小さなやきもち | cocktail-lover

cocktail-lover

ベルばらが好きで、好きで、色んな絵を描いています。pixivというサイトで鳩サブレの名前で絵を描いています。。遊びにきてください。

 雲一つなく、目覚めのいい朝。暑くも寒くもなく、本来ならば、絶好のデート日和だろう。ダブルベッドから一足早く起床したアンドレはキッチンで朝食の準備をしていた。

「あ~あ!俺も休みたいなあ。せっかくお前がオフでこんなに

天気のいい日なのに。」スクランブルエッグとベーコンを器用に

二つの皿に盛りつけながらアンドレは残念そうに笑った。

「うん…予定よりも仕事が早く終わってしまって、今日一日がポッカリと体が空いてしまった。私もアンドレと二人で一日中イチャイチャしたいな。」コーヒーサイフォンのサーバーに、ポコポコと焦げ茶色の液体がおりてくるのを見ているふりをしながら、オスカルはチラッチラッとアンドレを上目遣いで見ていた。・・・まったく、こんなセリフがヌケヌケと言えるようになるとはな、と自分の変化にとまどい、喜んでいる。

「でも、特にこれといった行事もないからなるべく早く帰ってくるよ。久しぶりに外食でもしようか。」アンドレはそう言うと彼女の額に唇をあて、仕事にでかけた。

「さて・・・と。」思いがけずオフになったオスカルはコーヒーをもう一杯、今度はゆっくりと味わった。それから部屋の中をぐるりと見回す。

今日は原稿を持って行く前に部屋の片付けをしよう。アンドレの荷物ももっと広々と置けるようにスペースをつくってあげないとね。

 アンドレが借りてある部屋に荷物を置いてあるとはいえ、細々したものや、彼のお気に入りのCDやDVD、本なんかはこっちに持ってきてある。それらは邪魔にならないよう、部屋の隅にコンパクトに置かれている。

まずは洗濯。床はお掃除ロボットにお任せして、自分はキッチンの油汚れなどを掃除した。決して掃除機をかけるのがいやなのではないが、まん丸いお掃除ロボットが部屋を動き回る姿が何とも愛らしくってオスカルは気にいっていた。掃除が終わると、捨てるものと捨てないものを選別し、自分の収納スペースの一角を完全に空にした。よし・・・オスカルは部屋の一角に置かれている彼のCDや本の山をチラリと見た。・・・私が収納してもいいよな・・・。

彼の音楽の趣味は多彩で、ジャズからクラシック、最近はJポップまで聞いている。オスカルも時々、好きな曲をリクエストするほどだ。彼女がこれらをさわって怒り出すようなアンドレではないだろう。気に入らなければ自分で置き換えるだろうな・・・それくらいの軽い気持ちで、オスカルは彼の本やCDを空っぽになったスペースに置き始めた。

はらり、と何かが数枚ひらひらと床の上に落ちた。

「?」何気なくひろったオスカルは自分の周りの空気がすうっと冷え込んでくるような気がした。

写真だった。アンドレが女性と仲睦まじく写っている写真の数々。

「リザ・・・さん。なんて綺麗。」彼女がアンドレの元カノで、最後にオスカルが見た時、彼女はまだアンドレを愛していたことは女の勘でわかっていた。でも彼女は実に潔く彼と別れた。

もう今は、アンドレは私のものだ。

この写真だって、ずいぶん前のものじゃない・・・でも、オスカルの

心は揺れた。二人が楽しそうに写っているその姿は恋人同士そのものだったから。過去に嫉妬するなんて、私はなんて嫌な女なんだ、と自分に言い聞かせるのだが、そのエゴに抗うことができない。オスカルの瞳から涙がつう・・と流れ落ちた。

時刻はすでに1時を過ぎていた。

オスカルはアンドレの荷物に触ることがこわくなった。そして、早めに家を出た。食欲なんて微塵もない。そうだ、出版社まで歩いていこう。そうすればちょうどいい時間に、あっちにつくはずだ。

オスカルは歩きやすい靴を選んで外に出た。

 

出版社。

オスカルの向かいに座っているのは、編集者ジャンヌ。

「それでえ?彼氏と元カノの写っている写真を見て動揺した・・と。

あんたもねえ・・・。」そう言ってジャンヌは自販機で買ったアイスココアをオスカルの前においた。「お子ちゃまはココアで十分です!」

そして自分はブラックコーヒーを前に煙草を美味しそうに吸った。

「…何もそんなことでアンドレを嫌いになったりはしないさ。」オスカルはココアを一口飲むとジャンヌの方を見た。「だってもう、今は私と・・・。」それを遮るように、ジャンヌは口を開いた。

「あのねえ、オスカル?あんたにも元カレはいたでしょ?リザって人も、あんたの元カレも存在したからこそ今があるのよ?い~い?どのピースが欠落したって歴史は微妙に変わるんだからね。

大体ね、30になるっていう男がよ?何にもなかったです、なんて言ったら私ならパスだわ。しっかりしなさいよね、まったく。」

オスカルの小さな、でも深刻な心の病にはジャンヌはまさに名医だった。

「ささ、もう原稿はいただいたからさ、今日はお帰りなさいよ。たまには彼のためにきわどいランジェリーでも着て、お迎えしてみたら?」ジャンヌの暖かくきわどいエールを受けて、オスカルは早々に出版社を出た。空はまだ明るい。

「まだ、あの部屋に戻る気はしない。」

オスカルは足の向くままてくてくと歩いた。そして、

気が付くと、アンドレのアパートの前に来ていた。

 

 

続く。

 

またしても通販雑誌から服はパクりました。