モスクワ国際映画祭で最優秀作品賞(グランプリ)を受賞した『私の男』。
主演の一人、浅野忠信は同映画祭で最優秀男優賞を受賞。
数日前に映画を観てきて、衝撃に打ちのめされ、小説版もいっきに読み切ってしまった。
それほどのショックを受けてしまった。
間違いなく今年度日本映画の最大の収穫だろう。
本ブログはアジア映画のレビューを中心にしているから、いつもは日本映画を観ても記事にすることは少ないのですが、この映画だけは、何かを書き残しておきたい、と強く感じさせる作品だった。
といったって、香港映画ほどには日本映画の知識があるわけではない私に、大した内容の記事が書けるはずもないのですが、まぁちょっとだけお付き合いくださいませ。
本作、モスクワ映画祭でグランプリにならなくても、いろんな人に観たい!と思わせる要素がそもそも満載だった。
一つは原作。
原作者の桜庭一樹(女性です)は本作で2008年に直木賞を受賞。
私は読書経験的に芥川賞受賞作はあまり信頼してないのですが、直木賞には気に入る作品が多いので、数年に一度は読むようにしています。
最近は本屋大賞のほうが面白いけれど、それでも直木賞は今でも毎期、気に掛かってはいる。
本作もその一つとして気にはなっていたけれど、きっかけがなくて今まで放置していた。
映画になるなら、ちょっと待って劇場に行って楽しもうと思っていた。
たぶん、そういう人は多かったはずだろう。
二つ目はキャスト。
ハリウッドや海外映画にも積極的に出演し、既に日本映画界にとっても大御所の位置づけにある浅野忠信の主演というのは、もちろん魅力だろうが、もう一方の主演である二階堂ふみのこのところの株の急騰ぶりはすごいものがある。
ここ一年で、ぐんと知名度が増した二階堂ふみ。
坂元裕二脚本のテレビドラマ「Woman」や、園子温監督の映画『地獄でなぜ悪い』のすごみのある存在感に、一発でやられてしまった人も多かったと思う。
園子温流ハイテンション&血まみれ映画をなんなくこなした二階堂ふみ
そして、彼女の作品をいくつか観てきて、彼女の演技に潜む狂気と、思わず引き込まれる表現力のとりこになっている人もいるはず。
彼女の演技が直木賞受賞の話題性のあるストーリーを得て、本作でまた爆発する、と予感した観客は多かったと思うのだ。
三つ目は監督。
熊切和嘉監督も、まさに満を持して本作に取り組んだというタイミングでこの作品を得た感じだ。
熊切監督の前作は瀬戸内寂聴原作の『夏の終り』。
こちらも最近の演技巧者・満島ひかりを主演に迎えての話題作。
綾野剛、満島ひかり、小林薫という顔ぶれだけでも観たくなる「夏の終わり」
瀬戸内寂聴を一般的女流文学と言えるかどうかはさておき、モラルに反する恋愛をこの前作でも熊切監督は描いていた。
「私の男」はモラルどころかタブーに挑む作品。「夏の終わり」の次回作としては最適だった。
そしてなんと言っても最近の映画ファンの心に残った熊切作品と言えば、2010年の『海炭市叙景』だ。
函館市を模した架空の都市「海炭市」を、函館ロケにて撮り、もの悲しく救いのない世界として映し出していた。
竹原ピストルの演技というより存在感が心にのこった。
オムニバスに近いストーリーなので、彼が主役というわけでもないのだが、寂しげな笑顔が作品の印象そのものといった感じであった。
あえて有名俳優でなく竹原ピストルを使って木訥さをだした感もある
「私の男」も同じ北海道が舞台。熊切監督は北海道出身でもある。
流氷が接岸する紋別市を熊切監督がどう切り取って映画にするのか、興味をもって観に行った映画ファンもいることだろう。
――ということで、
モスクワ映画祭の受賞がなくても観にいったであろう本作「私の男」。
やっぱりスゴイ映画でした。あとから読んだ原作も凄かった。
何がスゴイのか? いままだ原作読んだばかりで興奮冷めやらぬので、ちょっと頭を冷やしてからまたいつか記事にしまっす。