バー・ロマネスクの恋④ | cocktail-lover

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ベルばらが好きで、好きで、色んな絵を描いています。pixivというサイトで鳩サブレの名前で絵を描いています。。遊びにきてください。

 水曜日の夜、8時。

 

 バー・ロマネスクには相変わらず常連客が来て思い思いのカクテルをアンドレに

 リクエストする。今夜のバーテンダーがアンドレってことを知ってて彼目当てで

 やってくる女はたくさんいるが、今夜は不思議なほど男の常連客ばかり。

 

 でもいつもと違う・・・それは。

 

 「アンドレ、モスコミュールね。今日はリンダが来ないね。」とフランソワ。

 リンダはアンドレにぞっこんのブテイックの女主人。

 「忙しいんじゃないですか?はい、モスコミュール。」と、アンドレはモスコをつくる。

 「アンドレ、マテイーニね。水曜日、この席はエマの席だけどいいかな?

 エマどうしたかな~?」ジャンが伺いを立てるようにマテイーニをリクエスト。

 因みにエマは先週、アンドレを映画に誘って断られた、らしい。

 「映画行くっていってましたよ。ハイ、マテイーニ。」

 

 アンドレ・・・顔が笑ってないよ。相変わらず穏やかだし、口数少ないし、

 カクテルの味は最高だけど、いつにもまして無口じゃん。てか無愛想じゃん。

 俺達常連じゃなかったら逃げてるよ、マジで。

 

 「あのさ、もしかすると先週の水曜日に来たブロンドの美人待ってる?」とジャン。

 「え、アンドレが?モテ男のくせに誰にも靡かないアンドレが?」とフランソワ。

 

 「本人目の前にして、噂話って趣味悪いね!!!」

 

 ひいいっと縮こまる二人の前に、注文のジャーマンポテトをガタンと置いた

 アンドレはギロリと二人を睨んだ。「バーはな、静かに飲むところなの!」

 「ごめんよアンドレ。ただすごく元気ないからさ、心配で。」

 「別にリンダもエマもただのお客様だろうが!プライベートは俺、知らんし。」

 「違うって。アンドレが彼女達の事じゃなくて、先週店に来た金髪美人の事

 待ってるのかな~って思ったんだよ・・・。」と、フランソワ。

 「ああ彼女。水曜日は仕事が忙しいって言ってましたよ。」

 アンドレはそう言うと、ジャポンのビールを取り出して自分のグラスに注いだ。

 

 やっぱり落ち込んでるんじゃん・・・と、常連二人は思った。このバーテンダー、

 何かモヤモヤすると、カクテルから離れてビールに逃げる傾向がある。

 理由はわからないけど。

 

 そう、先週の水曜日、アンドレがオスカルに「僕がこの店に来てるのは水曜日だけ

 なんだ。」と行った時、オスカルは残念そうな顔をした。

 

 「水曜日はいつも、仕事が山ほどあるの・・・。」と。

 

 頭で理解してる、彼女が実は令嬢で、こんなカジュアルなバーに来たのは一時の

 気まぐれだって言う事を。仕事を言い訳にしたのは彼女の優しさだろう。

 

 だけど忘れられなかった。彼女の美しい瞳と冷たいほどの美しさに潜むなんとも

 シャイな可愛らしさを。ったく、バーテンダー失格だよ・・・な。

 

 恋は自分の糧にしろ。でも恋に身を滅ぼされるなよ、アンドレ。

 

 小さい頃から俺に言っていた叔父の言葉をアンドレは思い出して苦笑いを浮かべた。

 

 たった今自分のグラスに入れたジャポンのビールを一気飲みすると、とっておきの

 ワインを取り出し常連たちに実に魅惑的なウインクをした。

 

 「悪かったな、みんな。俺の事心配してるんだろ?バーテンダーが客の女に現を抜かす、

 なんてダメだよな。ちょっと…発熱しちまったんだよ。だから今日はこれ、俺の奢り。」

 「え、マジで?」

 「やった!いつもモスコしか飲まないけど本当は俺、ワイン好きなんだよね。」

 

 苦笑いをしながらアンドレは表に「CLOSED」の看板を出そうとした時。

 

