「組曲 約束の地」あるいは、「iPod」に関する或る提案
アップルコンピュータから新製品「iPod nano」が発売された。大きさ90x40mm、薄さわずか6.9mm、重さもたったの42gで、最大4GBの容量、鮮明なカラーディスプレイ付、14時間連続再生可能、色は白黒いずれか選択可能という魅力に満ちた音楽プレイヤーである。
私はこれまで「iPod shuffle(1GB)」でそこそこ満足して来たが、ミュージカルのST、プログレシブロック、あるいは長大なクラシック音楽などを好んでダウンロードし、また最近ではPodCastingの利用度も高まりつつある身としては、「iPod nano」(4GB)に魅了されずにはいられない。
昨今ときおり回ってくる「ミュージカルバトン」なるチェーンメールには、「いまコンピュータに入ってる音楽ファイルの合計サイズ」「現在聞いている曲」「よく聞く、または特別な思い入れのある5曲」といった設問があるが、それに答えるならば、PC上にはまさに4GBほど音楽ファイルが収納されており、よく聞くのはミュージカルものでは『SHIROH』『レミゼラブル』『WICKED』『SPAMALOT』のアルバム、そしてYES『海洋地形学の物語』『リレイヤー』、Hatfields&The North『Rotter's Club』、MAGMA『Mekanik Destruktiw Kommandoh』などなど。これらは同時に思い入れも相当に深いゆえ、「iPod shuffle」にも落として移動中などによく聴いている。
なかでもそのトップに君臨しているのが、(例によって)ミュージカル『SHIROH』、その冒頭ナンバー「組曲 約束の地~いんへるの~」という10分近くある大曲である。作詞:中島かずき&いのうえひでのり、作曲:岡崎司。この曲が素晴らしいのは、組曲形式であること。しかしその要素がバラバラに離れていず、連続性があること。それでいて、リズムやテンポ、調の変化が豊かであること。
当初、琵琶法師姿の山田寿庵=高橋由美子がアコギの伴奏でゆっくりと儚げに諸行無常の調べを歌い出す。そこにベース音が滑り込むや、徐々に声質に力強さが増されてゆき、遂には劇的な幕開けを導くと同時に、洪水のようなロックの大音響が炸裂!ほどなくして7拍子のスピーディーなヘビィメタルサウンドに転じ地獄の混乱が描かれた後、切支丹目付・津屋崎主水=池田成志による8分の12拍子のロッカバラードに切り替わり残酷無比な弾圧ソングを歌う。そこに現れるお福(益田四郎の姉)=杏子が「まだ諦めるな!」とスピーディなハードロック調で歌いはじめたかと思うと、やがて「あの言葉を~、雲が焼ける、空が焼ける」でスロウかつソウルフルなバラードへ移行、続いて「サンタマリア、ゼズス・キリースト~」という農民たちの合唱も加わり、荘厳な雰囲気が宗教的高揚感と共に拡がる。そこに四郎=上川隆也が登場し、「人は人を裁くことはできない」というメッセージを、慈悲慈愛に満ちた歌声でしっとり歌う。この時、コーラスセクションが繊細な美しさで「罪を決めるのは人ではない、父なるデウス」と四郎=上川のメロディを追うところは絶品である。そのままたちどころに農民たちは四郎=上川を「あなたこそ天の御子」と再び荘厳なコーラスで崇め始め、そのとき映像上には光り輝く十字架が上昇し、この上なく感動的なタイトル文字が立ち現れる……。
ここに登場する個々の楽曲の素晴らしさ、それはアンドリュー・ロイド=ウェバーやクロード=ミッシェル・シェーンベルグ、ステファン・シュォルツなどに比肩しうるものと個人的に思っている。しかも、この変化や起伏に富んだ、怒濤のドラマチック曲展開、これはもはや、ほとんど、私の愛するプログレシヴロックそのものである。また、この数曲後に聴かれることになる『我らの御魂をはらいそに』は、杏子のほどよくザラついた声質のメインボーカルと合唱団により悲痛な祈りが歌われた後、リオ=大塚ちひろが「儚く澄み渡る心」という、美の極みともいうべき調べを歌う、つまり私が泣けて泣けて仕方ないと過去に書いた例のナンバーが登場するのである。この傑作、作曲は岡崎司、そして作詞はなんとデーモン小暮閣下なのである。地獄の使徒のデーモンが、こんな胸に迫る歌詞を書いたのか、というか、悪魔は堕天使だからこそそういうことが書けるのかもしれないが、いずれにせよ感慨深いことだ。デーモンを改めて見直した。
と、まあ、こんな楽曲を好んで「iPod shuffle」で聴いている次第である。以前にも書いたが、『SHIROH』の曲を聴いていると、気分はすっかりクリスチャンとなる。そんなとき、私が求める、私の考える「iPod」とは、「iPod クルス」または「iPod ロザリオ」というべきものだ(わたしの作成したイメージ写真参照のこと)。十字架状の真白きiPodである。
両翼に突き出た部分の中には、それぞれ1GB相当のメモリが格納されており、左+右+中央で合計3GBの容量を有する。この「iPod クルス」の中には、『SHIROH』や『ジーザスクライストスーパースター』、あるいは一連のゴスペルソングや聖歌など、信仰に関係した音楽ばかりを入れる。また、どれか一つのメモリには、福音書の朗読が完全に収納されている。それを、首からぶらさげたい。
遂に「iPodと携帯電話の融合」を発表したスティーヴ・ジョブズに、今度はこの「iPodとロザリオの融合」という画期的なアイデアを届けたいと思うが、いかがであろうか。かつてスティーヴ・ジョブズは、アップル社を当時のジョン・スカリー社長に追放され、NeXTなる高性能コンピュータを立ち上げた際、そこにウェブスタの英英辞典&逆引辞典、オクスフォードの引用辞典と共に、なんとシェイクスピア全集をも、標準バンドルさせたのである。その発想の延長上に、聖書朗読音源を「iPod クルス」に格納させることは自然な流れといえはしまいか。あるいはこの話、先にローマ法王庁に持ちかけてみるという手もあるかも。バチカン市国の独占的土産物にするとかね。
