純粋なインド映画を観たのは久しぶりでした。

公開初日に観てきたので嬉しくってネタバレにならない程度にレポートしますね。


観たのは『ロボット』。

世界興収が100億円超だって!

久々のインド発の娯楽超大作であるところの『ロボット』。

これは無視できないでしょ。


ロボットのポスターです。出所は我らがアメーバニュース。

ゴーイン・バックtoちゃいな
「ワケわからんが面白い」って(苦笑)。

でも本当にその通りだった。


インド映画で最近のヒットは何があったかな。

インドが舞台になった『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)はイギリス映画だったし(この作品は米アカデミー賞8部門受賞)、インド映画のテイストを取り入れて一部にダンスシーンがあるものの、やはり本来のインド映画の味わいはなかった。ほとんどのシーンが英語だったしね。


スラムドック$ミリオネアのワンシーンが表紙になったSCREENPLAY。

ゴーイン・バックtoちゃいな
全編英語なので、英語勉強用のテキストになっているわけね。


もちろん、スラムドッグ$ミリオネアは、とても面白い映画だったし、特筆すべきはそれまでの多くのインド映画が、一般庶民にとっては縁のない晴れやかな舞台を描いたのに対し、あまり焦点のあてられることのなかったインドの貧困問題にもダイレクトにフォーカスしていた点も、『スラムドッグ$ミリオネア』の優れた点であったと思う。


でも、インド映画ではやはりないんだよね。


日本でインド映画がブームになったのは、『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995)が原因だろうね。

日本で公開されたのは1998年になってからだけど、主演のラジニカーントの強烈な魅力とともに、マサラムービーと言われた、踊りとアクションと二時間半を超す長い上演時間に映画のトーンががらりと変わる作風も新鮮だったよ。映画の文法がまったく普通の洋画とは違うんだよね。


ムトゥのソフトジャケット(時代的にVHSのものだろうね)。

ゴーイン・バックtoちゃいな

このジャケットでは、題字のところにほんの少し顔が出ているだけのオッサンが主演のラジニカーント(愛称:“スーパースター”、通称ラジニ)。


顔がわかりにくいので大写しのものを。

ゴーイン・バックtoちゃいな
劇中、なんどもクルクルっとやっていた、腰に巻いていたタオルをヌンチャクのようにぶん回すシーンからです。


上記の『ムトゥ 踊るマハラジャ』が日本でもビックリの大ヒット。

あんな小出し写しだったラジニに、ものすごい注目が集まって、このムトゥ以外にも多くのインド映画が立て続けに劇場公開、あるいはビデオレンタルされたっけ。


ラジニカーント主演のものだけをあげても、


・ダラパティ 踊るゴッドファーザー(1991年)
・ヤジャマン 踊るマハラジャ2(1993年)
・アルナーチャラム 踊るスーパースター(1997年)


こんなに公開(上の年表記は全てインドでの公開年)あるいはビデオグラム化されたわけです。

しかもムトゥより前に製作されたヤジャマンを日本で「マハラジャ2」として公開してしまうところや、1991年のダラパティとか完成度としてはどうかな、と思われる映画まで買い付けられてきたところなんかが、一昔前のジャッキー映画の公開の仕方を彷彿とさせます。


ムトゥをはじめ、これらラジニものは、ストーリーは判を押したように、主人公は身分のそれほど高くない庶民だと思って暮らしてきたが、後からそのやんごとなき高貴な身分が発覚するというもの。

これって、インド一般大衆の願望が潜んだような内容なのでしょうかね。


そして、1990年代後半という時期に公開されたインド映画は、勧善懲悪がはっきりとしていて、踊りとアクションとラブロマンスがごった煮になった、ミュージカル映画とも違うインド独特の映画表現に、日本の映画ファンが衝撃を受けた時期でもありました。


ラジニ主演以外で有名なところでは、『ボンベイ』かな。

ボンベイと言いながら、この映画はタミル語映画だったんだよね。

タミル語は英名マドラス・インド地名チェンナイあたりの方言です。


私・龍虎はインドは数回訪問しているし、ボンベイ(インド地名はムンバイ)では映画も観てきたけど、日本に紹介されるタミル語の映画とは作りも違いました。


インド映画のことを、ハリウッドとボンベイをもじって「ボリウッド」と言われることがあるけれど、本来はインドで映画が作られる地域は、チェンナイ地方のタミル語映画と、ムンバイ地方で作られるヒンドゥー語映画に大きく分かれます。


ムトゥはタミル語なので、本当はボリウッド映画ではないです。


さて、ウンチクはこの辺にしておきましょう。


長い上演時間はインド独特のもので、上記の映画はいずれも間に休憩を挟んで公開するように作られていました。

しかし、日本の劇場では連続で休みなく上映されるものだから、トイレを我慢するのが大変だったっけ。


話を戻して『ロボット』ですが、この映画も139分と長い!

(だけど、完全版は三時間を超えるそうで、ただいま完全版を公開してくれる映画館を募集中と公式サイトにあった!)


