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ベルばらが好きで、好きで、色んな絵を描いています。pixivというサイトで鳩サブレの名前で絵を描いています。。遊びにきてください。

「ああ、潮風が懐かしい!」、アンドレはこう言って、大きくのびをした。 こいつの子供みたいな表情を見るのは久しぶりだな、とアランは思った。 潮風に髪をなびかせると、アンドレの閉じられた左目と薄く痕が残る傷跡が露わになり、アランは何とも切ない気持ちにとらわれた。

ここは、南フランスのプロバンスの海に面した、小さな海岸。 アランとアンドレは衛兵隊の休暇を利用して、ここに来た。

  話は3日前にさかのぼる。めずらしくオスカル一人だけ休暇をとり、事務方の仕事をアンドレが一人でこなしていた。 アンドレの目の状態が悪化しているのを唯一知っているアランは、 偶然を装い、司令官室に立ち寄り、アンドレの仕事を手伝っていた。 本来は文武両道に”できる”男、アランのおかげで、仕事はどんどんはかどった。

 突然、アンドレはアランに休暇の予定をたずねた。 アランは面倒くさそうに答える。「ああ?何もねえよ。 酒飲んで、寝て、なじみの娼館にでもしけこむか、だな。」 

「よかったら・・・だが、俺とプロバンスの海、見に行かないか?」
「なあにい~???お前と海にい~???」 

 

おい、何が悲しゅうて、男二人で海に行かにゃならん?第一、お前の隊長はどうするんだ?  「オスカルなら、心配ない。 旦那様との用事で、休暇中は別行動さ。メシ代、宿代オレ持ちだが、どうだい? 行かないか?」 う・・・まあ・・・予定もないしな。メシ代、宿代お前持ち? 乗ったぜ、その話。 

 

こうして、3日後の男二人のプロバンス旅行が決まった。

  「 ここさ、ガキの頃、友達と一緒によく遊んだ海岸なんだ。」アンドレはブランデーの小瓶をアランに差し出し、ここにすわろうよ、と砂浜に腰をおろした。 まったく、こういう気配りは天下一品だぜ。 アランは苦笑いをしながら、並んで腰をおろした。 「 あっちに見える集落がさ、俺の生家があった村。」 

なあ、アンドレよ・・・お前、本当はもっと他に言いたいことがあるんじゃあねえのか? そう言いたいのをぐっとこらえて、アランはブランデーを流し込む。 しばらくの間、沈黙が続いた。 

  「実はさ・・・・3か月前にオスカルが海を見たいって言いだした。俺の故郷のこの海に。」 アンドレは話し始めた。「 おっ、ようやく本題か。いいぜえ、宿代,メシ代の代わりだ。なんでも聞いてやる。どした? 喧嘩か?」 

 

 アランはぐびりとブランデーを口に含む。

 

「 あいつは・・・オスカルは子供の頃から、自分に厳しい。 最近は自分が貴族で、飢えも寒さも知らずに生きてきたことに罪悪感を感じている。そのことに償おうと今、身をすり減らして働いているんだ。俺は、そんなあいつを見ているのが、辛い。」


 隊長を語る時のアンドレはとても愛おしげで、とてもつらそうだった。 アランはアンドレをチラリと見ながら言った。「・・・まったく、隊長も、おまえも、らしいっていうか、なんというか・・・だが。 で、海の話とはどうつながるんだ?」  

 「俺はあいつが今までどれだけ頑張ってきたか、衛兵隊で今の様ないい関係を築けるまでのあいつの努力を想いださせようと、したんだ。」

 「 う・・・まあ、俺達も悪ガキだったから、耳が痛い・・・それで? 」

 「 あいつ、泣いたんだ。泣いて、俺の肩に身をまかせて、俺の故郷の海に連れて行ってくれって言うんだ。これからの時間を悔いなく過ごしたいと。俺との想い出をたくさん作りたいと。」 

