しばらく映画館でアジア映画をみていないので、企画記事で間をつなごうってわけ。
といっても、ここのところアジアDVDはたくさん見ていました。
今年の大阪アジアン映画祭では「追悼ランラン・ショウ」って企画がありました。
本ブログでも紹介 したけど、私自身は見に行けなかった。けれど、そのときも書いたけど、往年(1960年代後半~1970年代前半)のショウ・ブラザーズ映画からピックアップされていた三本はどれもDVD化されていて、一本が1500円、三本で3千円で買えるってことで、この機会に全部買ったのでした。
ショウ・ブラで活躍していた三人の巨匠といえば、キン・フー、チャン・チェー、リー・ハンシャンをあげるのが普通だけれど、実際にはこのなかでキン・フーは二本の作品を撮っただけでショウ・ブラを離脱しています。
二本のなかでも『大酔侠』は、もともと私も好きな映画ですが、アン・リー監督が『グリーン・ディスティニー』で、本作にオマージュを捧げているのは有名な話です。
アジアン映画祭で追悼できなかったので、個人的にDVDを観て追悼しました。
久しぶりに見直してみたわけです。
上記のDVDジャケットにもある食堂での戦いは、グリーン・ディスティニーではチャン・ツイイーが食堂で大暴れするシーンで再現されている。
また、グリーン・ディスティニーでチャン・ツイイー演じる玉嬌龍に武術を教えた碧眼狐狸を演じていたのが、大酔侠の主演女優であるチェン・ペイペイ(鄭佩佩)。
いくつかのアクションシーンで同じシチュエーションを再現しているから、アン・リーさんのキン・フー好きがわかろうというもの。
アン・リーは、オーディオ・コメンタリーで、新旧三世代武侠女優そろい踏みと言っていた。
これは、1960年代に武侠の女王と呼ばれたチェン・ペイペイ、1980年代にサモ・ハンに見いだされててアクション女優としてデビューしたミシェール・ヨー、2000年代にこのグリーン・ディスティニーでハリウッド・デビューしたチャン・ツイイーの三人ということ。
ミシェールはグリーン・ディスティニーの撮影のとき、アキレス腱を切る大けがをしている。
私の観るところ、上記のシーンは映画史に残る名シーンながら、ミシェールは足を引きずっているように見える箇所がある。おそらく、この撮影のときはけがが治っていなかったのだろう。
それでも、優れたアクションシーンに見せてしまうのだから、ユエン・ウーピンという武術指導者は天才だと思う。
さて、武術指導という職種が出たけれども、この武術指導というクレジットを初めて映画で使ったのは、キン・フーだそうだ。
キン・フー映画のアクション振り付けと言えば、ブルース・リーのドラゴン危機一発で大ボスを演じたハン・インチェ。
ハン・インチェとブルース・リー(ドラゴン危機一発より)
このハン・インチェが、大酔侠にも出演しているのだが、同時に武術指導を兼ねていて、この映画で香港初、世界初の武術指導者としてクレジットされた。
もちろん、同じような仕事をする人は当時の香港映画界には何人かいた。
たとえば、ショウ・ブラでは後に監督になるラウ・カーリョンなどもそうだ。チェン・チェー映画でもアクション振り付けを担当していた。
キン・フーはハン・インチェとの仕事を好んだようで、大酔侠のほかにも、カンヌ映画祭高等技術委員会グランプリを取った「侠女」、全アジアで大ヒットした「龍門客棧」などでハン・インチェの力を借りている。
また、ハン・インチェの助手だったのはあのサモ・ハンである。
侠女ではハン・インチェとともに悪役を演じているし、ハン・インチェが参加できなかったときに、キン・フー作品の武術指導を担当している。たとえば『忠烈図』では、サモ・ハンは悪役の倭寇の役で武術指導を兼任している。
ハン・インチェのアクションはトランポリンを使うことが多いのだが、ハン・インチェが武術指導だったせいか、ドラゴン危機一発ではブルース・リー映画では唯一トランポリンアクションが含まれている。
また、ブルース・リーがキン・フーを敬愛していたことも有名で、一緒にとった写真もある。
ブルース・リーとキン・フーが同じ仕事をしたら本当に面白いものになったと思う。
そのような機会はブルースが早世したため実現しなかったが、キン・フー作品でキャメラマンだった西本正を起用してブルースは映画を撮っている。
それが『ドラゴンへの道」だ。
ドラゴンへの道のローマでのロケハンにて西本正とブルース・リー
西本正はキン・フー作品では、キン・フーの監督第一作である『大地兒女』、そして大女侠でタッグを組んでいる。
残念ながらその後は台湾に渡ったため、西本正の撮影作は撮られていない。
どうでしょう。
キン・フー監督から、どんどん香港映画の豆知識が出てくるでしょう。
私は子供の頃はキン・フー作品は退屈な印象をもっていたのですが、大人になったら好きになりました。
寡作だったので、少ない作品しか残していないのが本当に残念です。
実はキン・フーの信者はたくさんいて、ツイ・ハークなんかは自分のテキサスの大学時代の卒業論文がキン・フー論。
ついでにプロデュース作品である『ドラゴン・イン』は、キン・フー作品『龍門客棧』のリメイクだ。
しかし、キン・フーによると、ツイ・ハークからは何も言ってきていないとか。
つまり無断リメイクです。
ツイ・ハークはもう一回『ドラゴン・ゲート』っていうジェット・リー主演作品で『ドラゴン・イン』をリメイクしたけれど、やっぱりキン・フー筋の許可は得ていないんだろうなぁ。ちなみにキン・フーは香港返還の頃に亡くなりました。西本正もその頃に亡くなったから、1997年前後って、やっぱり香港映画にとって大きな節目だったんだなと今更ながらに思います。
と、今回はまとまりのない企画記事で恐縮ですが、また頃合いをみて往年の名監督について書いてみたいと思います!