シベリアの夜長を古代史に夢を馳せて〜その449〜 |  アンドロゴス生涯学習研究所

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月曜は色々と言っておきながら、あまり色々書けないのが困ります。
今日は猫の話をしましょう。

昔、私が小学生の頃、家のまわりに、チビという通いの猫がいました。
通いの猫というのは、複数の家に「飼われている」と思わせて、ふらりと居なくなり、他所で過ごして、またふらりと現れる、他の獣ではまず無い習性をもった、猫特有のライフスタイルのことです。
無論、ひとつの家に付き、けっして離れない律儀な猫もいるのですが、通いの猫はそんな奴のことは知らん、とばかりに遊び呆けているのです。
家主に甘える態度も全く変らないのですが、どこの家に行っても、昔から住んでいるゾ、と、のうのうとすごしているのです。

このチビは7kgもある、白黒の斑(ぶち)のオスの大猫(おおねこ)で、周囲の家にいるメス猫に人気があり、次々と種付けをしていました。
毛足の短いビロードのような光沢のある毛皮は、近所の猫たちばかりでなく、人間にも人気があったようです。
当然のように、私の家にも入りこみ、我が物顔で過ごすのです。
歩く時は、肩の骨が上下するように、ひょんひょんひょん、と、滑らかに進むので、「ひょんひょん」とも呼ばれていました。
私はこの猫を抱きたかったのですが、子供が触ろうとすると、ファーファー云って脅すので、到底、触ることなどできませんでした。
飛び掛かられると怖いので、しばしば布団をかぶって覗いていました。
猫は相当な明暗差があってもターゲットを認識できるらしく、布団の開口部にむかって突進し、情け容赦なく猫パンチを浴びせてきます。
ひとしきり脅すと、何事もなかったかのように行ってしまうのです。
この猫は、人を脅すときに、眉間に縦横に皺が出るので、俳優の天知茂によく似ていました。


在りし日の天知茂(あまちしげる)

そんなわけで、それ以来、私の家では、天知茂のことを「ひょんひょん」と呼ぶようになったのです。

時は流れ、私が17歳になったころ、三島由紀夫の4部作「豊穣の海」にはまって居たことがあります。
その前は大江健三郎にはまっていたのですが、大江は左翼、三島は右翼ですね。
いずれも文学のレベルでは優劣がつけずらく、三島のほうが僅かに勝っていると思われました。

ある日、たしか東横劇場だったとおもいますが、テレビで舞台中継をやっていたのですが、出し物は、江戸川乱歩の原作に三島が脚本を書いた黒蜥蜴(くろとかげ)だったのです。
明智小五郎の役をひょんひょん(天知茂)、緑川夫人が丸山明宏(現三輪明宏)という千載一遇の名演ですね。
私は、その舞台を見て(テレビでですが)、演劇の凄さを知ったのです。

乱歩の話を脚本化した台本(ほん)がすでに耽美(たんび)の極地に在ったと思われ、優れた役者を呼び寄せたといえるかもしれません。(名高など、大根とまでは言いませんが、月並みというべきでしょう)

その頃、既に、三島は「豊穣の海」のつづきが書けなくなっていたのでしょうか。
三作目の「暁の寺」が新潮に載ったときにはすでに完成しており、構想と執筆に数年の差があるのは普通のことなので、「天人五衰(てんにんごすい)」が書けなかったというのが本当の処かもしれません。

三島事件を知ったのは、私が19歳になったばかりの頃でした。
ちょうど、その日、日本橋三越の家具売り場を散策していたとき、テレビが、楯の会三島総裁が市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げた、と報じたので、しばらく展示されていた椅子に座ってニュースに見入ってしまったのです。
その時、根拠もなく、ああ、才能が枯渇(こかつ)したんだな、と思ったのです。

後に、天人五衰を読んで、あまりの出来の悪さに、やはり才能が尽きたと確信しました。

三島の作品を考えるに、「宴の後」との関連は無いと思われますが、細江英公の写真集「薔薇刑」との関係は大いにあると考えられます。
三島の耽美は外見ではなく、内面の耽美なのですね。

ひょんひょんは、その後も多数の映画、テレビに登場し、50代のなかばで病死したようですが、出演したドラマの作中で病気になっていたりしたので、自ら死期を覚っていたと思われます。

ここで、私の家のひょんひょんの最期について語らねばなりません。
大猫、ひょんひょんは、華の盛りに事故死したようです。
私の父が、おい、ひょんひょんが死んだゾ、と言うので、見に行くと、すでに硬直化した、元猫であった物体が転がっていました。
見た目にはひどく汚れておらず、私ははじめてひょんひょんに触れたのです。
毛並みに沿って撫でると、意にたがわずビロードの感触があり、横に撫でると、別珍(べっちん)のような手触りがありました。
私は、「死は穢れだ」というのは嘘だ、と思いました。
母と姉がどんな反応をしたのかは、記憶に残っていません。
もしかして、家(うち)の猫ではない、という判断で、ゴミに入れて捨てたのかもしれません。(泣)

 


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