琵琶青山 

「経正が討たれたのか・・・琵琶の名手であったに・・・」

船上の平家の総帥・宗盛は言葉を失った。
続々と知らされる敗戦の実態を目の当たりにして。

但馬前司平経正は、河越重房に討ち取られたという。
経正は琵琶の名手として知られ、都落ちに際してそれまで所持していた名器「青山」を
仁和寺の守覚法親王に返還したのだった。

平師盛(もろもり)は、敗走の途中で畠山重忠の郎党・本田次郎親経に討ち取られた。

越前三位平通盛は、湊川のあたりまで逃げたものの、近江の佐々木俊綱と
武蔵国の玉井四郎資景ら7騎に取り囲まれ、討死。

平業盛(なりもり)は、常陸国の土屋五郎重行兄弟に討ち取られた。

平知章(ともあきら)は、児玉党の大将が父知盛に組み付こうとしているのを見て、
監物頼方とともに割って入り、その敵の大将は討ち果たすものの、駆けつけた童武者に
頼方とともに首を取られたのだった。

子は死に、父は生き残った。

「重衡は生け捕りになったか・・・」

本三位中将平重衡は、明石の浜で梶原景季と庄四郎高家によって生け捕られた。

斥候からの敗戦の報告に、船上の宗盛は渚にうつろなまなざしを落とした。