「どうしたのオスカル?珍しいわね、シルクのブラウス。」
同僚のジェシーは興味津々で今日のオスカルの服装を見た。
まあ、無理もない。いつものオスカルは、美しいブロンドをゴムでひっつめて、
ブルージーンズに質はいいけどやたらと丈夫なコットンシャツをダボっと着て仕事を
している。美しいブルーの瞳を隠すように黒ぶち眼鏡をかけてるのが人目を引く。
今日のオスカルは‥‥うわ、マジで綺麗だわ。輝く金髪はふんわりと肩に広がっているし、
控えめなブルーグレイのアイシャドウが眼鏡越しの彼女の綺麗な瞳を引き立ててるんだもの!
同性の私が見たって、これはそそる。
「え?あ~、なんて言うかその、気分転換、かな?」ってオスカルは言ったけど。
ねえオスカル?何年親友やってるのよ、私達。何かあったよね!
「この前、結婚式に出た後、アンタ浮かない顔で帰ったじゃない?だけど翌日、
すっごく可愛い顔してたよね。な・に・が・あったの?」と尋問するジェシー。
「えっとね・・・とびきり美味しい物食べて帰ったんだ。あんな美味しい物
初めて食べたよ。」
「なあに、食べたのかなあ~?お金持ちのご令嬢のあんたがそれほど唸るご馳走って
何かしら?それに今日のアンタの美しさったら。興味津々、なんですけどね。」
「え、あのお・・・オニオン・グラタン・スープ。」
「はえ?オニオン・グラタン・スープ??」
ジェシーはオスカルの顔を覗き込んで驚いた後、ニヤついた。
オスカルの実家ジャルジェ家は、御先祖様は由緒正しい貴族の出だと聞いている。
そのことが今のジャルジェ家にどれだけの影響を与えてるのかは知らないが、
彼女の実家は大きなホテルをフランスの方々に持つ資産家だと聞いている。
そんな家に生まれたセレブ嬢なら面白おかしく人生暮らして親の進めるどっかの
御曹司と結婚してもおかしくないはずだ。
だけど。
オスカルは「社会の一員になって、自分でお金を稼ぎたい。それに何よりも、誰かの
役に立ちたいんだ。」と日頃口癖のように言っている通り、実に真面目に社畜をやっている。
そんなバックボーンと彼女の生真面目さのアンバランスが愛おしくて、ジェシーは
休憩中のお茶、ランチ、時には仕事後の食事も何となくつるんでいる。
「私が言うのもなんだけどさ、そのオニオングラタンスープにとびきりのスパイスが
あったせいじゃないの?あんたのその『気分転換』ってやつは。」とジェシー。
「・・・・。」
ほーらね。色白のオスカルがトマトみたいに真っ赤になっちゃった。
「つまりね、その。」トマトがおずおずと白状し始めた。
「そのスープみたいに暖かい人…バーテンダー…が、いたのよ、バーに。」
「それって男、だよね♪」してやったりとカフェラテを飲みながらジェシー。
「それじゃあ、通ったら?そのバー・・・何て名?」
「バー・ロマネスク。でもダメなんだ。その人・・・アンドレって言うんだけど、
彼、別の店のシェフが本業で、水曜日だけバーテンダーやってるっぽいから。」
ちょっと!なんで諦めた様な顔でコーヒー飲んでるの!
「今日、月曜日じゃん。水曜日にお店に行ったら会えるんでしょ?オニオングラタンスープ
の彼に。」何が問題?と言った顔でジェシーはオスカルに言った。
「水曜日はいつも、残業デーじゃない。いつも水曜日にドサドサっと処理する書類が
山積みされてるもん。アンドレにも誘われたんだけどね。」
「ハアア?それであんた、断ったの?あんたバカ?」
いつも冷徹なほどの美貌をくずさないオスカルは親友の叱咤にシュンとした。
「バカって・・・ひどい。だってアンドレは言ったのよ。『その青いドレスと、
綺麗な青い瞳が忘れられないから名前を教えて。』ってね。あのドレスはあんたから
の借り物。それに近眼でいつもはこんな眼鏡かけてる私だよ?いつもはジーパンと
シャツの私が?無理よ。アンドレはきっとがっかりする。」
はああ。そんな事で諦めたってか?ここまで恋愛バブちゃんだったか。
ジェシーはカフェラテを飲み干すと深呼吸して親友を見つめた。
「ねえオスカル、思い出してみなよ。私達ここに入社して以来、どれだけセクハラ
まがいのクソみたいなジョークやらお誘いを男達から受けてきた?あんたのその
メガネだって、ひっつめた金髪だって身を守る鎧みたいなもんでしょ?
そんなあんたが、たった一杯のオニオングラタンスープでそんなにきれいになった。
よっぽどいい男なんだろうね。ハートが。」
そしておもむろに、彼女はオスカルの両頬をフワリと両手で包み微笑んだ。
「あんたのその瞳。メガネかけてたってすごく美しいわ。深い海の様よ。それに
ジーンズにコットンシャツのアンタ、キュートですごくセクシーだわ。
ねえ、自信持ちなさい!アンドレって人はきっと、見た目だけで女に優しくする様な
男じゃない。」
男勝りだが美しい、この親友の暖かい言葉にオスカルは心暖められた。
そして前に進む勇気も・・・もらえた。
「ありがとう、ジェシー。そう、そうだよ。アンドレはそんな男じゃないんだ。」
すみません、お久しぶりです。長い間のスランプ。少しだけ書き始めました。