 「あの・・・、今日はもう、閉店でしょうか?」

 

 ちょっとオドオドした様子で、アンドレよりも少し背が低い、だけど女性にしては

 スラリとした女が店の前でもじもじしている。

 

 「あれ…君は。」アンドレは目をパチパチさせた。

 

 忘れもしない。彼女はあの青いドレスの女性。だけど今日の彼女は、真っ白な

 コットンシャツに長い足をブルージーンズに包んでいる。あの流れるように美しい

 金髪は、ゆるりと一つに纏められ、シンプルなバレッタでとめてある。

 そして極めつけは。

 射るように強気で、だけど美しいサファイアブルーの瞳は、黒ぶちのメガネの奥に

 あった・・・。

 

 「あの女の人誰よ。どっかで見たことあるよな。」

 「え、そお?俺は見たことが無いよ。あ~でもあのシルエットはどこかで。」

 

 ジャンとフランソワがひそひそと話している間、アンドレは彼女の前に立ち、

 ニコリとした。「ようこそ、バー・ロマネスクへ。オスカルでしょ?」

 

 「あの。私の事わかりますか?」挑む様に、いや、半泣きの顔でオスカルは言った。

 「どして?一目でわかったよ?スレンダーな立ち姿に綺麗な瞳。まさしく君だ。」

 「嘘よ!こんな度の強い眼鏡をかけて、洗いざらしのジーパン。これが私の普段の

 姿だわ。あの日の青いドレスは親友から借りたのよ。」

 一気にそこまで話すとオスカルは俯いた。

 「マドモアゼル・オスカル?とにかく座ってくれない?」

 アンドレはクスクスと笑った。

 「水曜日、仕事が忙しいって言ってたのに来てくれたんだね。嬉しいよ。」

 

 アンドレと彼女の会話でジャンとフランソワは「あ、あの人だ!」と互いに

 目で会話をし、止まり木の隅っこに移動し二人の行く末をワイン片手に、ナッツを

 ポリポリ齧りながら見守ることにした。

 

 彼等とは離れた席に座ったオスカルはちょっぴり気まずそうにアンドレを見た。

 

 「あの、今日は・・・仕事が片付いて、それで。」

 「うんうん、嬉しいよ。」

 「がっかりするならば、早い方がいいと思ったの。アンドレは・・・あの夜の私の

 姿は嘘っぱちだもの。」アンドレと目を合わせずに、オスカルは言った。

 アンドレが、何も言わずに彼女の前に差し出したのは、ジンフィズ。

 「まずは、飲んでみて。」

 

 私の言った事に何も答えないの?・・・内心そう思いながらオスカルはグラスの

 カクテルを口にした。ライムの香りが口いっぱいに広がった。

 「美味しい。」思わず笑みがこぼれてしまう。

 「ジンフィズのカクテル言葉は『あるがままで。』だよ。君に贈りたい。」

 「あ・・・ええっ?」ほんのり頬を染めたのは、カクテルのせいばかりじゃない。

 「バーテンダーはカッコつけだからね。カクテルで答えた。だけどこれだけは

  いわせてもらう。コットンシャツもジーパンもすごく素敵だ。メガネのせいで、

  君の綺麗な瞳があまり他の男に見られなくてホッとしてるよ。」

 「それじゃアンドレ、ガッカリしないの?その…本当の私に。」

 「本当の君って何さ?どの君も本物じゃん?」

 

 コホン…向こうの席からわざとらしい咳払いが聞こえ、フランソワが遠慮がちに

 「あの・・・モスコとマテイーニ、お代わり欲しいな~なんて。」

 「あ、ごめん。今すぐ作るよ。」カクテルを作りに行こうとするアンドレを、オスカル

 は「待って。」と引き留めた。

 「お友達のカクテルの後で、ぜひ作ってほしいものがあるわ。」

 「ハイ。仰せのままに、マドモアゼル。」

 「あなたのオニオン・グラタンスープをぜひ。私、病みつきになりそうよ。」

 「メルシー、喜んで。」

 

 だって暖かくて、アンドレそのものだもの・・・オスカルはドキドキしながら

 彼の後姿に時めいた。

 

 

 

 

 亀みたいな更新でごめんなさい。