎え入れる。
若く美しいイロナは、たちまちアンドラーシュを虜にしてしまい、
二人の男が一人の女を共有するという、奇妙な三角関係が始まった。
イロナへの想いを込めて、曲を書き上げるアンドラーシュ。
その曲「暗い日曜日」は、不思議なまでに聴く者の心を捉え、
店ではリクエストが相次ぐようになり、ついにはレコード化の話が持ち込まれる。
しかし、ラジオで、レコードで、メロディーが流れ、世界中に広まっていくと共に、
どういうわけか自殺者が増えていくのだった。
「暗い日曜日」は作曲した本人のアンドラーシュにまで影響を及ぼし、
三人の関係は、ある日突然、崩れてしまう…。
望むと望まざるとに関わらず、イロナは出逢った男たちを夢中にさせてしまう女だ。
類稀なる美貌に恵まれた女性は、男に幸福感をもたらすが、時として破滅に導く。
そして、その代償として、自らも運命に翻弄される。
説明の付かない美しさを必要とされるこの役を、エリカ・マロジャーンは、
男性を包み込む母性をたたえて、まるで聖母マリアのように演じている。
これが単なる愛憎劇なら、“ありきたりのフランス映画”のような雰囲気で
終わってしまっただろうが、歴史的背景を巧く物語に取り入れている。
ナチスドイツによるユダヤ人狩りが、様々な試練を与える。
その時、何を考え、どう行動するのか。
登場人物それぞれの気持ちが試される。
そして、小粋にあしらわれたミステリーの要素(あくまでも“要素”であって、
主体ではない)。
曲の持つ神秘性が、このテイストを滲ませる為の、相乗効果の役割を果たしている。
忘れられないラストシーンに向けて生きてくる小道具が、
冒頭から少しずつ登場するので、しっかり見ておいてほしい。
(1999年・ドイツ/ハンガリー映画)
(川口 桂)