12月25日。クリスマスの夜。
リビングからは明るい笑い声が聞こえる・・・・のだが。
妻(オスカル)の機嫌が悪い・・・とアンドレはさっきから思っていた。俺、何かした?オスカル。俺はお前のためにと思って・・・。
1週間前、オスカルはバツが悪そうに自分に切り出してきた。
「あのね、アンドレ。新婚家庭を視察がてら、クリスマスにワインとケーキ持参で遊びに来るっていう友人がいるんだ・・・。どうしようか。」アンドレはオスカルの顔をじっと見つめてから微笑んだ。
「お前の友達だろう?という事は、俺の友達でもあるんだ。来てもらえば?」
本当は二人でイチャイチャしたかったけどね・・・・。
「いいのか?だって、結婚して二人だけのクリスマス・・・。」すまなさそうにそういうオスカルの金髪をファサっとかき回すとアンドレは言った。「お前の仕事は俺とは違って一人で文字を相手に翻訳をする仕事だもの。友達との交流はすごく大事だと思うぞ。
そうと決まったら、素敵なパーテイ―にするためにメニューも考えないとね。」夫は妻にウインクした。
オスカルはアンドレの首に抱きついて、キスをした。
それなのに・・・・オスカル、なぜおまえは俺をそんな風に睨むのかな?
アンドレは今、デザートに合わせるコーヒーと紅茶の用意をしている。彼の横には何故か、オスカルの大学時代の同級生だというロージーがかいがいしく茶器を並べている。客の一人、なのに、家にきてそうそう、「私、お手伝いしますね。」とマイエプロン持参でアンドレの後を付きまとっている。
「うわあ・・・俺苦手だな、この手の女の子。それに悪いけど、ちょっとそそっかしいんだよな。」確かに、さっきから的外れな事ばっかりしている。その度に謝る彼女に、「大丈夫だよ。人の家のお勝手って、わかりずらいものだよね。」そう言ってはアンドレは彼女に微笑んでいた。
「アンドレ、やっぱり何か怒っているのかな?」友達とのお喋りの合間、オスカルはチラチラと夫の方を盗み見ていた。アンドレがキッチンに入って出てこない。今日のメニューを決めるにあたって、せっかく来てくれるから手料理を、でもそればかりでは向こうだって落ち着かないよね、という事で、宅配ピザプラス手料理、ケーキとお酒はお客持ち。その代りにコーヒーとお茶は気合を入れよう、という結論に達した。その方がアンドレもゆっくりできるしね…そう思ったのに・・・。
「久しぶりの友達なんだろ?ゆっくり話をするといいよ。」そう言ったアンドレはほとんどをキッチンで過ごしているじゃないか。私の自慢の夫だろ?アンドレ。私だって女だ。ハンサムで優しい自分の夫を友人に見せびらかしたい、という可愛い虚栄心ぐらい持っているのだぞ!そのうえなんだ、ロージーは。手伝うとか言って、私のアンドレにベタベタ引っ付いて。アンドレ、お前もお前だ。ロージーは茶碗一つ洗ったことないんだぞ?お前のそばでポカばっかりやってるのに、何で怒らないんだよ!!お前気づいてなかった?結婚式の時、ロージーがお前のことみて、ポ~っとしてたんだぞ?妻のために少しは気を使え~~!」
午後9時。オスカルの友人たちは、お腹もいっぱいになり、夫婦を十分冷やかして上機嫌で帰っていった。「ご馳走様、すごく美味しかったわ。」「ごめんなさいね。新婚さんのクリスマスに押しかけてしまって。」口々に感謝とお詫びと冷やかしを述べつつ、オスカルとアンドレの頬にキスを贈った。
お客を見送った後、アンドレは再びエプロンをつけて、後片付けをしに、キッチンへ向かおうとした。
彼の腕をオスカルがとらえた。「待って・・・。」
「?」怪訝な表情をする、アンドレ。
「アンドレ・・・なんか、怒ってる?」
「え?いや怒ってないよ。・・・ていうか、お前のほうこそなんだか怒っていないか?ときどき 凄い視線を感じていたんだが・・・。」
「怒ってなんか、いないよ!」え?涙目?どうしたオスカル?
「確かにお客がくれば、色々と忙しい事もあるだろうけど・・・私はアンドレに隣に座っていて欲しかったんだ。私の夫は素敵だろうって、少しは惚気たかったんだ。それなのに、アンドレはキッチンに立ってばっかりで・・・それだけじゃないぞ。ロージーがお前にべったりで・・・。彼女が失敗しても、お前はニコニコしてばっかりで。」
アンドレはオスカルの唇にそうっと人差し指をあてた。
「あのさ、オスカル。俺の話を聞いて。女の人って結婚してしまうと自分の友人となかなか会えなくなる、世界が狭くなってしまうって聞いたことがあるんだ。俺はお前にそうなっては欲しくない。そう思って友達との時間を心ゆくまで楽しんでほしかった。でもな、」
アンドレはウインクした。「本当はね、二人っきりでイチャイチャしたかったな。」
そんなアンドレをオスカルは恨めしそうに見た。
「私だって・・・アンドレが”二人で過ごしたいから断って。”って言ってくれるのをどこかで望んでいた。」
アンドレはびっくりした。そして、そんな妻をとても愛おしく思う。
「ちょっと、待ってて。」オスカルをソファーに座らせると、アンドレはキッチンに行き、すぐに戻ってきた。
「アンドレ、これは?」
「何言ってるんだよ、今日はオスカルの誕生日だろ?二人っきりになったら二人だけでお祝いしようと思って用意していたんだ。」
それはトレーに盛られた色鮮やかなチョコレートの包み紙と、ハーフボトルのシャンパン。2客のフルートグラス。
「ゴディバのチョコレート。俺は個人的にシャンパンとこれがすごく合うと思うんだ。オスカル、誕生日おめでとう。」
オスカルの瞳からまた涙が溢れた。
おしまい。
すみません。もうすこしで25日、終わってしまうわ。ドタバタの投稿ですわね。