フランス衛兵隊 秋の行軍へGO! | cocktail-lover

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ベルばらが好きで、好きで、色んな絵を描いています。pixivというサイトで鳩サブレの名前で絵を描いています。。遊びにきてください。

  「よーし、諸君。出発しよう!」 艶のある,アルトの声が初秋の緑の中に心地よく響き渡る。揺れる金髪とロイヤルブルーの軍服に続いて、濃紺色の軍服姿の衛兵隊隊員達が歩みを進める。彼らの行軍をねぎらうように、小鳥のさえずりが木々の間から聞こえてくる・・・・。

 事のはじまりは2日前。デスクワークに忙殺されているオスカルとアンドレがいる司令官室に、ダグー大佐が申し訳なさそうに、入ってきた。

「お忙しいところ、大変申し訳ございません。ブイエ将軍からのご命令でございます。 明日からアランクール村までの行軍を行うように、とのことです。」

 この美しいフランスも日々、きな臭くなってきている。確かに無理もない。何も生み出さない3%の特権階級のために、97%の平民とよばれる人々は、日々のパンにすら事欠いているというのに、重い税金を払わなくてはならないのだ。彼らの不満が行動へと移っていくのは当然の事の流れである。しかしながら、国の治安という意味においても、衛兵隊は暴動を未然にふさがなくってはいけないのだ。従って、自分たち軍隊が有事に備えて体力、精神力を養っておく、それはもちろん必要なことではある。しかし・・・面倒なこと、力仕事に加え、ややこしい仕事はなんでも押しつけられる衛兵隊であるにもかかわらず、デスクワークだって、容赦なく降りかかってくる。  現にほら、アンドレだって、朝から、昼食とトイレ以外の休憩は全て返上して、仕事をしてくれているじゃあないか! どうせ、この”ご命令”だって、ビロード張りの豪華な椅子にふんぞり返って暖かいコーヒーでも啜りながら、尊大に下されたものだろうな、フン。

ギリギリと歯ぎしりでもしかねないオスカルの肩に大きな手がそっと添えられた。

「行軍だな? 明日からだよね。用意しておくよ。」 アンドレがニッコリ微笑んだ。オスカルの心を
ふわり、暖かな柔らかいなにかが包み込む。

 今年は暑さもさほどひどくはなく、木々の緑は慌ただしいパリの喧騒をしばし忘れさせてくれる。衛兵隊の隊員たちも、しばし伸びをしたり、不謹慎にならない程度の談笑を交わしながら、行軍は進められていった。
 オスカルとアンドレも昨日までの面倒くさい書類仕事からしばし解放されて、背中をすうっと伸ばしたり、新鮮な空気を胸いっぱい吸いながら歩みを進めていった。

「う~ん、なんだかんだと言っても清々しいな。」
「 ああ、昨日は司令官室に閉じこもってデスクワークだったからな。木立のにおいが気持ちいいよ。」
アランはフランソワと、酒がどうのこうのと、しゃべっている。おいおい、酒は兵舎に戻ってからにして
くれよ。おまえたち。

  普段王宮警備やら、町の小競り合いの仲裁やら、衛兵隊は貧乏暇なし。自然の中を闊歩していると、色々な発見に驚くオスカルだった。例えば自生しているキノコ。いつも屋敷の料理人が料理してくれるものばかり食べている彼女にとって、美しいキノコはまるで可憐な玩具の様だ。

 「これは食べられるものなのか?」オスカルがチョンチョンとつついているのを見て、農家が実家のジャンが顔色をかえて走ってくる。「 隊長!それ毒キノコですよ!触っちゃダメです。かぶれますよ!」
 

アンドレがあわてて、オスカルの指を濡れたハンカチで拭う。
 

一方ではアランが、花を摘んでいる。聞けば、妹のデイアンヌ嬢が好きな花だという。こいつ、花は全く似合わんが、心底、優しい男なんだなあ、とオスカルは嬉しくなってしまうのだった。
 

   秋の夕暮れは早い。まだ、明るさの残る頃、衛兵隊一行は比較的なだらかな緑地がある、アランクール村にたどり着いた。

 「よし、今日はここで野営にしよう。」オスカルの言葉に隊員たちは、やれやれと荷を降ろす。火を起こすもの、水を汲んでくるものと、役割分担もなかなかのもので、オスカルもほうっと心地よい疲労感を感じていた。 ひょいっと彼女のほっぺたにくっつけられるすべすべした感触と、フルーテイな香り。振り向けば、アンドレがニコニコとオスカルの頬に林檎をあてている。オスカルも笑いながら、「メルシ」と林檎を受け取った。
 

 簡素な食事を済ませて、思い思いに疲れを癒して過ごしている隊員たちの耳に、突然、「ボッシャーン!!」と大きな水音が聞こえてきた。そういえば、緑地の向こうには大きな川がある。様子を見に行ったアランとアンドレの叫び声が聞こえてきた。
「子供が川に落ちたぞー!!」
「何だって!?」 オスカルが走っていくと、この数日の雨で増水していた川に、子供が流されようとしている。決してそう深くはない。でも子供の足は届かないだろう。よし、待っていろ。私が今、助けに・・・今にも駆けだそうとするオスカルの肩をアンドレががっしりと掴んだ。

 

