先日お伝えしていた、ベルばら現代パロ、ぽつぽつと始めさせていただきます。舞台は21世紀のフランス。ゆっくりの更新となりますが、どうぞお付き合いくださいませ。
彼の朝
”ピピピピ…”鳥のさえずりのような、アラームの音。アンドレは目をパッチリと覚ました。ベッドの上でう~んと伸びを1回。それからカーテンをさっと開けて、彼の1日が始まる。今日は快晴、月曜日。
「天気がいいな。今日は子供達を外でうんと遊ばせて、たっぷり
昼寝をさせようかな。」熱いシャワーをあびた後、ブラックコーヒーとデニッシュを食べながら、今日は何をして子供達と遊ぼうか、とアンドレは考えていた。
アンドレ・グランデイエ、保育園の保育士。
パリ近郊で生まれた彼は、両親、祖母マロンの4人で彼女の家で暮らしていた。彼が5歳の時、両親は不慮の事故で亡くなってしまった。両親は多額の生命保険に入っていたので、生活のレベルが激変する、ということはなかった。マロンは昔気質の真面目な人柄で、孫に対しては決して甘やかすという事はないが、正しく叱り、正しく愛情を注ぐ女性であった。彼女は広い家の一角を小さな保育所として開放しており、彼女自身が園長と給食のおばさんを兼任していたのである。したがってアンドレは保育園の中で他の近所の子供と共に園児として育てられた。3時のおやつには祖母のつくった焼き菓子やら、煮林檎を同年代の子供と一緒に頬張って、そこそこ楽しい時間を過ごすことができた。そうやって幼年時代を過ごした彼は、実に伸びやかに成長し、いつかマロンに恩返しをしたいと考える心優しい青年になった。
大学進学にあたっては、アンドレは迷わず教育学部の保育科を目指すことにした。自分が両親を早くに亡くしたにも関わらず、ひもじい思いも、切ない思いもせずここまでこれたのは、祖母のおかげだ。彼女が仕事として行ってきた「保育」という仕事に就くことで
マロンに恩返しをしようと心に決めていたのである。
アンドレは進路を決めた高校3年生の頃から、アルバイトをはじめた。親の遺産はまだ安心できるほどには残っていたが、少しでも祖母に残してあげたかった。奨学金と、自分のバイト代で、何とか一人で生活しやってみようと思ったのだ。それでも、彼女が風邪でもひいた時、すぐに駆けつけてあげられるように、実家のすぐそばに部屋を借りることにした。
夜は洒落たワインバーになるカフェで、アンドレはギャルソンとして働いた。持ち前の器用さと、甘いマスクのせいで大学4年の頃には彼目当ての女性客が随分と増えた。店のオーナーは、ぜひともソムリエの資格をとって店にこのまま残って欲しい、と彼に打診したのだが、アンドレは丁寧に辞退し、当初の予定通り、保育士の試験を受けて見事合格した。そして、
彼は今、パリ中心部にある大きな保育園に勤めている。
保育園に到着するや否や、長身の彼には少なくとも2,3人の園児が抱き着いてくる。”アンドレ、抱っこ”
”アンドレ、ボールが高い所に飛んでいっちゃった。”などなど、口実をつけては彼の背中に這い上ってくる子供達。小さな子供たちのリクエストは千差万別。アンドレはなるたけ体力勝負のパートを受け持ち、細かい繊細な部分を女性の同僚にお願いするようにしていた。こうして毎日が目まぐるしく過ぎていった。
その日の夕方。全ての園児が帰宅したのち、全保育士を集めて園長によるミーテイングが行われた。その中で園長はある提案をした。「ご父兄から聞くところによると、最近、子供たちはスマホゲームや、テレビゲームで遊ぶことが大半だそうです。私はそんな時代だからこそ、活字や絵、といった、紙媒体を大切にしていかなくてはと思っています。そこで私は各方面からの情報をもとに、
絵本を何冊か集めてみました。皆さん、自由な発想でこれはと思う絵本を選んでみてください。良いと思うものを購入して、園のプレイルームに設置しようと思います。」
園長はあちらこちらから集めた色鮮やかな絵本を机一杯に並べた。その中には今年度の大手出版社主催の童話翻訳コンクールで入賞した絵本も混じっていた。
「小さな天使達のかくれんぼ」・・・それが入賞した絵本だった。アンドレはまるで吸い寄せられるように、その本を手に取った。
続く。
注) フランスの保育園事情は日本とはだいぶ異なり、これと言って行事とかもないようです。お話しの流れとして、日本の保育園に近しい感じで書いてしまいますが、そこはあくまでもフィクションとして、大目にみてください。(;^ω^)
