土曜日の朝、オスカルが住むマンションを満面の笑みで訪れたのは、彼女の同僚であり、
恋愛バブちゃんのオスカルの尻をやたらと愛のムチで引っぱたいてくれる親友のジェシー。
「おはようオスカル・・・・てか、あんた何をまたそんな小難しい本を読んでるのよ!」
そう言いながら「あ~重かったわ!」とたくさんの煌びやかな紙袋を無造作に床に放り投げた。
まるで嵐のような、この親友の来訪の様子をオスカルはアホ面をして見ている。
「あ・・・の、ジェシー?遊びに来るのは全然いいんだけどその荷物・・・なんなの?」
フローリングの床を埋め尽くさんばかりのブランドショップのペーパーバッグの数々に
目を丸くしながらオスカルは質問したところ、ジェシーはハアア~?と情けなさそうな
顔でオスカルの顔を覗き込んだ。
「お肌の艶は・・・うん、昨夜手入れすらしてない様だけどなんとかなるな。コンタクト
レンズはあるから良い。それと・・・ネイル、ドレス、勝負下着・・・ふんふん。」
「ひっ!し、勝負下着って何の事、ジェシー!!!」
ビビりまくるオスカルに一喝するジェシー。
「おだまり!オスカルあんた、明日の夜彼の店に招待されてるんでしょ?もう、あと
24時間とちょっとしかないじゃん!この限られた時間で私はあんたをツルツルに磨きあげてあげるんだから覚悟しなさいよ!」
「ええっ!だって、アンドレは『素のままのオスカルが素敵だよ。ラフな格好だって君の
美しさを引き立てる。』って言ってくれたからパーテイ―はラフな格好で・・・。」
ジェシーはまるで、出来は良くないけど可愛くて仕方がない娘を見るような眼差しで
彼女を見た。オスカルから聞いていたアンドレの店、「レストラン・ア・ラ・ベスク」は
確かにかつては老夫婦が営むアットホームな町の洋食屋だったと父からは聞いている。
だけど最近のあの店は、その料理のクオリティ、良心的な価格、それに加えとびきりの
イケメンがシェフだともっぱらの噂で、客層も昼間は家族連れや若いママ友が多いけど、
夜にはちょっとドレッシーな女性客やカップルが増えつつある、と日本の食べログに
当たるグルメサイトに書かれていたのを、ジェシーはすでに事前調査していた。
”何でも女性客の多くは、イケメンシェフ目当てに通っています。”
とご親切なあとがきまで書いてあったものだから、ジェシーは心配しているのだ。
オスカルが招待されているのは「ア・ラ・ベスク40周年アニバーサリー」と銘打った
立食パーティーだそうだが、常連の、特に女性客はチャンスとばかりにドレスアップ
してくるはずだ。オスカルは絶対にそこんところリサーチしてるわけない!いや、この
恋愛バブ娘はへっちゃらな顔でブルージーンズでもはいていきかねないわ。
ここは恋愛マスターの私としては親友の恋の成就を助けてやらないと。
いや…尻を引っぱたいてやらないと!
「オスカルあのさ、憎からず思っている女に『ラフな格好で』って言っている時は
『綺麗にしてきて。俺の自慢の彼女だもん。』と同義語なの、わかる?」
多少のハッタリはしょうがないよな、とジェシーは続ける。
「いい?あんたはアンドレの為にも明日の夜、ドレスアップするべきなのよ。わかる?」
ジェシーの気迫に圧倒されたオスカルはじりじりと追い詰められて
「そ、そういうもんなの?私これで出かけようかと・・・。」ともじもじと壁を指さした。
そこに掛かっていたのはなるほど、カルバンクラインのジーンズにシルクタッチの
ブラウス・・・一応それなりに考えてたのね。
だけどオスカル、詰めが甘いわね。心配しないでそんなあんたの為に私は来たのよ。
「努力は認めた。さあそれじゃあオスカル、まずはお風呂ね。それから入念にスキンケア、
ネイル。あんたをドレスアップするために私は昨夜、ブランドショップとコスメブテイックを
梯子したんだからね。この友情を無駄にしたらもう職場で口きいてやんないんだから。」
この優しく、勝ち気な親友のこの勢いに勝てるわけないな・・・