劇の途中で、「休憩」を意味する英語表記が出るも、日本の映画館ではやはり連続上映。

しかし、この休憩後に映画はそれまでのホノボノした雰囲気が一転して、アクション映画風に一変。


ストーリーは公式サイト にあるけれど、私がもっと簡単にかいつまんで説明すると、


1. バシー博士が10年かけて、自分そっくりのロボット「チッティ」を開発する。

2. 感情が理解できなくて、博士の夢だった軍事転用が出来なかったので、チッティに心をもたせることに。

3. ところが、チッティは博士の恋人サナに恋をしてしまい、サナと博士が結婚すると知るや暴走。

4. 結婚式でサナを奪って逃げ、その最中に町で大暴れしたチッティは、博士の怒りを買い廃棄される。

5. 博士に嫉妬する悪い科学者に拾われたチッティは、冷酷なターミネーターに改造される。

6. チッティは自分を量産してロボット軍団を組織し、てんやわんやの大暴れを繰り広げる。

7. 博士はチッティの暴走を止められるか?


ってな内容。


考えてみれば、日本でブームが起こったのは15年以上も前の話になるのです。

当然、ラジニさんも本来は還暦を超えた年頃ですが、劇中では結婚前で若い婚約者のいる青年博士バシーと、ロボットチッティの二役を演じていました。


『ロボット』でのラジニ(博士役)。


ゴーイン・バックtoちゃいな
さすがに老けたし、ズラなんだけどね。


サナ役は94年ミス・ワールドで世界一の美女に輝いたアイシュワリヤー・ラーイさま。


アイシュワリヤー・ラーイの画像。一緒に踊っているのはチッティの方を演じているラジニ。

ゴーイン・バックtoちゃいな
画像はこれもアメーバニュースから拝借。


音楽は「スラムドッグ$ミリオネア」のA・R・ラフマーン。


アクションコーディネータは、香港映画を代表する武術指導家・映画監督ユエン・ウーピン(袁和平)です。彼の振り付けは、ハリウッドでは『マトリックス』などでもはやおなじみ。インド映画にもかり出されていたとはねぇ。

ちなみに、ジャッキー映画が過去の映画まで発掘されて公開されるほどの一時代を仕掛けたのもウーピンその人。


『ドランクモンキー酔拳(原題:醉拳)』(1978)が日本でヒットした後、その前作だったはずの『スネーキーモンキー 蛇拳(原題:蛇形刁手)』(1978)を「モンキーシリーズ」として日本で公開させちゃった。

まぁ、この2作品は同じ監督・制作会社なので違和感はなかったけれど、その後の『クレージーモンキー笑拳(原題:笑拳怪招)』(1979)とか、『カンニング・モンキー 天中拳(原題:一招半式闖江湖)』(1979)なんて何のつながりもなかったんだけどね。


話を『ロボット』へ戻します。悪い癖でつい香港映画のウンチクが(汗)。

実はこの作品。昨年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 2011」で出品されていたんだよね。

私はその場にいたのだけど、他の映画と時間がかぶって観られなかったのです。


でも、映画祭会場からロボットを観て出てきたお客さんたちの興奮具合を目の当たりにしてしまい、これは絶対に公開されたら観なきゃなと思ってたんです。


結果、還暦ラジニの完全復活と言っても良い、盛り込みすぎの作品(インド映画ではホメ言葉)でした。

ストーリーとビジュアル的には、トランスフォーマーとターミネーターとをごった煮にした感じ。

アクションシーンは、マトリックスとやっぱりトランスフォーマーなんかを混ぜた感じかしら。


トランスフォーマーがそうであるように、後半ではそのCG多用っぷりに、観てるこちらが疲れてくるんだけど、考えてみれば、インド映画もいよいよこんなCG大作を作れるようになったんだな、感慨深い。


自分を量産するロボット・チッティは、その後の大暴れする様は、最初はマトリックスのスミスみたい。

ここでもCGのオンパレードで、徐々に量産チッティが合体して巨大ロボ化する(ネタバレじゃないよ。予告編にも出てくるし)あたりは、もうトランスフォーマー。


高齢でもあるラジニは、もしかすると、CG部分の作品に出演しなくてもよいという裏もあるのかもね。

なんだか、このCGシーンは、アンディ主演の『未来警察』も思い出した。


エンドクレジットまでよく観ていたら、アクションコーディネートのユエン・ウーピン以外にも中国人のクルーが、CGやアニメーション部分の制作などで、多数参加しているようでしたから、モタモタしているとCGやモーション・アニメのような日本が得意とする分野も中国に取られちゃうかもよ。


だって、未来警察の監督であるウォン・ジンしかり、アンディつながりで『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』の監督であるツイ・ハークしかり、CG好きな監督は香港にも多いから。


私も昔はインド映画にズッポリとはまった口。

この映画をきっかけにして、どんどんまたインド映画が日本に入ってくるようになるといいですねぇ。


ちなみに今回、日本で公開されたバージョンはほとんど英語でしゃべってます。

口パクとは合っていなかったので、タミル語あるいはヒンドゥー語のバージョンもあるのかも。

製作費もすごいだろうから、英語版を各国に配給して回収しなくっちゃね。


それにしても、三時間を超える完全版ってどんなの?

もう十分おなかいっぱいの映画だったけれど。。。