 「 それは・・・アンドレ、お前にとっては、すごく幸せな事じゃあないのか? 」

  アンドレは唇をきっと噛んでいる。心なしか、手が震えている。

 「 オスカルは俺との時間を大切にして、想い出を残したい、 自分の人生にはもう時間があまりない、と言うんだぜ。 なぜだ? 俺達の時間は始まったばかりじゃあ、ないのか!!!・・・でも、時々、思い当たるんだ。 青ざめた顔、乾いた咳。 そして、 口づけしたときのわずかな、血のニオイ。 アラン、もし、死神がオスカルを連れていったら、俺は後を追う。」 そこまで言うと、アンドレはフ~っと息を吐き、ブランデーをあおった。 アランはじっと話を聞いていたが、次第に何かが、心の中につきあげてきた。 悲しみ、苦しみ、 じれったさ・・・もう、彼自身にも収拾がつかない。本来はとっても情があつく、心優しいアランだが、もう自分の気持ちを整理することができなかった。
  
 「 アンドレ、ふざけるなよ。 俺はなあ、隊長の体の不調も、お前の目の事も、とっくに気づいていたさ。なんでお前たち、そうやって命けずりあって生きているんだよ、このバカが。 お前、その目でどうやって隊長をここまで連れてくるんだよ。」 アランの声が涙で震える。「・・・どうしたら、隊長を、そんな風に愛せるんだよお・・・・。」

 一瞬、アンドレの顔が凍り付いた。 目の事をアランに悟られて、イタズラがばれた子供の様にアンドレは怯えたような、すまさそうな顔をしたまま、1点を見つめている。

 海からの風が二人を優しくなぐさめる。

 「 ・・・いいんだ。 それが俺の愛し方だから。俺の命はあいつと共にある。8歳の時あいつと出会ったころから、ずっと・・・ね。」 氷が解けたようにいつもの暖かい微笑みが、アンドレの顔に戻ってきた。

 

切ない。


 そうさ、お前はいつもそうやって、静かに微笑んでいるんだよな・・・アランは心の中でそうつぶやいた。

  すると、アランはアンドレの両肩を後ろからつかみ、ぐいっと東北東に、向けさせた。 「 ほれ、アンドレ。  このバカ。今から言うことをよく覚えておくんだ、いいな? こっちから、面白い形の高い木が見えるな?あの辺りから、人家が見えるのが、わかるか? ここから、東北東の方向だぞ? 目印になるものを、よく覚えておくんだ。」

  アランにがっしりと肩をつかまれ、アンドレはアランのしようとしている事を理解した。 そして、神経を集中させて、アランの指先を見つめた。

  「 ここに着くまでの道すがら、パリから2時間位のところに宿が2軒、そっから10キロ位先にこじゃれたカフェがあった。 色っぽい年増の女がマダムだ。 お前に色目を使っていたから、何となく不安だが、隊長が疲れたら、そこで休ませてやれ。 街道沿いだ、すぐわかる。」

   アンドレの目には感謝の涙が今にもこぼれそうに溜まっていた。ありがとう、アラン。お前の優しさを、俺は忘れないよ。オスカルと俺、これからどうなるかわからない。もしも、俺がいなくなったら、 オスカルを頼む。 そして、俺の故郷がここだっていうこと、 お前に覚えていてほしいんだ。

  自分が覚えている限りの道しるべをアンドレに伝えた後、アランはアンドレから、目をそむけ、海岸線を見つめた。アランの目も涙で曇っていたからだ。

  アランは心の中で神に祈る。

  「神様、アンドレが今、見えているかどうか、俺にはわかりません。俺も泣いているからですよ。 神様、俺、ガラにもなくあなたに祈ります。あいつが、一日でも長く、青い海を、美しい金髪のあの人を、俺達仲間を、見ていられますように。」

   海岸線を境に空から海へと、オレンジとブルーの美しいグラデーションが広がってきた。

   もうすぐ、日没を迎える。 永遠の闇が自分を包む前に、アランとここに来れて、本当によかった、とアンドレは思う。  「 アラン! そろそろ宿に向かおう。ハラも減ったし、今日は飲み明かそう。」

   「 おう、お前のおごりなら、朝まで飲んでやる。」 

 

 海岸線を背に長身の男二人は宿へと馬を走らせて行った。


 夜がもうすぐ、 全てを優しく包もうとしていた。



 お久しぶりです。思うところあり、pixivで掲載されていた作品をこちらに引っ越しすることにいたしました。古い作品になりますが、よろしければご覧ください。