TWINの配給でシネマートさんを皮切りに上映されていたトニー・レオン&ジョウ・シュン主演『サイレント・ウォー』。
シネマートではゴールデンウィーク前後に上映。
<春のプチ香港・中国エンターテイメント映画まつり>という、ジャッキー・チェン主演の旧作『ツイン・ドラゴン』と二本だけのミニ企画としてひっそり上映されていました。公式サイトもなしです。
けれど、そんな扱いはもったいないくらいの良作だから、もっと注目されていいと思う。
さて、本作の原題は『聽風者 THE SILENT WAR』ということで、日本でのタイトルもそのまま。
トニオさんが電眼を封印、ということで話題になっていた映画で、本ブログでも不謹慎にも特別企画:“電眼”トニー・レオンとBL なる記事を二年前に書いたのでした。あー恥ずかしい。
さて、封切りはあのカーウァイの『グランドマスター』よりも前の作品。
ちょうど『大魔術師Xのダブルトリック』との中間の作品になりますね。ジョウ・シュンとは二作続けての共演ということで、大魔術師はあれれっていう出来だったけれど、本作での二人は息もぴったりで余韻を残します。
さて、本作は監督+脚本は、『インファナル・アフェア』シリーズのアラン・マック/フェリックス・チョンのコンビ。
数年前のスマッシュヒットである『盗聴犯~死のインサイダー取引』(2009)、『盗聴犯~狙われたブローカー~』(2011)もこの二人の仕事である。
ということで本作サイレント・ウォーも彼らの監督・脚本でおくるという意味では、香港映画テイストの作品なんだけれど、資本はたっぷり中国から出資されており、筆頭を中国とする中国・香港合作映画。
実質的に、ほとんど中国映画と言って良いと思う。
というのは、確かに監督・脚本の二人がいままでの作品のように緊張感があって手に汗にぎる物語にまとめてくれているんだけれど、内容がね、やっぱり中国映画らしく体制批判にならないよううまくまとまっているわけです。
ストーリーをざっとシネマートさんのサイトから引用してみると。。。
魔都・上海―“風も聞き分ける”ひとりの盲目のスパイがいた。
中国共産党と国民党が争っていた時代。
国民党は内線に敗れ台湾へ逃れたものの、その残党はまだ深く暗躍していた。
共産党は敵の動向を監視するため部隊を設立し、国民党の無線通信を傍受するが、ある日を境に通信が途絶えてしまう。部隊の責任者・老鬼は新たな通信を探り出すため、聴覚の優れた人材を集めるよう諜報員である張(演じるはジョウ・シュン)に命令。張は上海で盲人の調律師・何兵(演じるはトニー・レオン)と出会う。
何兵の異常なまでの聴力を見抜いた張は、彼にモールス信号や通信技術を教え込み、やがて何兵は国民党の通信を発見するまでになるが、抗争は混迷を極めていく…。
という感じ。
中国共産党と国民党の残党と争っていた時代設定なので、現在の中国の正当性を肯定するような内容にならないといけないわけです。
もちろん、原作の中国小説『暗算』の内容がすでにそういう内容なんだろうけれど、スパイを扱っていながら、若干やはり共産党を持ち上げているような気がしないでもありません。
そこに気がいってしまうと日本人や台湾人や香港人の観客はしらけてしまうかもしません。
ただし、映画そのものは、トニーさんも演技は良いのではありますが、それ以上にジョウ・シュン姉さんが一世一代の熱演をしていて、それを見るだけでも価値があります。
まぁ共産党を題材にする作品では、中国人であるジョウ・シュンは失敗できないということももしかするとあるのかもしません。しかし、しかし、そんなことはともかくジョウ・シュンの七変化、非情の女スパイ張を演じながらも秘められた女の気持ちを表現する部分は、とても味わいがあると思いました。
そう。この映画はジョウ・シュンが主演と言ってよいかもしれませんよ。
ロビーカードもたくさん公開されていますが、どれも出来がいいので、ちょっとここでもコレクションしておきます。
共産党の女スパイ・張に見いだされた盲人の調律師・何兵
一枚目と二枚目の写真だけでもジョウ・シュンのこの映画での魅力が伝わってきます。
この時代(1949年頃)のファッションがとにかく似合っていたし、スパイとしての非情な雰囲気も、密かに秘めた恋心の感情表現もよかったです。
三枚目の写真でトニーさんの肩を支えているのは、ジョウ・シュンではなく台湾の元歌手で今は女優のメイヴィス・ファン(范暁萱)です。最近はツイ・ハークの『ドラゴンゲート』でもジョウ・シュンと共演していましたね。
そう。この映画ではトニオ演じる何兵と、ジョウ・シュン演じる張は結ばれません。二人の間にも何も起こりません。
でも好き合っているのはわかる。しかしスパイにスカウトしたという人間関係上、二人は上司と部下の関係から逸脱できない。
その後、何兵はスパイ仲間で暗号解読師だった女性と結婚します。
でも、結婚してからも何兵は危険な任務につく張を心配しているし、張も何兵のことをいつも気に掛けている。しかし、だからといってメイヴィス・ファンとの間で三角関係になるわけではなく、同じスパイ仲間として奇妙な友情が三人の中に芽生えるのです。
メイヴィスだってジョウ・シュンとトニーがお互いに好き合っていることはわかっているわけです。
このあたり、普通の「男・女・女」三人の友情とはわけが違う。時代背景が生んだ特殊な関係が説得力を持たせていて、だからこの三人の互いを思い遣る気持ちに心打たれるというわけです。
冒頭でも述べたように、中国共産党を美化し過ぎていると感じられなくもないけれど、こういう題材設定だから登場人物たちの人物造形が魅力的になったとも言えるので、トータル映画としては観るに値するものになっていると思います。トニーさん出演だし、配給はツインだからきっとDVD化はされますので、多くの人に観てもらいたい作品です。
とくにジョウ・シュン好きならきっと満足のはず。
私もジョウ・シュン好きなので、勝手に彼女の代表作に認定(笑)して、DVDで持っておきたい!
最後に、気に入った宣伝ポスターを二枚。
ジョウ・シュン演ずる女スパイ張によって見知らぬ秘密基地につれてこられ、盗聴要員のスパイに仕立てあげられてしまう(巻き込まれてしまう)トニー演じる何兵ですが、スパイ活動という過酷で非情な仕事だけの日々の中で、暗号解読の専門家として生きている女性と知り合い、自分の運命と重なるものを感じているという流れがあることを、この二枚のポスターで説明しておきたいと思います。
あんまり説明するとネタバレになるので、この辺で。