「オスカルはここにいろ。俺が行く。」
「フン、俺も行くぜ、アンドレ。どうやら溺れているのは一人じゃないようだぜ。」

「えっ・・・?」
不思議そうなアンドレを尻目に、アランが先にかけっていく。襟高の軍服を脱ぎ捨て、二人は川に入っていった。
 

 「もう、大丈夫だ、坊や。寒くはないかい?」 かろうじて、小島のように飛び出ていた岩につかまっていた子供をアンドレは抱き上げた。その時、”ニャーオ”という鳴き声。ふとそちらを向くと、ぬれねずみ(?)になった子猫をいかつい手で包んでやっているアランがいた。「言ったろ? 溺れているのはガキ一人じゃあ、なかった、ってことさ。」フフン、と得意げなアラン。

 

あ~あ、こういうところが、泣かせるんだよな。こいつの粗野な、優しさが。

アンドレはふっと微笑んだ。

「ぼうや~」 子供の母親が転がるように走ってきた。聞けば、子供が可愛がっている猫が家から抜け出し、それを追いかけて川に落ちたらしい。 ホッとしたアンドレとアランに猛烈な寒さが襲ってきた。
「ハ、ハ、ハックショーン!!!」
無理もない。まだ暖かいとは言え、9月の、それも川に飛び込んでの救出である。母親は感謝のあまり、泣きながら、二人に深々と頭をさげた。「何とお礼を言ってよいのか。あちらにたき火を用意しましたので、ぜひ、暖まって
ください。」
 

  一方、二人を心配してリネンやら、ロープやらを用意して、駆けつけたオスカルたち。「二人とも、大丈夫か!」 彼女の声に振り向くアンドレとアラン。二人は子供の母親がくべてくれたたき火の前で、自家製ホットワインなどいただきながら、すっかりとくつろいでいた。近くの木には二人のシャツがかけられている。

・・・・ということは・・・当然のことながら・・・・二人とも、上半身裸。男所帯の衛兵隊の仲間うちでは、何も違和感がない光景だが、オスカルはしばし、石の様に固まってしまった。そのあと、火に当たっているわけでもないのに、顔を真っ赤にして、その場から立ち去ってしまった。

 「 あの胸に、あのアンドレの胸に、私は平気で顔を埋めていたのか。」オスカルのゴニョニョした独り言はしばし続き、他の隊員達を大いに心配させたのである。

 思いもかけぬアクシデントと、救出劇の後、オスカル1名を除く、隊員ほぼ全員は疲れの中、いびきをかいて寝入ってしまった。なんだかモヤモヤと眠れぬオスカルは、寝袋の中で、一人ため息をつきながら、羊を数えていた。「羊が一匹、羊が二匹、アンドレが3人、アンドレが4人・・・あわわわ・・・」
 

 翌日、心地よい睡眠と、久しぶりの森林浴(それくらいは許されるだろう。)ですっかりリフレッシュした隊員達はトラブルもなく無事行軍を終え、連帯本部に戻ってきた。多少、寝不足とはいえ、今は家族の様に愛おしい隊員達との行軍はオスカルに一時のやすらぎを与えてくれた様だ。
 さあ、これからブイエの所へご報告だ。丁寧に、しかも心の中では舌を出して、たっぷりと礼を言ってやろう。今、アンドレが報告書をまとめてくれている。すまないな、いつも苦労を掛けて、アンドレ・・・・あれ?なんだ、この胸の高まりは・・・

 

オスカルの顔が昨晩の様にぽうっと赤くなった。

 ブイエ将軍への報告も終え、最低限今日のうちに終えるべき仕事も終わった。う~んと伸びをするオスカル。
 

「アンドレ、今日は早く帰ろう。早く帰って、ワインでも飲もう。」 久しぶりに見る、オスカルの嬉しそうな顔に、アンドレの顔も思わずほころぶ。
「わかった。 じゃあ、馬車の準備をしてくるよ。馬車の中のクッションも一つふやしておくから、ゆっくりと眠ればいい。疲れたろ。」くるりと背を向けて、扉の方へ向かうアンドレを呼び止めるオスカル。
 

「アンドレ・・・今日は、馬車の中で、隣に座ってくれないか・・・?」一瞬、ポカンとするアンドレ。そして、たちまち笑顔になって「了解、隊長殿。」

 

ああ、心地よいテノール。部屋を出て行ったこのテノール男を、
いささか切ないような、嬉しいような顔で見送るオスカルだった。

 夜の帳があたりを包む。馬車の中、アンドレが一つふやしてくれたクッションのおかげで、オスカルはふんわりとリラックスして、アンドレにもたれかかる。

 「アンドレ、窮屈じゃないか?」

 「全っ然。クッションが一つ、俺の背中にあててもらえているし、お嬢様がもたれかかってくれるなんて、こんなに、光栄なことはございません。」

 「馬鹿。何を言っているんだ。」 オスカルもアンドレもクスクスと笑いあう。


 本当に馬鹿だったのは、私だよ、アンドレ。こんなにも暖かく、たくましい胸に、今まで何も考えずに顔を埋めていた私だもの。 だってほら、こうしていると、なんだかとっても暖かくって幸せな気持ちになってくるんだもの・・・・・。

 屋敷へ向かう馬車の滑らかな揺れが、二人を心地よい束の間の眠りへと誘う。

 風に乗って運ばれるキンモクセイの香りが、秋の訪れを告げてくれる、優しい夜だった。

      
                  終わり

 

これまた、懐かしいなあ~~~。なんだか大昔に書いたみたいです。